岩盤斜面の頂部に据えられた堰堤

上斎原発電所池河川取水堰堤は、岡山県苫田郡鏡野町上齋原字十二川にある昭和5年(1930年)築造の重力式コンクリート造堰堤で、平成18年(2006年)11月29日に登録有形文化財となった。天王川水路へ合流する池河川水路の上流端にあたり、ここで集めた水が発電所へ向かう。

堤長12メートル、堤高3.1メートル。下流法勾配は1割1分で、ほぼ垂直に近い。表面は谷積とする。この発電所のもうひとつの支流堰堤と違うのは、据えられた場所だ。急勾配の岩盤斜面の頂部という位置は、コンクリートを打つあいだの排水にも都合がよかった。打設の便で場所を決め、その場所と100年つきあう。いかにも昭和初期らしい判断である。

堤体の左岸寄りには、アーチ形の開口が穿たれている。排砂口である。これを開ければ、堰堤の背後にたまった砂礫は人力で掘り出さずとも自重で下流へ抜けていく。

登録の理由

上斎原発電所池河川取水堰堤の登録番号は33-0143。平成18年(2006年)11月29日、この発電所の9施設がまとめて「国土の歴史的景観に寄与しているもの」という基準で受け入れられた、そのひとつである。

登録有形文化財は平成8年(1996年)に始まった制度で、現に使われている建造物を対象とする。大きな改変の前に届け出を求めるもので、構造物を凍結せよという趣旨ではない。したがって登録後も役目を続けるのが通常であり、岡山県はこの9施設をいずれも現役として記録している。

池河川は、県境の人形峠から岡山県側に広がる高原に源をもつ。吉井川の源流部と同じ台地である。この水を捕まえるには、水路を発電所からかなり北へ延ばさねばならなかった。その遠回りの長さが、水路式発電所にとって1リットルの水がどれほど貴重かを示している。上斎原発電所の認可出力2,700キロワットは、本流と3つの支流から水を寄せ集めて成り立っている。

見どころ

探してほしいのは排砂口のアーチである。コンクリート堰堤を貫く開口として、アーチは当然の選択ではない。矩形のゲート開口のほうが型枠も閉塞装置も簡単だ。それでもアーチにしたのは、荷重を開口のまわりへ逃がし、上の断面を薄く保てるからで、堤長に対して堤高のあるこの堰堤では効いてくる。

次に、少し離れて足元の地形を見てほしい。構造物の下では岩肌が、いまの施工者なら足場を要求するであろう勾配で落ちている。昭和5年には、その同じ勾配が、水も土も手を貸さずに流れ落ちる利点として読まれていた。

ほぼ垂直の下流面を、数キロ離れた赤和瀬川取水堰堤の緩やかな石の斜面と比べてみたい。同じ年に同じ発電所のために築かれながら、形の違いはすべて地面への応答である。上斎原発電所池河川取水堰堤は3つの支流取水施設のなかで最も背が高く、その形はそこから導かれている。

見学方法

稼働中の発電設備の一部であり、入場料も公開時間の設定もない。取水施設は事業者の柵の内側にある。

設備を見学したい場合、岡山県は中国電力株式会社津山電力所(電話0868-27-0275)への事前連絡を求めている。撮影の可否も同じ電話で尋ねておきたい。

所在地は上齋原の北部、人形峠と鳥取県境へ向かう途中にあたり、一帯は国道179号が通じている。公共交通ではJR姫新線で津山駅または院庄駅へ行き、中鉄北部バスの奥津温泉・石越方面の便に乗り継ぐ。時刻表は鏡野町が案内している。最後の区間は歩道のない狭い林道で、堰堤脇は急に落ち込む。縁には近づかないでほしい。

Q&A

Q上斎原発電所池河川取水堰堤の高さはどれくらいですか?
A堤高3.1メートル、堤長12メートルです。この発電所の支流取水堰堤3基のなかで最も高く、下流法はほぼ垂直、表面は谷積です。
Q堤体のアーチ形の開口は何ですか?
A排砂口です。左岸寄りの堤体を貫いており、開くと堆積した砂礫が下流へ流れ出ます。人力で掘り出す手間を省く仕組みです。
Q上斎原発電所池河川取水堰堤はなぜ急斜面の上に築かれたのですか?
A文化庁の記録は、急勾配の岩盤斜面の頂部という位置が施工時の排水にも都合がよかったと記しています。山中でコンクリートを打つ工事では重要な条件でした。
Qここで取り入れた水はどこへ行きますか?
A池河川水路に入り、約40メートル下流の沈砂池を経て天王川水路へ合流し、発電所の水槽へ向かいます。
Qこの堰堤は今も使われていますか?
A使われています。岡山県は登録9施設をいずれも現役施設として記録しており、中国電力も上斎原発電所を出力2,700キロワットで掲載しています。

基本情報

名称上斎原発電所池河川取水堰堤
所在地岡山県苫田郡鏡野町上齋原字十二川地先
指定区分登録有形文化財(建造物)
指定年1930年築造、2006-11-29登録
員数1基
寸法重力式コンクリート造堰堤、堤長12メートル、堤高3.1メートル、表面谷積、アーチ形排砂口、制水門付
所有者中国電力株式会社
公開状況稼働中の施設。立ち入りは不可。設備見学は津山電力所(0868-27-0275)へ事前連絡

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「上斎原発電所池河川取水堰堤」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00006056
文化庁 文化遺産オンライン「上斎原発電所池河川取水堰堤」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/143321
岡山県教育庁文化財課「岡山県内の国登録文化財」
https://www.pref.okayama.jp/page/detail-50777.html
岡山県「上斎原発電所施設」解説(PDF)
https://www.pref.okayama.jp/uploaded/attachment/260992.pdf
中国電力株式会社「水力発電所一覧」
https://www.energia.co.jp/energy/general/water/water_all.html
鏡野町「路線バス 公共交通」
https://www.town.kagamino.lg.jp/soshiki/22/2132.html

最終更新日: 2026.09.08