辻本店とは ― 勝山の旧出雲街道に建つ御前酒の蔵元

辻本店は、岡山県真庭市勝山の旧出雲街道沿いで文化元年(1804年)から酒造りを続ける造り酒屋で、店舗兼主屋をはじめとする9件の建造物が平成26年(2014年)4月25日に登録有形文化財に登録された。社名は「つじほんてん」と読み、銘柄「御前酒(ごぜんしゅ)」の蔵元として知られる。英語では Tsuji Honten Sake Brewery と表記する。

勝山は美作勝山藩三浦家二万三千石の城下町であり、出雲街道の宿場町でもあった。辻本店の公式サイトによると、創業のころから藩主に献上する酒を造って「御膳酒」の銘を受け、これが現在の「御前酒」の由来とされる。町の人々には「萬悦」という銘柄で親しまれていたという。

仕込み水には、蔵の脇を流れる旭川の伏流水を汲み上げて使っていると蔵元は説明している。酒造りの季節は11月から翌年4月までの寒仕込みで、この期間は通りを歩くだけでも蔵の気配が伝わってくる。

辻本店の敷地 ― 通りの東と西に分かれた建物群

辻本店の建物は、南北に通る旧出雲街道を挟んで東西に分かれている。東側が住まいと商いの中心、西側が酒の貯蔵に使われてきた土蔵の側である。文化庁の解説文に記された位置関係をつなぐと、敷地はおおよそ次のように並ぶ。

  • 東側の中心は、通りに西面して建つ店舗兼主屋。その南に土蔵造の事務所が接続し、北には衣装蔵が続く
  • 衣装蔵のさらに北に、離れ座敷の奥座敷が建つ。奥座敷の式台玄関の西正面、通りに面した位置に表門と塀がある
  • 奥座敷の東には庭があり、その北面と東面を庭塀が囲って、登録対象外の東蔵へつながる。庭の南東寄りには屋敷社の社舎が祀られている
  • 通りを挟んだ西側には、現在ショップと食事処が入る西蔵が建ち、その北に倉庫が並ぶ

通りを南から北へ歩くと、東側では事務所、店舗兼主屋、衣装蔵、表門と塀の順に、西側では西蔵、倉庫の順に外観が現れる。白い漆喰の壁と海鼠壁の格子模様が両側から迫る区間で、辻本店の建物群がひとまとまりに見えるのはこの位置になる。奥座敷・庭塀・社舎は表門の奥の私的な空間にあり、通りからはほとんど見えない。

辻本店の登録有形文化財9件

辻本店の9件は、いずれも平成26年(2014年)4月25日に登録有形文化財(建造物)として登録された。登録番号は33-0257から33-0265までの連番である。建築年代は江戸後期の店舗兼主屋がもっとも古く、昭和前期の庭塀がもっとも新しい。

  • 店舗兼主屋:江戸後期、木造2階建、建築面積336平方メートル
  • 事務所:江戸末期、土蔵造平屋一部2階建、建築面積148平方メートル
  • 衣装蔵:明治中期、土蔵造2階建、建築面積58平方メートル
  • 奥座敷:明治中期、木造平屋建、建築面積121平方メートル
  • 社舎:明治中期、木造、建築面積0.2平方メートル
  • 表門及び塀:明治中期、表門の間口1.7メートル、塀の総延長25メートル
  • 庭塀:昭和前期、延長47メートル
  • 西蔵:明治中期、土蔵造2階建、建築面積136平方メートル
  • 倉庫:明治期、土蔵造2階建、建築面積223平方メートル

登録の基準は、8件が「国土の歴史的景観に寄与しているもの」、衣装蔵の1件だけが「再現することが容易でないもの」である。辻本店の公式サイトは、老舗の蔵元の生業と暮らしを伝える施設が一連のまとまりとして残り、今も使われている点が評価されたと説明している。なお公式サイトは登録を2013年11月としているが、文化庁のデータベースに記された登録年月日は2014年4月25日であり、ここでは後者に従った。

辻本店の見学方法とアクセス

辻本店へは、JR姫新線の中国勝山駅から徒歩約15分である。車の場合は中国自動車道の落合ICから約30分、米子自動車道の久世ICから約20分。蔵元の駐車場は普通車5台分で、近くに無料の観光駐車場がある(岡山県観光連盟の案内による)。

蔵元の営業時間は午前8時から午後5時まで、西蔵に入る直営ショップは午前10時から午後5時までで、木曜日と年末年始が休みとなっている。食事処の営業日は別に定められているので、訪問前に公式サイトで確かめておきたい。

酒蔵の見学は予約制である。座学と試飲の「Good Plan」が1人1,500円、座学・試飲に蔵内の見学が加わる「SURPRISING Plan」が1人5,000円で、受け入れは1名から40名まで、開催2日前までの予約が必要とされる。外国語での対応は指定日に限られる。見学の時間は蔵元が指定する。

通りに面した店舗兼主屋・事務所・衣装蔵・表門及び塀・西蔵・倉庫の外観は、公道からいつでも眺められる。奥座敷・庭塀・社舎は私有地の奥にあり、一般公開の案内は出ていない。住居部分への立ち入りは控え、建物の内部で写真を撮りたいときは店の人に声をかけてから撮るのがよい。

勝山の町並みと辻本店

辻本店が建つ一帯は、白壁や格子窓の商家、なまこ壁の土蔵が続く町並みで、昭和60年(1985年)に岡山県で最初の町並み保存地区となった。家々の軒先には草木染ののれんが掛かり、それぞれの商いにちなんだ図柄が染め抜かれている。辻本店ののれんの図柄は、祝いの席に用いる角樽である。

蔵元の公式サイトは、平成元年(1989年)に貯蔵庫だった蔵を改修して酒蔵レストラン「西蔵」を開き、町づくりの拠点にしてきたと記している。通りの両側で古い建物を使い続けてきた辻本店の歩みは、そのまま勝山の町並みが今の姿になった経緯と重なっている。

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「辻本店店舗兼主屋」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00010052
文化庁 国指定文化財等データベース「辻本店事務所」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00010053
文化庁 国指定文化財等データベース「辻本店衣装蔵」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00010054
文化庁 国指定文化財等データベース「辻本店奥座敷」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00010055
文化庁 国指定文化財等データベース「辻本店社舎」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00010056
文化庁 国指定文化財等データベース「辻本店表門及び塀」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00010057
文化庁 国指定文化財等データベース「辻本店庭塀」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00010058
文化庁 国指定文化財等データベース「辻本店西蔵」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00010059
文化庁 国指定文化財等データベース「辻本店倉庫」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00010060
御前酒蔵元 辻本店「蔵元紹介」
https://www.gozenshu.co.jp/sp/kuramoto/
御前酒蔵元 辻本店「蔵元のある勝山の町」
https://www.gozenshu.co.jp/sp/town/
岡山観光WEB(岡山県観光連盟)「御前酒蔵元 辻本店」
https://www.okayama-kanko.jp/spot/detail_11328.html
真庭市「勝山町並み保存地区」
https://www.city.maniwa.lg.jp/soshiki/58/75076.html

最終更新日: 2026.09.24

基本情報

名称辻本店
所在地岡山県真庭市勝山字山本町屋敷116
所有者株式会社辻本店
指定登録有形文化財 9件
座標35.08594, 133.69097