乙事の諏訪社とは ― 上社本宮から移された幣殿・拝殿

諏訪社(乙事諏訪神社)は、長野県諏訪郡富士見町乙事にある神社で、元和3年(1617年)に諏訪大社上社本宮の社殿として建てられ、江戸時代後期にこの地へ移された拝殿・幣殿の2棟が昭和5年(1930年)に指定を受け、現在は重要文化財となっている。

乙事は「おっこと」と読む。八ヶ岳の南西麓に広がる富士見町の集落の一つである。町は社名を乙事諏訪神社として紹介しており、文化庁データベースの名称は「諏訪社」である。

重要文化財は拝殿と幣殿の2棟で、どちらも元和3年(1617年)の建築とされる。拝殿は一間四方の向唐破風造、幣殿は正面一間の切妻造で、ともに銅板葺である。幣殿の背後には覆屋に納めた本殿があるが、これは指定の2棟とは別の社殿で、町の有形文化財に指定されている。地元の案内では文政2年(1819年)の建築とされる。

指定の理由と価値 ― 古い上社の姿を伝える社殿

日本歴史地名大系によれば、乙事の諏訪社の拝幣殿は棟札写に元和3年(1617年)とあり、諏訪の大工棟梁原五左衛門親成が諏訪上社の拝幣殿として造ったものである。諏訪大社も、元和3年に諏訪頼水が地元の宮大工に命じて再建した上社本宮の旧社殿が、乙事の諏訪神社へ移ったと説明している。

移築の時期は、天保年間に上社本宮で社殿の建て替えが始まったあとである。旧社殿の払い下げが嘉永2年(1849年)に認められ、町の紹介では同年に拝殿、4年後に幣殿を移したという。現在の上社本宮の幣拝殿は天保期に立川流が建てたもので、つまり乙事の諏訪社には、その一つ前の世代の上社の姿が残っていることになる。

諏訪社の拝殿と幣殿は、本殿を設けない諏訪独特の社殿形式を伝える例として、昭和5年(1930年)5月23日に当時の国宝保存法による指定を受けた。文化財保護法の施行後は重要文化財として扱われている。諏訪市博物館は、全体を桃山風の洗練された建築とし、なかでも幣殿正面の2枚の扉をもっとも見事な部分に挙げる。

昭和23年(1948年)4月には、境内の舞屋から出た火が覆屋などに燃え移った。町が紹介する町史の記述では、拝殿と幣殿は全焼をまぬがれたものの柱や梁の表面が炭化し、彫刻の彩色も落ちた。地元の人々の努力で昭和25年(1950年)に復元工事が完成し、炭化した部材も生かされている。

乙事の諏訪社の見どころ

幣殿の扉と脇の彫刻

諏訪社でまず見たいのは、拝殿の奥に一段高く建つ幣殿の正面である。両開きの扉は格狭間に細かな組子を入れた桟唐戸で、火災のときに持ち出されたものの大破し、復元工事で直された。扉の左右や脇障子にも彫刻が施され、小さな建物ながら装飾は細かい。

向唐破風の拝殿

拝殿は一間四方とごく小さいが、正面に向唐破風を構えて重厚な印象を与える。上社本宮の現在の拝殿と同じく向唐破風造である点に注目すると、天保期の建て替えでも正面の構えが受け継がれたことが分かる。

本殿を持たない形式

上社本宮は幣殿の奥に本殿を置かず、神体山を拝する。乙事に移された拝殿・幣殿も、この本殿を設けない形式の社殿として評価された。背後の覆屋の本殿は、地元の案内では昭和25年(1950年)に別の社から移されたものと伝わる。指定の2棟とは年代も由来も違うことを頭に置いて眺めたい。

乙事の諏訪社の見学方法

諏訪社は乙事区が守る地域の神社で、境内への出入りに料金はかからない。拝殿・幣殿の内部公開の案内はなく、外から見る形になる。常駐の神職がいるかは確認できていないため、訪問前に富士見町へ問い合わせておくと安心である。撮影の可否について町や神社の公式な案内は見当たらないので、祭礼などで地元の人が集まっているときは声をかけてからにしたい。

所在地は富士見町乙事5410。JR中央本線の富士見駅から東へ直線で約2.5キロあり、車かタクシーで向かうのが現実的である。町の観光ページは住所と社の由来を紹介している。

Q&A

Q乙事の諏訪社で重要文化財になっているのはどの建物ですか?
A拝殿と幣殿の2棟です。どちらも元和3年(1617年)の建築とされ、昭和5年(1930年)に指定を受けました。背後の本殿は町の有形文化財です。
Q乙事の諏訪社の社殿は諏訪大社とどんな関係がありますか?
Aもとは諏訪大社上社本宮の拝殿・幣殿として元和3年(1617年)に建てられたものです。天保期の建て替えで不要になった旧社殿の払い下げが嘉永2年(1849年)に認められ、乙事へ移されました。
Q乙事の諏訪社は火災に遭ったのですか?
A昭和23年(1948年)に舞屋からの出火で被災し、拝殿と幣殿は表面が炭化しました。昭和25年(1950年)に復元工事が完成しています。
Q乙事の諏訪社は見学できますか?料金は?
A境内への出入りに料金はかかりません。拝殿と幣殿の内部公開の案内はなく、外観を見る形になります。訪問前に富士見町へ問い合わせておくと安心です。
Q乙事の諏訪社へはどう行けばよいですか?
AJR中央本線の富士見駅から東へ直線で約2.5キロです。駅からは車かタクシーを使うのが現実的です。所在地は富士見町乙事5410です。

基本情報

名称諏訪社(乙事諏訪神社)
所在地長野県諏訪郡富士見町乙事5410
指定区分重要文化財(建造物)
指定年昭和5年(1930年)
員数2棟
寸法拝殿 桁行1間・梁間1間、幣殿 正面1間
所有者諏訪社
公開状況境内は参拝可・無料(外観のみ、内部公開の案内なし)

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁):諏訪社 拝殿
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/988
国指定文化財等データベース(文化庁):諏訪社 幣殿
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/989
文化遺産オンライン:諏訪社 幣殿
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/199919
富士見町:乙事諏訪神社(おっことすわじんじゃ)
https://www.town.fujimi.lg.jp/page/otukotosuwajinjya.html
富士見町:富士見町の指定文化財
https://www.town.fujimi.lg.jp/site/toukei/somu-kikaku-09-12.html
おらほー!富士見:乙事の文化財から人々の暮らしぶりに想いを馳せる(富士見町史の引用を含む)
https://oraho-fujimi.jp/culture/okkoto-cultural-property-walk.html
諏訪市博物館 すわ大昔情報センター:乙事諏訪神社
https://suwacitymuseum.jp/nandemo/koumoku/1300/130205.htm
信濃國一之宮 諏訪大社:諏訪大社上社本宮
https://suwataisha.or.jp/about/miyamori/kamishahonmiya/
コトバンク(日本歴史地名大系):乙事諏訪社
https://kotobank.jp/word/%E4%B9%99%E4%BA%8B%E8%AB%8F%E8%A8%AA%E7%A4%BE-3058475

最終更新日: 2026.10.04

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