金剛山のふもと、近内の庄屋屋敷

藤岡家住宅は、奈良県五條市近内町にある江戸時代以来の庄屋屋敷で、寛政9年(1797年)の内蔵から明治45年(1912年)の新座敷までの10件が、平成18年(2006年)3月2日に国の登録有形文化財に登録された。五條市北部、北宇智と呼ばれる金剛山の奈良県側の山麓にあり、屋敷の北西には金剛山の稜線が近い。

近内は、南大和から金剛山を越えて大坂へ抜ける道の入口にあたり、人の往来が多い土地だった。藤岡家の当主は「大坂屋長兵衛」を名乗った。初代の長兵衛は寛政元年(1789年)から4年(1792年)まで近内村の庄屋を務めたとされ、庄屋のかたわら両替商・質商・薬種商・紺屋を営んだと伝わる。村をまとめる家であり、同時に商いの家でもあった。

近代に入ると、この家から藤岡長和が出た。内務官僚として佐賀・和歌山・熊本の県知事を歴任し、玉骨(ぎょっこつ)の号でホトトギス派の俳人としても活動した人物である。与謝野鉄幹・晶子、高浜虚子、森鴎外らとの交流が知られ、屋敷には文人たちの書簡や写真が残されていた。号の「玉骨」は、中庭の古い紅梅にちなんだと玉骨自身が書き残している。

玉骨の没後、屋敷はやがて空き家となり、20年以上人の住まない状態が続いて建物の傷みは深刻だった。関東に住む現当主が費用を負担しておよそ3年をかけて修復し、地元の大工・左官・瓦職人・表具師がその工事を担った。管理と運営は五條市民によるNPO法人うちのの館が引き受け、平成20年(2008年)11月に一般公開が始まった。現在は地域の資料館として、藤岡家の生活用具や文人資料を季節ごとに入れ替えて展示している。

10件の登録と、115年にわたる建て増し

登録されたのは主屋・内蔵・別座敷・離座敷・新座敷・渡廊下・米蔵・薬医門・築地塀・塀の10件で、登録番号は29-0097から29-0106まで続いている。建物ごとに登録を受けるのが登録有形文化財の仕組みであり、藤岡家住宅という1件の指定があるわけではない。

適用された登録基準は二つに分かれる。主屋・内蔵・別座敷・離座敷・新座敷の5件は「造形の規範となっているもの」、渡廊下・米蔵・薬医門・築地塀・塀の5件は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」として登録された。住まいと接客の中心になる建物が造形の面で、屋敷を囲み、つなぎ、支える建物が景観の面で評価された、という分かれ方である。

建築年代を並べると、屋敷の育ち方が見えてくる。最古は寛政9年の内蔵、次いで天保3年(1832年)の主屋。嘉永6年(1853年)に別座敷が建ち、離座敷・築地塀・塀は江戸末期とされる。明治に入ってからは明治25年(1892年)の米蔵、明治29年(1896年)の渡廊下、明治後期の薬医門、そして明治45年の新座敷が加わった。内蔵から新座敷まで、およそ115年の建て増しの積み重ねが1つの屋敷になっている。

屋敷の配置と歩く順序

屋敷は街路が交わる角地を占める。主屋は東の街路に正面を向け、北側も道に面している。訪れた人はまず東の通りに立ち、主屋の正面と、その南に続く内蔵の妻、さらに南の薬医門を一続きに見ることになる。薬医門から南へ折れて敷地の南辺を回り、西の新座敷まで届くのが延長約78メートルの築地塀で、屋敷の外周を形づくっている。

内部に入ると、主屋の奥から渡廊下が延び、西の離座敷と北西隅の別座敷へつながる。離座敷の南には新座敷が取り付く。道路を挟んだ東の敷地に建つ米蔵を除いて、建物は廊下で連結されており、雨の日でも屋根の下を伝って奥まで進める。北西隅の街路沿いには、乱石積の基礎に載る短い塀がある。

中庭には、初代長兵衛の名をとった「長兵衛梅」と呼ばれる樹齢およそ250年の紅梅がある。例年3月上旬から下旬に花をつけ、屋敷をもっとも華やかに見せる季節となる。登録された10件のほかに連子蔵と呼ばれる蔵も残り、藤岡家の蔵は内蔵・米蔵と合わせて3棟を数える。

見学案内とアクセス

藤岡家住宅は、開館日であれば予約なしで見学できる。開館時間は午前9時から午後4時まで、休館日は毎週月曜日(祝日の場合は翌日)。入館料は維持管理協力金として大人(高校生以上)300円、6歳から中学生200円で、20人以上の団体は2割引となる。障がい者手帳を提示すると本人は無料。江戸・明治期の建物のため段差や急な階段があり、管理者は車椅子などでの来館には事前の問い合わせか下見を勧めている。

館内の展示は年に4回、季節ごとに入れ替えられる。音楽会や句会などの催しも月に2回ほど開かれ、座敷や大広間は申し込みにより会議・茶会・食事会に借りられる。喫茶もある。催しの日は一部の部屋が使われていることがあるため、特定の部屋を見たい場合は電話(0747-22-4013)で確かめておくと確実である。

撮影は商用以外の目的であれば許可されている。所蔵品は藤岡家の所有物で、販売を目的とした写真の撮影は認められていない。コンサートや講演会の最中は、写り込む来場者の肖像にも配慮が求められる。

鉄道ではJR和歌山線の北宇智駅から徒歩約20分、道のりは約1.3キロである。車の場合は京奈和自動車道の五條北インターチェンジから約5分で、側道を国道310号の方向へ進み、藤岡家住宅の案内看板で右折して金剛山の方向へ道なりに進む。駐車の可否と台数は公式の案内に明記がないため、車で訪れる場合は事前に問い合わせておきたい。

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁) — 藤岡家住宅主屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00005338
国指定文化財等データベース(文化庁) — 藤岡家住宅内蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00005339
国指定文化財等データベース(文化庁) — 藤岡家住宅築地塀
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00005346
五條市 — 五條市の登録有形文化財
https://www.city.gojo.lg.jp/soshiki/kankoshinko/5_1/5/2110.html
奈良県観光公式サイト あをによし なら旅ネット — 藤岡家住宅
https://yamatoji.nara-kankou.or.jp/03history/02old_house/04south_area/fujiokake/
ええ古都なら(南都銀行) — 登録有形文化財「藤岡家住宅」一般公開中
https://www.nantokanko.jp/osusume/5875.html
すぽっとらい燈(五条ガス) — 登録有形文化財 藤岡家住宅 NPO法人うちのの館 館長インタビュー
https://gojo-gas.co.jp/spotlight/etc/7497

最終更新日: 2026.09.26

基本情報

名称藤岡家住宅
所在地奈良県五條市近内町526
所有者個人(藤岡家)
指定登録有形文化財 10件
座標34.38303, 135.70284