敷地をつくった90メートルの石積
上斎原発電所鉄管路擁壁及び本館擁壁は、岡山県苫田郡鏡野町上齋原字樽原にある昭和5年(1930年)築造の石造擁壁で、平成18年(2006年)11月29日に登録有形文化財となった。総延長は90メートル。役目の異なる2つの群から成る。
ひとつは、本館と水槽を結ぶ鉄管路の両脇に沿う直線状の擁壁である。管の左右に1条ずつ配され、切土の斜面が管路へ迫るのを押しとどめる。もうひとつは、本館の西側および北側の敷地を区画する擁壁で、建物が載る平坦地そのものをかたちづくっている。
いずれも石積である。平地のほとんどない谷では、何かを建てる前にまずこの仕事を済ませねばならない。そして訪れた人がたいてい気づかずに通り過ぎるのも、この部分だ。文化庁の記録は、これらの擁壁が今日まで往時の姿を良好に留めていると記している。
登録の理由
上斎原発電所鉄管路擁壁及び本館擁壁の登録番号は33-0148。平成18年(2006年)11月29日に「国土の歴史的景観に寄与しているもの」という基準で受け入れられた、この発電所の9施設のうち最後にあたる。
登録有形文化財の制度は平成8年(1996年)に設けられ、使われ続けている構造物を対象とする。大きな改変の前に届け出を求めるもので、手を触れずに置けという趣旨ではない。だから登録後も荷を受け続けることができ、この擁壁は100年近くそうしてきた。岡山県はこの9施設をいずれも現役として記録している。
建物と並んで敷地の土工が登録されているのは珍しく、立ち止まる価値がある。発電所本館は建築として見分けやすいが、擁壁は地面として読まれてしまう。この登録は、平坦地と建物をひとつの築造行為として扱っている。昭和5年の技術者たちも、まさにそう理解していたはずだ。同じ見方から、近隣の入発電所と平作原発電所でも石積の擁壁が登録の対象に含まれている。
見どころ
鉄管路脇の擁壁を斜面に沿って目で追い、石の並びがどう変わるかを見てほしい。斜面上の擁壁は、地面が急になるにつれて勾配を変えねばならない。石工はそれを、壁を段状に折るのではなく、石の大きさと目地の走りを調整することでさばいている。背後の幾何が絶えず変わっているのに、表面は連続した面として読める。
本館まで下りたら、擁壁と建物が接する箇所を見る。両者は別の仕事をする別の構造物であり、石とコンクリートのあいだのわずかな隙間は欠陥ではない。擁壁が自分の速さで沈下しても、建物を引きずらないための隙間である。
この時代の土工として90メートルはかなりの長さで、上斎原発電所鉄管路擁壁及び本館擁壁の線をたどると、昭和5年の造成の規模が、どの水路施設よりもよくつかめる。そこに読み取れるのは、技術者が来る前の山腹の形である。ネガとして記録されているわけだ。
見学方法
稼働中の発電所の一部であり、入場料も公開時間の設定もない。擁壁は柵で囲われた敷地の内側にある。
設備を見学したい場合、岡山県は中国電力株式会社津山電力所(電話0868-27-0275)への事前連絡を求めている。撮影の可否も同じ電話で確かめておきたい。
本館とその敷地は鏡野町最北部の上齋原字樽原にあり、鳥取県境に近く、津山と人形峠を結ぶ国道179号の沿線にあたる。公共交通ではJR姫新線で津山駅または院庄駅へ行き、中鉄北部バスの奥津温泉・石越方面の便に乗り継ぐ。時刻表は鏡野町が案内している。擁壁は谷沿いの道路から眺めるのがよく、斜面を登る全長を一度に見渡せる。
Q&A
- 上斎原発電所鉄管路擁壁及び本館擁壁とはどんなものですか?
- 昭和5年(1930年)築造の石積擁壁2群です。ひとつは本館と水槽を結ぶ鉄管路の両脇を直線状に登る擁壁、もうひとつは本館の西側と北側の敷地を区画する擁壁です。
- 上斎原発電所鉄管路擁壁及び本館擁壁の長さはどれくらいですか?
- 総延長90メートルです。すべて石積で、文化庁の記録は往時の姿を良好に留めていると記しています。
- なぜ擁壁が文化財として登録されているのですか?
- 平坦地と建物がひとつの築造行為だからです。この谷にはほとんど平地がなく、擁壁はそもそも発電所を成り立たせるために必要な工事でした。
- 鉄管路の脇を歩いて登れますか?
- 登れません。斜面は事業者の柵の内側にあり、急で樹林に覆われています。設備の見学は中国電力株式会社津山電力所(0868-27-0275)を通して調整することになります。
- 吉井川上流の他の発電所にも同じような擁壁がありますか?
- あります。大正9年(1920年)の入発電所と昭和3年(1928年)の平作原発電所でも、石積の擁壁が登録対象に含まれています。いずれも鏡野町内です。
基本情報
| 名称 | 上斎原発電所鉄管路擁壁及び本館擁壁 |
|---|---|
| 所在地 | 岡山県苫田郡鏡野町上齋原字樽原1161-3 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 指定年 | 1930年築造、2006-11-29登録 |
| 員数 | 1所 |
| 寸法 | 石造、総延長90メートル |
| 所有者 | 中国電力株式会社 |
| 公開状況 | 稼働中の施設。谷沿いの道路から遠望可。設備見学は津山電力所(0868-27-0275)へ事前連絡 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「上斎原発電所鉄管路擁壁及び本館擁壁」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00006059
- 文化庁 文化遺産オンライン「上斎原発電所鉄管路擁壁及び本館擁壁」
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/118934
- 岡山県教育庁文化財課「岡山県内の国登録文化財」
- https://www.pref.okayama.jp/page/detail-50777.html
- 岡山県「上斎原発電所施設」解説(PDF)
- https://www.pref.okayama.jp/uploaded/attachment/260992.pdf
- 岡山県「入発電所施設」解説(PDF)
- https://www.pref.okayama.jp/uploaded/attachment/260990.pdf
- 鏡野町「路線バス 公共交通」
- https://www.town.kagamino.lg.jp/soshiki/22/2132.html
最終更新日: 2026.09.08