岡山県下最古の木造建築

長福寺三重塔は、岡山県美作市真神にある鎌倉時代後期の塔婆で、弘安8年(1285年)の建立、大正10年(1921年)4月30日に国の重要文化財に指定された。

岡山県内に現存する三重塔は14基を数えるが、そのなかで長福寺三重塔は最も古く、二番手との差は一世紀を優に超える。県下最古の木造建築物でもある。

寺の正式な呼称は真木山般若院長福寺。真言宗御室派に属し、本尊は十一面観音である。寺伝では天平宝字元年(757年)に唐僧鑑真が孝謙天皇の勅願によって開いたとされる。『東作誌』など近世の地誌も同様の伝承を載せるが、どこまで史実を反映しているかは判然とせず、その後中世に至るまでの沿革も明確ではない。

確度の高い記録が現れるのは弘安8年である。この年、円源が天台宗の寺院として当寺を再興した。三重塔はその再興事業に属する。最盛期には僧坊が65坊を数えたという。その後、天台宗と真言宗のあいだで宗派の帰属が入れ替わりを繰り返し、南北朝期の明徳年間(1390年代初頭)に真言宗へ確定した。

山上から山麓へ、二度の移動

いま目にする三重塔は、建てられた場所に立っているわけではない。長福寺はもともと真木山の山上にあり、度重なる火災で次第に規模を失っていった。昭和3年(1928年)、寺は山麓の現在地へ移る。塔だけが山上に残された。やがて損傷が進み、昭和26年(1951年)に解体して山を下り、現在地で組み直された。

解体修理は木造建築に対して最も踏み込んだ介入であり、同時に最も多くの情報をもたらす作業でもある。この工事で確認された棟札には弘安8年の再建と記されており、これが現在の国のデータベースに載る年代の根拠になっている。

構造及び形式等は「三間三重塔婆、こけら葺」と記載される。総高は22.07メートル、平面は一辺およそ6メートル。こけら葺は檜などの薄い割板を密に重ねて葺く工法で、瓦葺よりも軒先の線が細やかに出る反面、数十年ごとの葺き替えを必要とする。

建築史の側から評価されるのは、全体の均衡である。各重の逓減が的確で、細部の手法は繊細というより堅実で雄大な部類に入る。後代の地方塔に見られる痩せた印象がなく、鎌倉時代の性格をよく保っている。

塔の下に立つ

塔は丹塗りである。背後の杉木立を背景にすると、この朱がかなり遠くからでも目に入る。参道の周囲には紫陽花が植えられており、6月には花越しに塔を見上げる構図が撮れる。地元の写真愛好家がこの時期に集まるのはそのためだ。

見上げる前に、まず塔のまわりを一周してほしい。基壇の高さから見ると組物や尾垂木の納まりが読み取りやすく、こけら葺の軒は西日が横から差し込む時間帯に最も質感が出る。

その先、塔を過ぎて坂を上ると虚空蔵堂がある。地元の人々にとって長福寺の中心はこちらである。毎年1月の第3日曜日、この堂で虚空蔵大祭が営まれる。別名を「十三参り」といい、およそ250年の伝統を持つ行事で、美作市の重要無形民俗文化財に指定されている。数えで13歳になる子どもが親や祖父母に連れられて丹塗りの塔を見上げながら参道を上り、堂前で線香を供え、その煙を浴びる。知恵と福徳を授かり、厄を払うためである。当日は境内に露店が並び、普段は静かな谷が一日だけ賑わう。

拝観と交通

境内は自由に歩くことができ、拝観料はかからない。門も受付もなく、開門時間の定めもない。常駐の職員がいない日も多いため、見学は各自の判断で進めることになる。塔の撮影は境内のどこからでも制限なく行えるが、内部は公開されていない。

駐車場は普通車約20台分が確保され、大型車の駐車スペースもある。中国自動車道の美作インターチェンジから車で約30分。この立地では車が最も現実的な手段になる。

公共交通は手薄である。実用的な最寄り駅はJR林野駅で、そこからタクシーで約25分。JR和気駅からでも約30分かかる。付近のバス停からは徒歩40分近くを農道で歩くことになるため、往復ともタクシーを手配しておくほうが結果的に効率がよい。

1月の大祭の詳細や、塔の外観以外の拝観について確認したい場合は、長福寺(0868-74-2026)に問い合わせるとよい。美作市は湯郷温泉を擁する温泉地でもあり、一日の行程を組むなら組み合わせやすい。

Q&A

Q長福寺三重塔はどこにあり、どう行けばよいですか?
A岡山県美作市真神414にあります。中国自動車道の美作インターチェンジから車で約30分。鉄道の場合はJR林野駅からタクシーで約25分、JR和気駅からは約30分です。駐車場は普通車約20台分あります。
Q長福寺三重塔は自由に見学できますか。拝観料は必要ですか?
A境内は自由で、拝観料は不要です。受付や開門時間の定めもありません。塔は外観のみの見学で、内部は公開されていません。
Q長福寺三重塔はいつ建てられたのですか?
A鎌倉時代後期の弘安8年(1285年)です。解体修理の際に確認された棟札に、この年の再建と記されています。岡山県内に現存する木造建築物としては最も古いものです。
Q長福寺三重塔は建立当初からこの場所に建っていたのですか?
Aいいえ。もとは真木山の山上に建っていました。寺が昭和3年(1928年)に山麓の現在地へ移り、塔は昭和26年(1951年)に解体されて現在地へ移築されています。
Q長福寺三重塔を訪ねるのに適した時期はありますか?
A6月は参道の紫陽花と塔を組み合わせて見られます。1月第3日曜日には虚空蔵大祭(十三参り)が営まれ、露店が出て多くの参拝者が訪れます。静かに見学したい場合はこの二つの時期を外すとよいでしょう。

基本情報

名称長福寺三重塔(ちょうふくじさんじゅうのとう)
所在地岡山県美作市真神(真神414)
指定区分重要文化財(建造物)/指定番号 00754
指定年大正10年(1921年)4月30日
員数1基
寸法三間三重塔婆、こけら葺/総高22.07メートル
所有者長福寺
公開状況境内自由・拝観料不要。外観のみ見学可、駐車場あり(普通車約20台)

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「長福寺三重塔」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/3098
美作市公式ホームページ「長福寺」
https://www.city.mimasaka.lg.jp/kanko/spot/history_culture/shrine_temple/1453448851006.html
美作市公式ホームページ「長福寺虚空蔵大祭」
https://www.city.mimasaka.lg.jp/kanko/event/1/3838.html
岡山県観光連盟 岡山観光WEB「長福寺」
https://www.okayama-kanko.jp/spot/11515

最終更新日: 2026.08.06