昭和7年、山あいの村が選んだ鉄筋コンクリート

佐伯町ふる里会館(旧和気郡山田村役場庁舎)は、岡山県和気郡和気町岩戸にある昭和7年(1932年)竣工の旧村役場庁舎で、平成9年(1997年)9月3日に国の登録有形文化財に登録された。

建築面積は約80平方メートル。一般的な住宅とさほど変わらない規模である。吉井川が北へ向かう谷筋の県道沿いに建ち、周囲は田と山で、庁舎らしい構えを予想して訪れると規模の小ささにまず驚く。

昭和初期の鉄筋コンクリートは都市の材料だった。官庁、銀行、百貨店。人口数千の山間の村がこれを採用する理由は、経済的には見当たらない。それでも山田村は鉄筋コンクリート造一部木造2階建という構造を選び、昭和8年(1933年)から村役場としての使用を始めている。

登録の理由

登録基準は「造形の規範となっているもの」。評価の柱は二つある。

ひとつは正面の構成である。中央部をわずかに高くし、玄関ポーチを張り出させ、左右対称にまとめる。これは規模の大きな市庁舎や県庁舎で用いられる公共建築の文法を、村役場の寸法に落とし込んだものだ。開口部の隅や玄関まわりには曲線が使われており、文化庁の解説はここに表現主義の影響を読み取っている。大正末から昭和初期にかけて、建築雑誌や留学帰りの技術者を通じてドイツ由来の造形が日本に入ってきた時期にあたる。

もうひとつは施工の質だ。和気町の資料は、1階窓下の外壁の材料と施工が優れている点を挙げ、同じく登録有形文化財である永井家住宅と同様の石積み工法が用いられていると記す。階段室の設計と施工についても慎重かつ丁寧との評価がある。地方の初期鉄筋コンクリート建築には、予算の制約が仕上げに露骨に出ているものが少なくない。この建物にはそれがない。

結果として文化庁のデータベースは、地方における鉄筋コンクリート造建築の初期の事例として注目に値する、と記述している。

役場から農協へ、そして資料館へ

村役場としての役目は昭和30年(1955年)に終わった。山田村が合併して佐伯町が成立し、役場機能は矢田へ移る。建物はその後、佐伯町農業協同組合の本所となり、農協の合併にともなって山田支所として使われた。

転機は昭和57年(1982年)である。近隣の天神山城跡が岡山県指定史跡となり、これを記念して昭和60年(1985年)に町が農協から建物を譲り受け、「ふる里会館」として発足させた。

館内には約500点が展示されている。天神山城跡の出土品、町内から寄贈された民具、そして片上鉄道の関係資料。天神山城は浦上宗景の居城で、宇喜多直家に攻められて落ちた連郭式の山城である。片上鉄道は柵原鉱山の硫化鉄鉱を片上港へ運ぶために大正12年(1923年)に開業し、平成3年(1991年)に廃止された。廃線跡は現在サイクリングロード「片鉄ロマン街道」として整備されており、この谷の住民にとっては記憶の新しい話題である。

見学は無料だが、常時開館しているわけではない。和気町教育委員会社会教育課(0869-92-1135)への事前予約が必要になる。外観の撮影に制限はない。内部を撮影したい場合は予約の際に確認しておきたい。

公共交通で向かうなら、JR和気駅から周匝方面行きのバスに乗り、約10分の「天瀬下」で降りればすぐ目の前である。ただし便数は多くなく、日曜・祝日は運休する。車の場合は山陽自動車道和気インターチェンジから約20分、駐車場は普通車2台分。

Q&A

Q佐伯町ふる里会館は見学できますか。入館料はかかりますか。
A見学できます。入館は無料ですが事前予約制です。和気町教育委員会社会教育課(0869-92-1135)へ連絡してから訪ねてください。予約なしの飛び込み見学には対応していません。
Q佐伯町ふる里会館はいつ建てられ、もとは何に使われていた建物ですか。
A昭和7年(1932年)の竣工で、翌昭和8年から昭和30年まで和気郡山田村の役場庁舎として使われました。その後は農業協同組合の事務所となり、昭和60年(1985年)に町が譲り受けて現在の会館になりました。
Q佐伯町ふる里会館の文化財としての区分は何ですか。
A国の登録有形文化財(建造物)です。登録番号は33-0017、登録年月日は平成9年9月3日、告示は同年9月16日。重要文化財や国宝の「指定」ではなく、規制のゆるやかな「登録」の制度による保護です。
Q佐伯町ふる里会館へは公共交通機関でどう行けばよいですか。
AJR和気駅から周匝方面行きバスで約10分、「天瀬下」下車すぐです。運行本数は限られ、日曜・祝日は運休となるため、事前に時刻を確認してください。車なら山陽自動車道和気ICから約20分、駐車場は2台分です。
Q佐伯町ふる里会館の館内には何が展示されていますか。
A約500点の資料があります。県指定史跡・天神山城跡の出土品、町内から寄贈された民具、平成3年に廃止された片上鉄道の関係資料などです。

基本情報

名称佐伯町ふる里会館(旧和気郡山田村役場庁舎)
所在地岡山県和気郡和気町岩戸725-1
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号33-0017 基準:造形の規範となっているもの
指定年平成9年(1997年)9月3日登録/同年9月16日告示
員数1棟
寸法鉄筋コンクリート造一部木造2階建、建築面積約80平方メートル
所有者国のデータベース上は佐伯町(同町は平成18年に和気町と合併)
公開状況事前予約により見学可(無料)

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁) 佐伯町ふる里会館(旧和気郡山田村役場庁舎)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00000311
文化遺産オンライン 佐伯町ふる里会館(旧和気郡山田村役場庁舎)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/137581
和気町ホームページ 建造物(町内の登録有形文化財)
https://www.town.wake.lg.jp/gyosei/wakeBunkazai/bunkazaiKenzoubutu/
岡山観光WEB 和気町ふる里会館
https://okayama-kanko.jp/spot/11619

最終更新日: 2026.08.06