飯盛酒造と5件の登録有形文化財

飯盛酒造(いいもりしゅぞう)は、佐賀県鹿島市古枝の旧長崎街道多良往還沿いにある大正期の酒蔵で、主屋・一号蔵及び二号蔵・三号蔵・麹室・煙突の5件が平成18年(2006年)8月3日に国の登録有形文化財に登録された。官報での告示は同じ年の8月24日で、登録番号は41-0060から41-0064までの連番になっている。

5件の登録基準はそろって「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。文化庁のデータベースは、煙突を大正10年(1921年)頃、ほかの4件を大正末期の建築とする(データベース上の西暦表記は1912〜1925年)。三号蔵だけは、昭和初期に西側へ下屋が増築されている。

飯盛酒造は、いまは酒を造っていない。鹿島市観光協会によると、かつての代表銘柄は「乾盃(かんぱい)」で、現在は大正時代の蔵を使って粕漬や奈良漬を漬け、鹿島や佐賀の地酒とあわせて店で売っている。登録有形文化財の5件は、酒造りをやめたあとも商いの場として使われ続けている建物である。

飯盛酒造の来歴:「玉の香」から「乾盃」へ

飯盛酒造の煙突の北面には「玉の香」という文字が残る。文化庁の解説によれば、これは飯盛家がこの酒蔵を手に入れる前の醸造銘柄である。前の蔵元の名前や、飯盛家が蔵を取得した年は、公開されている資料からは読み取れない。

鹿島市の歴史的風致維持向上計画は、昭和42年(1967年)刊の『佐賀県酒造史』を引いて、飯盛酒造が遅くとも昭和14年(1939年)には創業していたと記す。同じ計画は、肥前浜駅から南西へ延びる市道沿いの富久千代酒造を、1999年の調査報告書にもとづいて「飯盛酒造から分家して大正末期に創業した」と紹介している。この記述に従えば、飯盛家の酒造りは大正末期にはもう始まっていたことになる。

飯盛酒造が建つ肥前浜宿は、有明海に注ぐ浜川の河口の港町で、多良往還の宿場町でもあった。鹿島市は、通称「酒蔵通り」で酒造業が盛んになったのは元禄年間とされ、天保9年(1838年)にはすでに9軒の酒屋が記録されていると説明している。飯盛酒造の建物群は、その酒蔵通りに残る大正期の酒造家の一式である。

飯盛酒造の敷地と5件の並び

鹿島市の案内では、飯盛酒造は肥前浜駅から南へ延びる市道が酒蔵通りに突き当たる地点に建つ。文化庁の解説文をつなぎ合わせると、敷地の建物は次のように並んでいる。

  • 北辺:旧多良往還に面して主屋が建つ。東側が土間、西側が居室部で、土間の背面の南側に釜場がつながる
  • 主屋の東側:土間の外壁に沿って、高さ約9メートルの煉瓦造の煙突が立つ。釜場から見ると北側にあたる
  • 東辺:主屋の土間の裏手に土蔵造2階建の三号蔵が建ち、その南面に煉瓦造平屋建の麹室が接続する。麹室は敷地の南東の角を占める
  • 南辺:土蔵造2階建の一号蔵が敷地の南の境に沿って建ち、東の麹室とのあいだを木造平屋建の二号蔵が結ぶ

北に主屋、東に三号蔵と麹室、南に一号蔵と二号蔵という配置で、建物が敷地の三方を取り囲んでいる。麹室が西面のやや開いた台形の平面をとるのは敷地の形に合わせたためと文化庁は説明しており、二号蔵の平面も台形である。

旧多良往還から見えるのは、主屋の正面と、その東に立つ煙突である。蔵の多くは主屋の奥にあって、通りからはほとんど見えない。鹿島市の案内によると、飯盛酒造の車庫の脇の小路は、無料で公開されている旧乗田家住宅へ続いている。

飯盛酒造の建築年代をめぐる記録

飯盛酒造の年代については、資料のあいだに食い違いがある。文化庁のデータベースは主屋と一号蔵及び二号蔵をいずれも大正末期とするが、鹿島市の歴史的風致維持向上計画は1999年の調査報告書を引いて、主屋と一号蔵を昭和3年(1928年)、二号蔵を大正4年(1915年)の建築としている。

建物の構成の書き方にも違いがある。同計画は主屋に槽場が接続し、その背後に一号蔵が独立して建つと記す。文化庁の解説では、槽場と瓶詰め場として使われたのは主屋の土間の裏手にある三号蔵である。このページと各棟のページは、登録の根拠である文化庁のデータベースに従い、計画の記載はもう一つの記録として併記している。

飯盛酒造の見学と行き方

飯盛酒造は粕漬と地酒の店として営業している。鹿島市観光協会の案内では、営業時間は午前9時から午後5時までで、休みは不定期である。店内では粕漬の試食ができ、酒造りをしていた頃の作業着や酒樽が飾られている。蔵の内部を見学として公開しているという案内は見当たらないので、建物は通りと店先から眺めることになる。

鉄道ならJR長崎本線の肥前浜駅で降り、駅から南へ延びる道をまっすぐ進む。突き当たりが飯盛酒造で、佐賀県酒造組合の案内では徒歩5分ほどである。鹿島市観光協会は、肥前浜駅では交通系ICカードが使えないと注意を促している。車の場合は店の前に5台ほど停められ、酒蔵通りには無料の「まちなみ駐車場」もある。

春の「肥前浜宿花と酒まつり」や秋の「肥前浜宿秋の蔵々まつり」の日は、酒蔵通りが大勢の人でにぎわう。飯盛酒造の外観を落ち着いて見たいなら、行事のない日を選ぶとよい。

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁):飯盛酒造主屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00005676
国指定文化財等データベース(文化庁):飯盛酒造一号蔵及び二号蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00005677
国指定文化財等データベース(文化庁):飯盛酒造三号蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00005678
国指定文化財等データベース(文化庁):飯盛酒造麹室
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00005679
国指定文化財等データベース(文化庁):飯盛酒造煙突
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00005680
鹿島市:肥前浜宿(町並みのみどころ)
https://www.city.saga-kashima.lg.jp/main/324.html
鹿島市歴史的風致維持向上計画 第2章 肥前浜宿に息づく人々の営みにみる歴史的風致(PDF)
https://www.city.saga-kashima.lg.jp/site_files/file/toshikeikaku/2-1hamashuku.pdf
鹿島市観光協会 かしまいろ:飯盛酒造
https://saga-kashima-kankou.com/souvenir/6440
鹿島市観光協会 かしまいろ:肥前浜宿・酒蔵通り
https://saga-kashima-kankou.com/spot/1114
鹿島市観光協会 かしまいろ:肥前浜宿の登録有形文化財一覧
https://saga-kashima-kankou.com/hizen-hamashuku-tangible-cultural-assets
佐賀県酒造組合:The SAGA認定酒が買える店(飯盛酒造)
https://www.sagasake.or.jp/frmCertificationBuyDetail.aspx?storeno=481&area=5

最終更新日: 2026.09.30

基本情報

名称飯盛酒造
所在地佐賀県鹿島市古枝甲122
所有者飯盛酒造株式会社
指定登録有形文化財 5件
座標33.09221, 130.11402