冷蔵庫以前の冷蔵

星名家住宅雪穴は、新潟県十日町市上野甲にある江戸期の石造構造物で、平成14年(2002年)6月25日に国の登録有形文化財に登録された。登録番号は15-0117。地中に穿たれた一辺約5メートル、深さ3メートルの方形の穴で、用途は冬の雪を夏まで保つことにあった。

十日町の降雪量は、人の住む土地としては世界でも屈指である。積雪2メートルは日常の範囲、4メートルでも特筆するほどではない。この地域の歴史の大半において、それは耐えるべき条件だった。雪穴は、それを資源の側に置き換える工夫のひとつである。

やり方は単純で、規模だけが要点だった。早春、積雪が最も締まった時期に雪を穴へ詰める。周囲の土と雪塊自身の質量に守られ、圧縮された雪は暖候期を越して残る。毎朝必要な分を切り出し、西壁に設けられた階段から運び上げた。主たる用途は酒造関連の冷蔵所である。魚や食物の保存にも使われ、村の病人が出れば熱さましの雪を取りに来た。魚屋は一年中氷を使うことができた。この使い方は、家庭用冷蔵庫が普及するまで続いた。

造りと、その評価の理由

文化庁の国指定文化財等データベースは、面積36平方メートル、深さ3メートルの石造構造物とし、法面勾配3分ほどの玉石乱積の壁面を一辺5メートルほどの正方形平面に築き、西壁面に階段を付すと記す。所在は国道252号に隣接する雑木林のなか、星名家住宅から道を挟んだ南側である。

登録基準に目を留めておきたい。適用されたのは「再現することが容易でないもの」である。登録有形文化財には三つの基準があり、多くの建造物は前二者、すなわち造形の規範となっているものか、国土の歴史的景観に寄与しているものによって登録される。第三の基準は、いま同じものを作り直すことが難しい対象に適用され、建築的な出来ばえとは別のところを指している。ここで再現しがたいのは石積みの技術ではない。それが支えた仕組みのほうだ。数トン単位の雪を必要とする酒造、その雪を詰めて切り出す労力をもつ家、そして個人の冷蔵設備が共有インフラとして機能していた村の経済である。

登録は、日本の建造物保護の二層のうち軽いほうにあたる。重要文化財と国宝は国が指定し、厳格な規制のもとに置かれる。平成8年(1996年)に始まった登録の制度は、許可ではなく届出によって運用され、税制優遇と修理費補助を主たる手段とする。この違いはこの一件の物件で見比べることができる。道の向かいに建つ星名家の住宅は重要文化財、雪穴は登録有形文化財だからだ。

道の向こうの家

星名家は妻有郷随一の豪商であり豪農だった。屋敷が建つのは意味のある交差点である。小千谷と飯山・長野を結ぶ街道と、柏崎から会津若松を経て白河へ抜ける道がここで交わっていた。いまでこそ山あいの静かな道だが、当時は幹線であり、家がその角に位置していたのは偶然ではない。

現在の主屋は天保13年(1842年)の上棟。7年前の天保6年(1835年)の大火で以前の建物が失われたあとの再建である。間口は17間、およそ32メートルに及び、切妻造・金属板葺の平入。豪農であると同時に豪商であったため、農家建築ではなく町家風に建てられており、1階の下屋には雪国の町並みに特有の雁木を設え、梁や柱には太い材が用いられている。主屋と付属する蔵・茶室は、平成3年(1991年)5月31日に国の重要文化財に指定された。

この指定に含まれる棟数については資料に食い違いがある。合計7棟とするものがある一方、主屋のほか蔵6棟・茶室2棟を挙げるものもある。正確な数が必要な場合は十日町市教育委員会に確認されたい。

平成16年(2004年)10月の新潟県中越地震で主屋は大きな被害を受けた。災害復旧と保存修理の工事は平成17年3月から平成23年3月まで、73か月を費やしている。

見られるもの、見られないもの

星名家住宅は非公開である。現に人の暮らす個人の住宅であり、内部の見学はできない。外観は道路から見ることができ、多くの人が目にするのはその姿である。

雪穴そのものは国道252号を挟んだ反対側の雑木林のなかにあり、こちらも私有地にあたる。許可なく立ち入ってはいけない。調査上の関心がある場合は、十日町市博物館内にある十日町市教育委員会文化財課へ、訪問前に問い合わせるのが筋である。いずれにせよ博物館を先に訪ねるのが得策で、この地域の雪の文化を深く扱っており、雪穴を理解するための文脈はそこで説明されている。

