寺の生活が営まれてきた建物

西永寺庫裏及び廊下は、新潟県十日町市上野甲にある真宗大谷派寺院の庫裏と、それを本堂につなぐ廊下からなる建物で、嘉永元年(1848年)頃の建立とみられ、平成12年(2000年)10月18日に国の登録有形文化財(建造物)となった。

庫裏は参詣者があまり意識せず、住職がほとんど離れない場所である。台所があり、家族の居室があり、門徒を迎え法事の相談を受ける座敷があり、寺を回していくための収納がある。西永寺では本堂の北に建ち、木造二階建、建築面積284平方メートル、切妻造の妻入。正面は本堂と同じく東を向く。本堂とをつなぐ廊下は別棟ではなく、同じ一件として登録されている。

廊下がまとめて登録された理由は使われ方にある。住職はこの廊下を日に何度も往復する。二月に地面の上で二メートルの積雪をみるような土地で、住まいと堂の間に屋根を掛けることは便宜ではなく必要だった。廊下があることで、二棟はひとつの働く仕組みになっている。

大きく改変されていても登録される

文化庁の解説はこの建物の状態について率直である。外装と内部はいずれも大きく改変を受けていると記したうえで、残っているものを挙げる。庫裏の書院座敷などが、当初の型式と格式をよく残していること。

この一文を素直に読むと、日本の建物の守り方がよく見えてくる。明治30年以来の系譜をもち現状変更に許可を要する重要文化財の枠組みでは、これだけ手が入った住居は真正性をめぐって難しい判断に直面する。平成8年(1996年)の文化財保護法改正で設けられた登録有形文化財の制度は、こうした状況を正面から想定して用意された。手を入れられた建物を受け入れる。そうしなければ、いま人が使っている建物を一つも守れないからである。所有者は現状変更を届出で済ませられ、修理設計費の補助や固定資産税の減免を受けられる。

庫裏及び廊下の登録番号は15-0110号、第26回登録、告示は平成12年11月6日。適用基準は「造形の規範となっているもの」で、その判断が置かれているのは改変された外皮ではなく、残された書院座敷である。

書院造は室町から桃山にかけて成立した接客の形式で、床、違棚、付書院を備え、主客の座の序列が空間そのもので示される。在郷の真宗寺院が嘉永元年にこの形式で座敷を構えたことには、寺の格と、そこに座る大地主層の格の両方が関わっていたと考えられる。

同じ日、境内の他の四棟も登録された。本堂、経蔵、鐘楼、そして昭和十年代に廃寺となった永徳寺の本堂を移した六和亭。五棟が一度の登録でまとまり、近世末の寺院境内が欠けることなく残っている。

見られるもの、見られないもの

出かける前にはっきりさせておきたい。庫裏は住まいである。住職と家族が生活しており、登録の根拠となっている書院座敷は公開されていない。西永寺は拝観時間も拝観料も設けておらず、とりわけこの建物は予告なく訪ねる先ではない。

境内から見られるのは外観で、その外観には読みどころがある。正面に妻を見せる構えは、数メートル先で長辺から入る本堂とは別の構成上の判断で、二棟を並べて見ると、江戸期の大工が材料を変えずに聖と俗を書き分けていたことがわかる。両者をつなぐ廊下は、外から全長を目で追える。この時期の寺院庫裏としては珍しい二階建という高さも、平屋の本堂と並ぶことで際立つ。

研究や業務上の必要から内部を見る必要がある場合は、余裕をもって寺に書面で申し入れ、家族の生活との兼ね合いで判断されることを前提にしたい。市内の文化財一般についての問い合わせは、十日町市博物館内の市教育委員会文化財課が窓口となる。外観の撮影は差し支えないが、窓の内側に向けてカメラを構えるのは避けたい。

境内そのものは常識的な時間帯なら歩ける。登録五棟の外観を順に見て回って二十分ほど。実際に歩きやすいのは晩春から秋で、1月から3月は二メートルを超える積雪が小さな建物を隠し、境内の平面を追いにくくする。

交通は十日町駅(北越急行ほくほく線・JR飯山線)から川西・小千谷方面の路線バスで「上野」まで約20分、徒歩約3分。便数が少ないので時刻表は先に確認したい。車なら関越自動車道越後川口インターチェンジから国道117号経由で約20分、六日町インターチェンジから国道253号経由で約30分。同じ上野甲には天保13年(1842年)上棟の重要文化財・星名家住宅があり、その主屋も座敷部を書院造でまとめている。通常は非公開で、市が募集する特別公開の機会に限って内部を見学できる。西永寺の庫裏で見られない座敷の格を想像するための、もっとも近い手掛かりになる。

Q&A

Q西永寺庫裏及び廊下の内部は見学できますか。
Aできません。庫裏は住職と家族が生活する住まいで、書院座敷も公開されていません。西永寺には拝観時間や拝観料の設定もありません。外観と本堂へつながる廊下は境内から見学できます。
Q西永寺庫裏及び廊下の「庫裏」とはどのような建物ですか。
A庫裏は寺の生活と運営を担う棟で、台所、住職家族の居室、門徒を迎えて法事の相談を受ける座敷などが置かれます。西永寺では本堂の北に建ち、廊下で本堂と結ばれています。
Q西永寺庫裏及び廊下は大きく改変されているのに、なぜ登録されたのですか。
A文化庁の解説は、外装と内部が大きく改変を受けている一方、庫裏の書院座敷などが当初の型式と格式をよく残していると記しています。登録有形文化財は平成8年(1996年)に、いま使われ続けている建物を対象として新設された制度で、改変のある建物も対象に含みます。
Q西永寺庫裏及び廊下はなぜ廊下まで一件として登録されているのですか。
A本堂と庫裏をつなぐ廊下は、どちらからも切り離せない機能をもちます。真冬の積雪が二メートルを超える土地では、住まいと堂の間に屋根を掛けることが前提になります。登録では庫裏と廊下を合わせて1棟として数えています。
Q西永寺の近くで同時期の書院座敷を見られる場所はありますか。
A同じ上野甲にある重要文化財・星名家住宅の主屋(天保13年/1842年上棟)が座敷部を書院造でまとめています。ただし通常は非公開で、十日町市が募集する特別公開の機会に限られるため、市の告知を確認してから予定を立ててください。

基本情報

名称西永寺庫裏及び廊下(さいえいじくりおよびろうか)
所在地新潟県十日町市上野甲87-8
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号15-0110号
指定年平成12年(2000年)10月18日登録/同年11月6日告示(第26回登録)
員数1棟(庫裏と接続する廊下を一括して数える)
寸法木造2階建、鉄板葺、建築面積284平方メートル。切妻造、妻入、正面は東向き
所有者宗教法人西永寺
公開状況住職家族の住まいのため内部非公開。外観と廊下は境内から見学可。拝観時間・拝観料の設定なし

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁) 西永寺庫裏及び廊下
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00001908
十日町市博物館 アーカイブズ 西永寺庫裏及び廊下
https://www.tokamachi-museum.jp/archives/bunka011/
国指定文化財等データベース(文化庁) 西永寺本堂
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00001905
十日町市博物館 アーカイブズ 星名家住宅
https://www.tokamachi-museum.jp/archives/bunka002/
十日町市 指定文化財
https://www.city.tokamachi.lg.jp/kanko_bunka_sports/rekishi_bunka/shiteibunkazai/index.html

最終更新日: 2026.07.30