境内でいちばん古い建物
佐久市蓬田の八幡神社で、参道の正面に向き合って建つ社殿がある。境内でいちばん大きいわけでも、彫刻がいちばん豪華なわけでもない。ただ、いちばん古い。延徳3年(1491年)に造られた高良社本殿で、もとは八幡神社の本殿だった建物である。
八幡神社が鎮座するのは、旧中山道の八幡宿があった場所。中山道六十九次のひとつで、参勤交代の大名行列や旅人、商人が行き交った宿場である。蓬田という地名の「八幡」は、この神社に由来すると伝わる。
天明3年(1783年)に新しい本殿と拝殿が建てられたとき、旧本殿は取り壊されず、境内社の高良社として役目を変えて残された。祭神は高良玉垂命。この神については諸説あり、武内宿禰とする説がある。役目は変わっても場所は変わらず、15世紀の建物がそのままの姿で今日まで伝わることになった。
領主の謝意から建てられた社殿
この社殿は、ひとりの人物とひとつの恩義に結びついている。望月の領主・滋野遠江守光重が、望月御牧の知行を許されたことを謝して八幡宮を造営した、と伝わる。望月は古くから朝廷に献上する馬の産地として知られ、周辺の村々はこの八幡神社を総社として仰いだ。
神社そのものの草創はさらに古く、貞観元年(859年)に滋野貞秀が勧請したと伝わる。鎌倉末期成立の『吾妻鏡』にも当社のこととみられる記述があり、武士の信仰を集めていた。ただし、その長い歳月のなかで現物として残るのは、延徳3年の社殿である。
重要文化財(建造物)に指定されたのは昭和17年(1942年)12月22日。造営や修理の年代と経緯を記した棟札5枚が、建物とともに同じ指定に附せられている。延徳3年という年代を様式からの推定ではなく確実な事実として語れるのは、この棟札があるからだ。
見どころ
高良社は三間社流造。正面の柱間が三間あり、流造の屋根が背面よりも正面側へ大きく延びる形式で、横から見ると前後の不揃いがよくわかる。屋根は瓦でも銅板でもなく、薄く割った板を重ねたこけら葺で、建物の年代と規模によく合っている。
柱から梁が突き出す部分の細工に目を留めたい。木鼻の絵様、軒下を支える手挟には、室町後期の意匠が刻まれている。専門家がこの社殿の年代を目で測るとき、まず指し示すのがこうした細部である。
気づいた人だけが楽しめる小さな謎もある。旧参道は西から続いていたため、高良社はその旧参道に正面を向けており、結果として現在の参道とも正対している。一方、後に建てられた現在の本殿は東を向き、参道に対して斜めに構える。境内の中ほどに立つと、二つの建物の向きの違いに、二つの時代が読み取れる。
八幡神社の境内と旧街道
高良社の建つ境内には、江戸時代の年代がはっきりした建物が一通りそろう。瑞籬門は宝永5年(1708年)、本殿と拝殿は天明3年(1783年)、随身武者を据えた随身門は天保14年(1843年)の建立。近くには諏訪社や厳島社の小祠も並ぶ。
額殿には、天明元年(1780年)に奉納された算額が掛かる。和算家が問題とその解法を額にして奉納したもので、長野県下で最古の算額といわれている。この境内が信仰の場であると同時に、地域の人々が学びを持ち寄る場でもあったことがうかがえる。
八幡神社は、佐久平に点在する中山道の宿場を巡る道すがらの立ち寄り先としてもよい。蓬田の集落は北陸新幹線の佐久平駅から車でおよそ15分。東京と日本海側を行き来する旅の途中に、無理なく寄れる距離にある。
Q&A
- 高良社本殿とは何で、なぜ重要なのですか。
- 八幡神社のもとの本殿で、延徳3年(1491年)の建立。後に境内社の高良社として残されました。年代の明らかな室町後期の社殿が当初の姿で伝わる点が評価され、昭和17年(1942年)に重要文化財に指定されています。
- いつ、誰が建てたのですか。
- 延徳3年(1491年)の造営で、望月の領主・滋野遠江守光重によると伝わります。望月御牧の知行を許されたことへの謝意から八幡宮を造営したとされています。
- 近くで見ることはできますか。
- 社殿は境内に建ち、参道から外観をいつでも拝観できます。指定文化財のため内部には立ち入れません。外観を眺め、立入を制限する柵やしめ縄がある場合はそれに従ってください。
- 「三間社流造」とはどういう意味ですか。
- 正面の柱間が三間ある社殿で、屋根は流造。流造は神社本殿で最も一般的な形式で、正面側の屋根が背面より長く延び、入口を覆う形になります。
- ほかに見ておきたいものはありますか。
- 天保14年(1843年)の随身門、天明3年(1783年)の本殿・拝殿、そして県下最古といわれる天明元年(1780年)の算額。周辺の中山道の宿場を歩く散策とも相性がよい場所です。
基本データ
| 名称 | 八幡社境内神社高良社本殿(旧八幡社本殿) |
|---|---|
| 所在地 | 長野県佐久市蓬田101-1 |
| 所有者 | 八幡神社 |
| 指定区分 | 重要文化財(建造物) 昭和17年(1942年)12月22日指定 |
| 年代 | 延徳3年(1491年)/室町後期 |
| 構造・形式 | 三間社流造、こけら葺 1棟 |
| 附指定 | 棟札5枚 |
| アクセス | 北陸新幹線・佐久平駅から車で約15分 |
| 公開状況 | 境内から外観を拝観可(内部非公開) |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/976
- 文化遺産オンライン(文化庁)
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/185126
- 八幡神社と高良社(佐久市公式サイト)
- https://www.city.saku.nagano.jp/kanko/kanko/townguide/temp/yawata.html
- 八幡神社(佐久広域連合 観光サイト)
- https://www.areasaku.or.jp/kankou/spot/21636.html
最終更新日: 2026.06.04