吉井川上流に建つ昭和5年の発電所建屋

上斎原発電所本館は、岡山県苫田郡鏡野町上齋原字樽原にある昭和5年(1930年)建設の鉄筋コンクリート造平屋建の発電所建屋で、平成18年(2006年)11月29日に登録有形文化財となった。吉井川本流とその支流に設けた取水堰堤から開渠で導かれた水がここに落ち、使い終えた水は放水路を通って下流の施設へ送られる。

平面は単純だが、寸法の取り方には理屈がある。桁行16メートル、梁間14メートルの発電機室が建築面積288平方メートルの大半を占め、事務室や休憩室はその側面に低く張り出す。四周には縦長の窓が並ぶ。窓は機械の据わる床面を照らす高さに置かれ、天井走行クレーンの動く帯にはガラスを入れていない。

室内を見上げると形の理由がわかる。小屋組はライズ(起り)を抑えたプラットトラスで、屋根の勾配を大きくせずに高い天井を確保している。発電機の分解整備では回転子を吊り上げて振り、据え直す作業が要る。その高さを屋根の高さではなく小屋組の形で買っているわけである。

運転開始は昭和5年7月。認可出力は2,700キロワットで、現在も中国電力の水力発電設備として稼働している。

登録の理由と、この建屋の位置づけ

平成18年(2006年)11月29日、上斎原発電所の9施設が同じ日にまとめて登録された。うち8件は堰堤、沈砂池、会流池、水槽、石積擁壁といった土木構造物や工作物である。建築物として扱われているのは上斎原発電所本館のみで、9件はいずれも「国土の歴史的景観に寄与しているもの」という基準で受け入れられた。

ここで使う語は「登録」であって「指定」ではない。登録有形文化財の制度は平成8年(1996年)に、現に使われ続けている建造物を対象として設けられたもので、外観を大きく変える工事の前に届け出を求める仕組みである。使いながら残すことが前提であり、この発電所はまさにその形で残っている。

この建屋の重みは、それが置かれた連なりにある。大正9年(1920年)から昭和7年(1932年)にかけて、中国電力の前身にあたる中国合同電気が吉井川の上流部に水路式発電所を連ねた。入が大正9年、平作原が昭和3年(1928年)2月、上斎原が昭和5年7月、奥津が昭和7年(1932年)2月である。平作原で使った水は会流池で集め直してここへ送り、ここで使った水はまた集め直して奥津へ送る。上斎原発電所本館は、その鎖から一度も外されたことのない環のひとつだ。

見どころ

まず壁面を見てほしい。昭和5年のコンクリートである。鉄筋コンクリート造の産業建築をどう納めるかを日本の技術者が手探りしていた時期のもので、外壁には浅い付柱状の縦線と単純な水平の見切りが入る。無地の壁を無地に見せないための、当時の常套的な処理だ。

次に、建屋が載っている地面。この谷にはほとんど平地がない。発電所の敷地は見つけたものではなく、削り出したものである。西側と北側は石積の擁壁が土を支え、約250メートル上方の水槽から落ちてくる鉄管路の両脇にも直線状の擁壁が斜面を登る。これらの擁壁もまた登録の対象になっている。

放水路にも少し時間を割きたい。本館から出た水は、下流の奥津発電所に属する長い鉄筋コンクリート造の水路へ流れ込み、そこで新しい水と合わされて先へ送られる。上斎原発電所本館の前に立つとき、目の前にあるのは、津山盆地に出るまでに4度も働かされる川のちょうど中ほどということになる。

見学方法

稼働中の発電所であり、観光施設ではない。入場料も窓口も、公開時間の設定もない。外観は谷沿いの公道から見ることができる。

設備そのものを見学したい場合、岡山県は事前連絡を求めており、問い合わせ先として中国電力株式会社津山電力所(電話0868-27-0275)を示している。建屋は事業者の柵の内側にあるので、撮影の可否も電話のときに確かめておくとよい。

上齋原は鏡野町の最北部で、鳥取県境に近い。津山から人形峠へ向かう国道179号がこの地区を貫く。公共交通では、JR姫新線の津山駅または院庄駅が最寄りの鉄道駅にあたる。中鉄北部バスが津山と奥津温泉・石越を結ぶ路線を運行しており、時刻表は鏡野町が案内している。冬は雪が深く、峠道は冬季の走行に備えが要る。訪ねるなら晩春から秋にかけてが動きやすい。

Q&A

Q上斎原発電所本館の内部を見学できますか?
A事前連絡が必要です。岡山県は設備見学の問い合わせ先として中国電力株式会社津山電力所(0868-27-0275)を案内しています。外観は公道からいつでも見られます。
Q上斎原発電所本館の見学に料金はかかりますか?
Aかかりません。稼働中の発電所であって展示施設ではないため、料金も公開時間も設定されていません。
Q上斎原発電所は今も発電していますか?
Aしています。中国電力は吉井川水系の水力発電所として上斎原発電所を出力2,700キロワットで掲載しており、岡山県も登録9施設をいずれも現役施設として記録しています。
Q上斎原発電所本館はいつ建てられたものですか?
A昭和5年(1930年)の建設で、同年7月に発電を開始しました。上流の平作原発電所が昭和3年(1928年)の運転開始なので、その2年後にあたります。
Q車がなくても上齋原まで行けますか?
A行けます。JR姫新線で津山駅または院庄駅まで行き、中鉄北部バスの奥津温泉・石越方面の便に乗り継ぎます。時刻表は鏡野町の公共交通のページで確認できます。便数が少ないので、往路と同時に復路の時刻も押さえておいてください。

基本情報

名称上斎原発電所本館
所在地岡山県苫田郡鏡野町上齋原字樽原1163-2
指定区分登録有形文化財(建造物)
指定年1930年建設、2006-11-29登録
員数1棟
寸法鉄筋コンクリート造平屋建、建築面積288平方メートル、発電機室は桁行16メートル・梁間14メートル、放水路付
所有者中国電力株式会社
公開状況稼働中の施設。外観は公道から見学可。設備見学は津山電力所(0868-27-0275)へ事前連絡

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「上斎原発電所本館」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00006058
文化庁 文化遺産オンライン「上斎原発電所本館」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/185963
岡山県教育庁文化財課「岡山県内の国登録文化財」
https://www.pref.okayama.jp/page/detail-50777.html
岡山県「上斎原発電所施設」解説(PDF)
https://www.pref.okayama.jp/uploaded/attachment/260992.pdf
中国電力株式会社「水力発電所一覧」
https://www.energia.co.jp/energy/general/water/water_all.html
鏡野町「路線バス 公共交通」
https://www.town.kagamino.lg.jp/soshiki/22/2132.html

最終更新日: 2026.09.08