開市神社拝殿:葛塚の市場文化を守り伝える国登録有形文化財

新潟市北区葛塚の稲荷神社境内に静かに佇む開市神社拝殿は、この地域の商業発展の歴史を物語る貴重な文化財です。2008年(平成20年)に国の登録有形文化財(建造物)に登録されたこの建物は、江戸時代に幕府から正式に市場開設の許可を勝ち取った庄屋・遠藤七郎左衛門宗寿の功績を称えるために建てられた社殿です。「開市」の名が示すとおり、葛塚市場の誕生という地域の一大転機を今に伝えています。

歴史的背景:葛塚市場の誕生と遠藤家の功績

開市神社の歴史は、葛塚の町の成り立ちと深く結びついています。1754年(宝暦4年)、葛塚は新発田藩領から幕府直轄領に移管されました。これを好機と捉えた当時の庄屋・遠藤七郎左衛門宗寿は、葛塚を正式な交易の場とするため、幕府に対して市場開設を請願しました。そして1761年(宝暦11年)10月8日、ついに幕府から正式な開市の許可を受けることに成功しました。これが葛塚市場の起こりであり、以後250年以上にわたって続く市場文化の原点です。

宗寿は市場開設にとどまらず、地域の用水確保にも尽力し、葛塚の発展に大きく貢献しました。こうした功績を後世に伝えるため、1863年(文久3年)に宗寿を祀る神社として開市神社が創建されました。のちに村政に功績のあった遠藤七郎左衛門国忠、さらに幕末の戊辰戦争で戊辰隊隊長として活躍した遠藤七郎昭忠も合祀され、遠藤家三柱が祭神として祀られています。

文化財としての価値:珍しい建築様式

現在の開市神社拝殿は1871年(明治4年)に建造され、1969年(昭和44年)に現在地に移築・改修されました。木造平屋建、瓦葺で、建築面積は約20平方メートルのコンパクトな建物ですが、登録有形文化財にふさわしい独自の建築的特徴を備えています。

本体は桁行3間、梁間2間の入母屋造桟瓦葺の拝殿で、後世の増築により側面と背面が1間通り拡張されています。最も注目すべき特徴は、正面に付けられた一間向拝(こうはい)の造りです。この向拝の柱や貫、桁が鳥居を模した形状に造られており、社殿建築としては極めて珍しい意匠です。また、軒はせがい造の一軒繁垂木(ひとのきしげだるき)とされています。せがい造は新潟県の民家建築に多く見られる地域的特徴ですが、神社建築に採用された例は稀であり、この拝殿の建築史的な価値を高めています。

見どころ・魅力

開市神社拝殿の見どころは、まず正面向拝の鳥居風の造りです。通常、向拝は参拝者が拝礼する場所として屋根を差し出す構造ですが、ここではその構造材が鳥居の形をなしており、神域への入口を象徴する鳥居と参拝空間が一体化した独特のデザインとなっています。

開市神社は稲荷神社の境内社であるため、参拝の際には稲荷神社の他の文化財建造物もあわせて見学できます。1815年(文化12年)建造の稲荷神社本殿は、桁行3間梁間2間の切妻造で、柱上部に粽(ちまき)を施した円柱や出組の組物など、見応えのある構造を持ちます。拝殿及び幣殿には花鳥画が描かれた格天井があり、神輿庫も登録文化財に指定されています。同じ葛塚地区には、1796年(寛政8年)建造の石動神社本殿・拝殿や、天保8年建造の古峯神社本殿もあり、登録有形文化財が集中する地域として貴重です。

また、開市神社が記念する葛塚市場は現在も続いており、毎月1・5・10・15・20・25日の六斎市として約120店が出店しています。神社参拝と市場散策を組み合わせることで、江戸時代から受け継がれる商業文化を肌で感じることができます。

葛塚まつり:260年以上続く伝統の祭礼

毎年9月上旬に開催される葛塚まつりは、開市の許可を記念して1762年(宝暦12年)に始まった260年以上の歴史を持つ祭りです。市場開設が認められた日を忘れないようにと定められた祭礼であり、開市神社の存在と直結する行事です。

祭りの最大の見せ場は、9月8日夜の灯籠入舞(とうろういりまい)です。巨大な灯籠が街中を練り歩き、勇壮にぶつかり合う様は迫力満点で、県内外から多くの見物客が集まります。このほか、民謡流し、山車巡行、他門神楽(たもんかぐら)の奉納なども行われます。他門神楽は、江戸時代に庄屋親子が開市の許可書を持って帰郷した際、町の人々が喜びのあまり桟俵(米俵の蓋)を頭にかぶって踊ったのが始まりと伝えられています。

周辺情報

新潟市北区には、開市神社拝殿の周辺にも魅力的なスポットが点在しています。福島潟は国内有数の湿地環境で、展望施設「ビュー福島潟」からは広大な潟の景観を一望できます。毎年10月から翌年3月にかけて国の天然記念物であるオオヒシクイが5,000羽以上飛来し、日本最大の越冬地として知られています。

白新町にある石動神社は、1796年(寛政8年)建造の社殿が国登録有形文化財に指定されています。葛塚の地名の由来となった丘に鎮座しており、歴史散策にも最適です。国道7号線沿いの道の駅豊栄では、新潟県産コシヒカリや地元の新鮮な野菜・果物を購入できます。

Q&A

Q「開市神社」の「開市」とはどういう意味ですか?
A「開市」は文字通り「市場を開く」という意味です。1761年(宝暦11年)に葛塚の庄屋・遠藤七郎左衛門宗寿が幕府から市場開設の許可を得たことを記念し、その功績を称えて1863年(文久3年)に創建されたのが開市神社です。
Q拝殿の建築的な見どころは何ですか?
A最大の特徴は、正面向拝の柱や貫、桁が鳥居風に造られている点です。神社建築としては極めて珍しいデザインです。また、軒にはせがい造の一軒繁垂木が採用されており、新潟の民家建築に多い技法を神社建築に応用した稀有な例として高く評価されています。
Qアクセス方法を教えてください。
AJR白新線の豊栄駅から徒歩約10分です。新潟駅からは普通列車で約20分で豊栄駅に到着します。車の場合は、日本海東北自動車道の豊栄新潟東港ICから約10分です。開市神社は稲荷神社の境内にありますので、稲荷神社を目指してお越しください。
Q葛塚市場は今も開催されていますか?
Aはい、250年以上の歴史を持つ葛塚市場は現在も続いています。毎月1日・5日・10日・15日・20日・25日の六斎市として開催され、約120店が新鮮な農産物や海産物、衣類、日用品などを販売しています。
Qおすすめの訪問時期はいつですか?
A神社は通年参拝可能です。特におすすめなのは、毎年9月5日〜8日に開催される葛塚まつりの時期です。260年以上の歴史を持つ勇壮な灯籠の押し合いや伝統的な神楽舞を間近で体験できます。また、市場の日(末尾が1・5・0の日)に訪れると、市場散策も楽しめます。

基本情報

名称 開市神社拝殿(かいちじんじゃはいでん)
指定区分 国登録有形文化財(建造物)
登録年月日 2008年(平成20年)7月8日
建造年 1871年(明治4年)/1969年(昭和44年)移築改修
構造・形式 木造平屋建、瓦葺、建築面積約20㎡
所在地 新潟県新潟市北区葛塚字相生町3294-1
所有者 宗教法人稲荷神社
アクセス JR白新線 豊栄駅から徒歩約10分

参考文献

最終更新日: 2026.03.27