雪穴は日本遺産「究極の雪国とおかまち」の構成文化財のひとつである。ともに構成されるのは、冬ごとに家を鎧う雪囲い、芋を貯える芋穴、へぎそば、星名家住宅、松苧神社本殿など。この地域を見るなら、そのストーリーをたどるのが最も実りがある。雪穴を単独の珍品としてではなく、同じ問題への一連の解答のなかに置き直してくれるからだ。

訪ねる時期としては、2月の十日町雪まつり、あるいは棚田に水の張られる初夏がよい。雪穴を実感したいなら3月がよい。まだ雪の壁が肩の高さに残り、なぜこの家が雪を「貯えるもの」と考えたのかが腑に落ちる。

Q&A

Q十日町市の星名家住宅雪穴は見学できますか。
A自由には見学できません。雪穴は国道252号沿いの雑木林のなかの私有地にあり、道を挟んだ星名家住宅も非公開の個人住宅です。住宅の外観は道路から見ることができます。調査上の関心がある場合は、十日町市博物館内の十日町市教育委員会文化財課へ事前に問い合わせてください。
Q星名家住宅雪穴は何に使われていたのですか。
A冬の雪を貯蔵し、暖候期に使うための施設です。早春に雪を詰め、毎朝必要な分を切り出しました。主たる用途は酒造関連の冷蔵所で、ほかに魚や食物の保存、村の病人の熱さまし用の雪の供給、魚屋への通年の氷の供給にも役立ちました。家庭用冷蔵庫が普及するまで使われていました。
Q星名家住宅雪穴の大きさと構造はどのようなものですか。
A一辺約5メートル、深さ3メートルの正方形の穴で、面積は36平方メートルです。壁面は玉石を乱積みにし、法面勾配3分ほどのゆるやかな傾斜をもたせています。西の壁面には雪の搬出入のための階段が設けられています。江戸期の構造物です。
Q星名家住宅雪穴はなぜ重要文化財ではなく登録有形文化財なのですか。
A登録は平成8年(1996年)に設けられた、指定より緩やかな保護の枠組みで、許可ではなく届出によって運用され、税制優遇と修理費補助を主たる手段とします。雪穴は平成14年(2002年)6月25日、登録番号15-0117で、「再現することが容易でないもの」という基準により登録されました。道の向かいの星名家住宅自体は平成3年(1991年)5月31日指定の重要文化財なので、一つの物件で二つの区分を見比べることができます。
Q星名家住宅雪穴は日本遺産「究極の雪国とおかまち」とどう関係しますか。
A雪穴はこの日本遺産の構成文化財のひとつです。豪雪への対応を束ねたストーリーで、ほかに雪囲い、芋穴、へぎそば、星名家住宅、松苧神社本殿などが構成されています。この文脈は十日町市博物館で見るのが最もわかりやすくなっています。

基本データ

名称星名家住宅雪穴(ほしなけじゅうたくゆきあな)
所在地新潟県十日町市上野甲822-3
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 15-0117 登録基準「再現することが容易でないもの」
指定年登録年月日 平成14年(2002年)6月25日/登録告示 同年7月16日
員数1基
寸法石造、面積36平方メートル、深さ3メートル。一辺約5メートルの正方形平面、法面勾配3分程の玉石乱積壁面、西壁面に階段
所有者個人
公開状況非公開。国道252号沿いの雑木林内の私有地。問い合わせは十日町市教育委員会文化財課(十日町市博物館内)

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「星名家住宅雪穴」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00002760
文化遺産オンライン「星名家住宅雪穴」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/187490
十日町市博物館「星名家住宅雪穴」
https://www.tokamachi-museum.jp/archives/bunka013/
十日町市博物館「星名家住宅」
https://www.tokamachi-museum.jp/archives/bunka002/
文化庁 日本遺産ポータルサイト「星名家住宅雪穴」
https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/culturalproperties/result/4930/
十日町市「日本遺産『究極の雪国』とおかまちストーリー」
https://www.city.tokamachi.lg.jp/yukiguni/nihonisan/index.html

最終更新日: 2026.08.13