紀州街道の西、貝塚寺内町に残る油商の町家
大阪府貝塚市西町、紀州街道から一筋西に入った通りの北東に、吉村家住宅は西を向いて建っている。主屋の建築は江戸時代中期、十八世紀の半ばごろにさかのぼるとみられ、江戸時代を通じて油屋と両替商を営んだ商家の住まいである。屋号を和泉屋、あるいは泉久といい、当主は代々「久」の字を名に用いた。
家に残る「文政三年諸用記」によれば、吉村家は町年寄の格式を持ち、西之町の中老役をつとめていた。農家でも武家でもない。寺内町の商いと自治の双方に深く関わった町家であったことがわかる。
「登録」と「指定」はどう違うのか
吉村家住宅主屋は、平成十五年(二〇〇三)七月一日に登録有形文化財(建造物)となった。この「登録」という区分は、国宝や重要文化財の「指定」とは性格が異なる。指定は、歴史的に格の高い建造物を厳選して手厚く保護する制度である。一方の登録は、平成八年(一九九六)に始まった比較的新しい仕組みで、江戸期から近代にかけて、まちの景観を支えてきた建物を幅広く守ることを目的とする。吉村家住宅主屋は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」という基準で登録された。
なお、同じ「吉村家住宅」の名で知られる重要文化財が、北の羽曳野市にある。そちらは民家として日本で初めて旧国宝に指定された大規模な旧家で、貝塚の吉村家とは別の建物、別の家系である。貝塚の方は、繁栄した商業町の一画を今に残す町家として評価されている点に特色がある。
登録の理由のひとつは、その間取りにある。貝塚の町家では、格の高い座敷を設ける際、上手側の背後に増築するのが通例だった。吉村家はこの慣例によらず、幕末期に下手側、すなわち南側へ座敷を増築している。文化庁もこの珍しさと、増築された座敷の意匠の優秀さを評価している。
通りから何を見るか
吉村家住宅は個人の住まいであり、内部は公開されていない。それでも通りから眺める意味は十分にある。主屋は桁行五間半ほど、西に面して構え、右手の付属屋がその奥の座敷へと続く。座敷の両脇には土蔵が並び、北側の土蔵の前には二間四方ほどの中庭が設けられている。
玄関よりも通りそのものを読みたい。瓦葺の平屋根、隣家の格子、そして小路の通り筋は、いずれも江戸期以来の同じ肌理を保っている。この住宅が評価されたのは、こうした町並みを支えている点にある。だから、ふさわしい味わい方は、小路で足をとめ、一区画全体のまとまりを見渡すことだろう。
住宅を囲む寺内町
貝塚は、寺院を核として自治を営んだ寺内町として育った。その中心が、貝塚御坊とも呼ばれる浄土真宗の願泉寺である。天正年間の二年あまり、願泉寺は顕如上人を迎えて浄土真宗の本山となった由緒を持つ。慶長十五年(一六一〇)以降は卜半家が領主として貝塚寺内を治め、徳川家康の黒印状によって諸役免許を認められたうえで、明治初年まで二百六十年あまりにわたり自治が続いた。
願泉寺には本堂や太鼓堂、表門など複数の重要文化財があり、吉村家住宅からも歩いてまわれる距離にある。地元のボランティアガイドによる寺内町の散策ツアーでは、願泉寺や感田神社、小路沿いの古い町家をたどることができる。こうした散策に、町なかの料亭での食事を組み合わせれば、半日の行程として心地よくまとまる。
交通の便もよい。南海本線の貝塚駅から寺内町までは徒歩四分ほどで、難波から一本でつながっている。
Q&A
- 吉村家住宅の内部は見学できますか。
- いいえ。現在も個人の住宅で、内部は非公開です。歴史的な町並みの一部として、通りから外観を眺めることができます。
- 羽曳野市の有名な吉村家住宅とは何が違うのですか。
- 姓が同じだけで、別の家です。羽曳野の吉村家は大規模な旧家で重要文化財ですが、貝塚の吉村家は寺内町の通りに連なる登録有形文化財の町家です。
- 「登録有形文化財」とはどのような区分ですか。
- 平成八年(一九九六)に設けられた制度で、地域の景観を形づくる歴史的建造物を幅広く保護します。重要文化財や国宝の「指定」より緩やかで、対象も広いのが特徴です。
- どのように行けばよいですか。
- 南海本線の貝塚駅で下車し、寺内町まで徒歩四分ほどです。難波から一本でつながっています。
- 寺内町を案内してもらえますか。
- はい。地元のボランティアガイドが、願泉寺や感田神社、小路沿いの町家をめぐる散策ツアーを実施しています。
基本情報
| 名称 | 吉村家住宅主屋(よしむらけじゅうたくしゅおく) |
|---|---|
| 所在地 | 大阪府貝塚市西町12-7 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 平成15年(2003)7月1日登録 登録番号27-0246 |
| 時代 | 江戸時代 北側主要部は18世紀中頃、南側座敷は江戸末期(1830〜1867年)の増築 |
| 構造 | 木造平屋建、瓦葺、建築面積約460平方メートル 桁行五間半ほど |
| 員数 | 1棟(このほか道具蔵・衣装蔵が別に登録されている) |
| 所有者 | 個人 |
| 交通 | 南海本線・貝塚駅から徒歩約4分 |
| 公開状況 | 個人住宅のため内部非公開 外観は通りから見学可 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁) 吉村家住宅主屋
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003453
- 貝塚市 文化財データ 吉村家住宅
- https://www.city.kaizuka.lg.jp/bunkazai/bunkazaidata/bunkazai/kuni_sitei/tourokubunkazai/yosimurake.html
- 文化遺産オンライン(国立情報学研究所) 吉村家住宅主屋
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/183363
最終更新日: 2026.06.21