御大典記念事業として築かれた町の水道

三条市水道局大崎浄水場は、新潟県三条市中新にある上水道施設で、昭和8年(1933年)5月に竣工し、創設時の建造物12件が平成23年(2011年)10月28日に国の登録有形文化財となった。取水から配水までの構造物と職員の官舎が一式で残り、三条市はこれを全国的にも貴重な水道施設と位置づけている。

三条で上水道を求める声は古い。明治26年(1893年)ごろから町の要望が続き、明治政府の水道顧問を務めたお雇い外国人バルトンによる衛生調査も、その声を後押しした。大正元年(1912年)、大正2年(1913年)、大正5年(1916年)と計画は繰り返し練られたが、いずれも財源の見通しが立たずに終わっている。

実現の契機は昭和天皇の即位礼、いわゆる御大典だった。記念事業として昭和5年(1930年)4月に起工し、3年後の5月に竣工する。浄水場の位置に選ばれたのは、明治期に取水口が計画されたことのある大崎・篭場の近く、五十嵐川が山あいを抜けて平野へ出るあたりである。

設計は二人の手に分かれる。浄水の仕組みは、内務省土木局の技師で日本大学工学部長も務めた水道工学者、茂庭忠次郎が指導した。建物の意匠は新潟市に建築事務所を構えていた長谷川龍雄が担った。長谷川は文部省技手として旧松本高等学校の設計に関わり、戦前の新潟で銀行や公会堂を手がけた建築家である。当時の水道施設に建築家が直接関わるのは珍しかったと、登録に先立つ調査を担当した平山育男は指摘している。

施設はその後、数度にわたって増設され、現在は三条市建設部上下水道課が管理する。緩速ろ過池に急速ろ過池が加わった今も、昭和8年の建造物はそのまま浄水の工程に組み込まれている。

12件がまとめて登録された理由

登録されたのは、取水ポンプ場のポンプ室と門、浄水場の門、事務室棟、旧番宅、1号から3号までの緩速ろ過池、洗砂場、着水井(送水井)、調整池、送水ポンプ室、配水池、量水器室の12件である。文化庁のデータベースでは登録番号15-0343から15-0354まで連続し、12件とも「国土の歴史的景観に寄与しているもの」という基準で登録されている。

評価の中心は、創設時の建造物がひとつも欠けずに残り、しかも現役で使われている点にある。三条市は、昭和8年から今日まで水を送り続けてきたこと自体が、創設時の技術の確かさを裏づけると説明している。設計者の名前がはっきりしていることも、同時代の水道施設としては特筆される。

12件は、見せる建物と見せない構造物にはっきり分かれる。ろ過池・配水池・着水井のような工程の中核は装飾を省いた機能一点張りの造りで、取水ポンプ室・事務室棟・送水ポンプ室・量水器室のように人の目に触れる建物には、洒落た意匠が惜しみなく与えられた。この落差こそ、長谷川龍雄の仕事を読む手がかりになる。

水の流れに沿って構内を読む

三条市水道局大崎浄水場は、川辺の取水ポンプ場と、要害山の麓の浄水場の二か所からなる。取水ポンプ場は五十嵐川の東岸、堤防の下に建ち、浄水場はそこから東へおよそ350メートル離れている。両者の間を国道289号が通る。この道はかつての国鉄弥彦線の線路跡にあたる。

浄水場の門は敷地の西側の中央に開き、門を入った正面に事務室棟が西を向いて建つ。事務室棟の南の平地に3槽の緩速ろ過池が並び、その北東の隅に取水ポンプ場からの水を受ける着水井、東側にろ過砂を洗う洗砂場がある。

ろ過を終えた水は調整池にいったん溜められ、北隣の送水ポンプ室から山の中腹の配水池へ押し上げられる。配水池は敷地の北端の丘の上にあり、その西側に町へ送る水量を量った量水器室が建つ。送水ポンプ室と配水池の間には、職員の官舎だった旧番宅が残る。

配水池を高所に置いたのは、そこから町まで水が自然に流れ下るようにするためである。調査報告は、配水池の上に立てば三条の町並みから弥彦山までが見渡せると記し、要害の山そのものが天然の配水施設だったと評している。地形を読み込んで工程を配した浄水場だといえる。

所在地の表記には二通りある。文化庁のデータベースでは中新4420-3(配水池は中新2409-3、取水ポンプ場は中新316・中新258)とされ、三条市の上下水道課は浄水場の住所を中新29-1と案内している。前者は登録時の地番で、郵便や地図検索には後者が通りやすい。

見学とアクセス

三条市水道局大崎浄水場は稼働中の浄水場で、ふだんは構内に自由に入ることはできない。例外は春の桜の季節で、三条市は開花に合わせて構内への入場を認めている。令和8年(2026年)は4月7日から入場でき、正面入口の脇の小門から徒歩で入り、受付簿に記入する方式だった。市は、自然の山に面しているため熊の出没にも注意するよう呼びかけている。公開の期間と条件は年ごとに変わりうるので、市の発表を確かめてから出かけたい。

桜の時期以外の見学の可否や撮影の扱いについて、市の案内は見当たらない。問い合わせ先は三条市建設部上下水道課の大崎浄水場(電話0256-38-3539)である。取水ポンプ場は浄水場の構外にあり、春の入場の対象に含まれるかどうかも事前に確かめておくと確実である。

公共交通では、JR信越本線の東三条駅前から越後交通の八木ヶ鼻温泉方面行きのバスに乗り、「水源地」で降りる。停留所から浄水場の門までは歩いてすぐである。車の場合、北陸自動車道の三条燕インターチェンジから国道289号を東へ進み、20分ほどとされる。

12件をさらに詳しく知りたい人には、三条市が刊行した『国登録有形文化財三条市水道局大崎浄水場建造物詳細調査報告書』がある。長岡造形大学の平山育男教授が図面と写真で各建物を解説したもので、頒価1,000円、市の中央公民館や図書館、歴史民俗産業資料館で扱っている。

参考文献

国指定文化財等データベース「三条市水道局大崎浄水場事務室棟」(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00008836
国指定文化財等データベース「三条市水道局大崎浄水場配水池」(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00008843
国登録有形文化財「三条市水道局大崎浄水場」(三条市)
https://www.city.sanjo.niigata.jp/soshiki/shimimbu/shogaigakushuka/bunkazai/bunkazai/1740.html
大崎浄水場(三条市 建設部上下水道課)
https://www.city.sanjo.niigata.jp/soshiki/kensetsubu/jogesuidoka/jousuidonituite/jousuijo/4631.html
国登録有形文化財三条市水道局大崎浄水場建造物詳細調査報告書を頒布します(三条市)
https://www.city.sanjo.niigata.jp/soshiki/shimimbu/shogaigakushuka/bunkazai/bunkazai/1746.html
三条市水道局大崎浄水場(にいがた土木構造物めぐり 第49回/土木学会関東支部新潟会)
https://jsce-niigata.com/introduction/article/049/art049.html
大崎浄水場の桜の時期の入場について(三条市役所 公式X、2026年4月7日)
https://x.com/sanjo_city/status/2041422718416146558

最終更新日: 2026.09.25

基本情報

名称三条市水道局大崎浄水場
所在地新潟県三条市中新4420-3
所有者三条市水道事業
指定登録有形文化財 12件
座標37.60878, 138.99667