建築家下村喜三郎が自邸として設計した家
松村家住宅主屋は、大阪府豊中市東豊中町にある昭和10年(1935年)建築の木造2階建の郊外住宅で、平成19年(2007年)12月5日に国の登録有形文化財に登録された。阪急電鉄の嘱託として分譲地の住宅設計に当たった建築家、下村喜三郎が自らの住まいとして設計した家である。羽曳野市島泉にある同名の松村家住宅(江戸時代の庄屋屋敷)とは別の物件にあたる。
豊中市によると、この家は阪急電鉄が昭和8年(1933年)から開発した東豊中住宅の一角にあり、島熊山と呼ばれた丘陵に位置する。建てられた当時は、敷地から南西の方角へ見晴らしが開けていた。昭和16年(1941年)に松村家が買い取り、現在の名称はこの所有者に由来する。
文化庁データベースの記載では、構造は木造2階建、瓦葺、建築面積は123平方メートルである。
郊外住宅地をつくった建築家の自邸として
松村家住宅主屋は、登録基準のうち「造形の規範となっているもの」で登録された(登録番号27-0437)。文化庁の解説は、関西の郊外住宅の開発と設計に関わった建築家の自邸として貴重であると評価している。
下村喜三郎は、関西土地株式会社の技師を経て阪神急行電鉄(現在の阪急電鉄)の嘱託となった人物で、関西土地の時代には堺市の大美野田園都市の設計を手がけた。鉄道会社が沿線に住宅地を開き、そこに家を建てて売るという関西私鉄の手法のなかで、住宅地の計画と一軒ごとの住宅の両方を担った建築家である。
その建築家が、自分の住まいとして何を選んだか。豊中市は、この家に下村の環境と住宅に対する考え方がよく示されていると説明している。分譲住宅の設計者が自邸で見せた答えとして、松村家住宅主屋は読むことができる。
山小屋風の妻面と薄朱色の瓦
外観でまず目に入るのは、切妻屋根の妻面である。外壁は柱を塗り込めた大壁とし、妻面には棟と桁を支える独特の形の持送りを用いる。文化庁の解説は、この持送りと丸太柱による意匠を山小屋風と表現している。豊中市は、山村の住まいを思わせるこの意匠が、山林を開いた当時の周囲の景観によく合っていたと推測している。
屋根には薄朱色の釉薬瓦を葺く。下村はこの住宅地で山林を開いて4軒の住宅を同時に設計し、それぞれに違う色の屋根瓦を用いたと伝わる。4軒のうち現存するのは松村家住宅主屋だけとされ、薄朱色の屋根は、かつて丘に並んだ色違いの屋根の唯一の名残ということになる。
洋室と和室を組み合わせた間取り
平面は、居間と食堂を洋室とし、要所に和室を配した構成である。居間と食堂は一続きの広間になっているが、その境に数寄屋風の垂壁を設けて、天井から下がる小壁で緩やかに空間を分けている。洋風の広間に和の意匠で区切りを入れた、この家でいちばん目を引く部分である。
居間の前にはサンルームを兼ねた広縁が延び、応接間と、居間の横の和室とを結ぶ通路の役目も果たす。2階は本床付きの6畳間と4畳半の和室からなる。
昭和16年(1941年)に松村家が購入したのち増築が行われたが、豊中市によれば、その際にも元の意匠を尊重した改造にとどめられている。
見学とアクセス
松村家住宅主屋は個人の住まいで、豊中市は一般公開は行っていないと案内している。大阪文化財ナビも非公開としている。敷地や建物に入ることはできず、訪ねても外から眺めるにとどまる。
大阪文化財ナビによれば、主屋は約300坪(約990平方メートル)の敷地の中央に建ち、周囲には梅・桜・藤・紅葉などの木々が植えられている。道から建物の姿がどこまで見えるかは公表資料からは分からない。住宅地の中の住まいであることを踏まえ、家の前に長く立ち止まったり、敷地の中へレンズを向けたりするのは控えたい。
最寄り駅は大阪モノレールの少路駅で、松村家住宅主屋は駅の東南、直線でおよそ400メートルの位置にある。歩いて5分から10分ほどの距離である(地図上の目安)。
所在地の表記は資料によって異なり、文化庁データベースは東豊中町2-20、豊中市は東豊中町2-2-40としている。問い合わせ先は、豊中市教育委員会事務局社会教育課文化財保護係(電話06-6858-2581)である。
Q&A
- 豊中の松村家住宅主屋は誰が設計したのですか?
- 阪急電鉄の嘱託として分譲地の住宅設計に当たった建築家、下村喜三郎が、昭和10年(1935年)に自邸として設計しました。
- 松村家住宅主屋(豊中市)はいつ登録有形文化財になりましたか?
- 平成19年(2007年)12月5日に国の登録有形文化財に登録されました。登録基準は「造形の規範となっているもの」です。
- 松村家住宅主屋(豊中市)の外観の特徴は?
- 切妻の妻面の独特な持送りと丸太柱による山小屋風の意匠と、薄朱色の釉薬瓦の屋根が特徴です。
- 松村家住宅主屋(豊中市)は見学できますか?
- 個人の住まいのため一般公開は行われておらず、敷地や建物には入れません。
- 松村家住宅主屋(豊中市)への最寄り駅はどこですか?
- 大阪モノレールの少路駅で、駅の東南、直線でおよそ400メートルの位置にあります。
基本情報
| 名称 | 松村家住宅主屋(まつむらけじゅうたくしゅおく) |
|---|---|
| 所在地 | 大阪府豊中市東豊中町2-20(豊中市の案内では東豊中町2-2-40) |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 指定年 | 2007年12月5日登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造2階建、瓦葺、建築面積123平方メートル |
| 所有者 | 文化庁データベースに記載なし |
| 公開状況 | 非公開(豊中市の案内による) |
参考文献
- 松村家住宅主屋(国指定文化財等データベース/文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00006695
- 松村家住宅(豊中市 登録文化財)
- https://www.city.toyonaka.osaka.jp/jinken_gakushu/bunkazai/touroku_bunkazai/touroku07.html
- 松村家住宅(東豊中住宅地)(大阪文化財ナビ)
- https://osaka-bunkazainavi.org/bunkazai/%E6%9D%BE%E6%9D%91%E5%AE%B6%E4%BD%8F%E5%AE%85%EF%BC%88%E6%9D%B1%E8%B1%8A%E4%B8%AD%E4%BD%8F%E5%AE%85%E5%9C%B0%EF%BC%89
最終更新日: 2026.09.26