大白木の亥の子さま:佐賀県唐津市七山に息づく収穫の祝い

佐賀県唐津市七山の山間部に位置する大白木(おおしらき)地区には、「亥の子さま」と呼ばれる稲の収穫祝いの行事が伝承されています。旧暦10月(亥の月)の最初の亥の日前後に行われるこの行事では、地区の子どもたちがもち米の稲わらで作った傘状の「ワラトビ」を頭にかぶり、家々を訪れて祝福を授けます。その年の収穫への感謝と子どもたちの健やかな成長を祈るこの行事は、2023年3月に文化庁により「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」に選択されました。佐賀県内では13件目の選択となります。

亥の子行事の歴史的背景

亥の子の風習は、古代中国で旧暦10月の亥の日・亥の刻に穀類を混ぜた餅を食べると無病息災であるとされた俗信に由来します。この風習は平安時代に日本の宮中行事として取り入れられ、紫式部の『源氏物語』にも亥の子餅が登場します。その後、稲刈りの時期と重なることから西日本の農村を中心に収穫祭として民間に広まりました。田の神が秋の収穫を終えた後に山へ帰るのを見送る儀礼としての意味合いも持っています。

西日本各地の亥の子行事では、子どもたちが石に縄をつけた「石亥の子」や藁束で地面を叩く形式が多く見られますが、大白木の亥の子さまでは、ワラトビと呼ばれる稲わらの被り物をかぶった子どもたちが各家を巡り、「トービトビトイトイトイ」と唱えながら回るという、他の地域にはない独自の特色を持っています。

文化財に選択された理由

2023年1月、国の文化審議会は大白木の亥の子さまを「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」に選択するよう文化庁長官に答申し、同年3月22日に正式に選択されました。選択にあたっては、いくつかの重要な点が評価されました。

第一に、子どもたちがワラトビを被って家々を巡るという形式が、九州・西日本に広がる亥の子行事の中でも際立った地域的特色を持つことです。第二に、稲の収穫への感謝と子どもの成長祝いという二重の意味を持つ行事であることです。そして第三に、最も切迫した理由として、少子化による担い手不足が挙げられます。近年は参加年齢の範囲を広げて行事を維持している状況にあり、早急な記録の作成が必要とされています。

行事の流れと見どころ

亥の子さまは、旧暦10月最初の亥の日の前後、現在の暦では主に11月に行われます。当日は地区の小中学生約15人が2つの班に分かれ、それぞれがもち米の稲わらで作られたワラトビを頭にかぶります。ワラトビは稲わらの束を傘状にまとめたもので、子どもの頭と肩を覆う独特の形をしています。

2つの班はそれぞれ地区内の約30戸の家々を訪問します。各家では、土間の荒神を祀る神棚の下や玄関の上がり口に菓子などの供物が用意されており、子どもたちを出迎えます。子どもたちは各家の玄関で「トービトビトイトイトイ」と大きな声で唱えながらぐるぐると回り続け、世話役の合図がかかると外に出て次の家へと向かいます。

七つの山々に囲まれた静かな山里に子どもたちの元気な声が響き渡り、稲わらの衣装をまとった姿が薄暮の中を行き交う光景は、日本の農村の原風景そのものです。

七山エリアの魅力

大白木地区がある七山エリアは、浮岳・十坊山・笛岳・岩屋山・椿山・穀地蔵山・女岳の七つの山々に囲まれた自然豊かな地域です。日本の滝百選に選ばれた「観音の滝」は高さ30メートル・幅10メートルの豪快な滝で、約2キロメートルにわたる渓谷にはヤマメが泳ぎ、カワセミやセキレイなどの野鳥が生息しています。渓谷には「木がくれの淵」「静寂の淵」「白絹の滝」など詩的な名前がつけられた8つの滝と淵が点在し、四季折々の美しさを見せます。

七山の直売所では地元農家が毎朝届ける新鮮な朝採れ野菜が人気を集めており、トマトやきゅうり、南高梅などが特におすすめです。七山温泉では良質な泉質の湯に浸かってくつろぐことができます。

周辺の観光スポット

唐津市は玄界灘に面した美しい海岸線でも知られています。日本三大松原のひとつ「虹の松原」は約5キロメートルにわたって約100万本の黒松が連なる絶景です。呼子港ではイカの活き造りをはじめとする新鮮な海の幸を味わうことができます。唐津城は桜の名所としても有名で、天守閣からは唐津湾と虹の松原を一望できます。毎年11月に開催される「唐津くんち」はユネスコ無形文化遺産にも登録された祭りで、華麗な曳山が街を練り歩きます。やきものに興味がある方には、唐津焼の窯元やギャラリーを巡る散策もおすすめです。

Q&A

Q大白木の亥の子さまとはどのような行事ですか?
A佐賀県唐津市七山の大白木地区に伝わる稲の収穫祝いの行事です。子どもたちがワラトビと呼ばれる稲わらの被り物をかぶって家々を巡り、「トービトビトイトイトイ」と唱えながら回ることで、収穫への感謝と子どもの健やかな成長を祈ります。
Qいつ頃開催されますか?
A旧暦10月(亥の月)最初の亥の日の前後に行われます。現在の暦では主に11月にあたります。
Q一般の観光客も見学できますか?
A大白木の亥の子さまは山間部の小さな集落で行われる地域の行事であり、一般向けの公開イベントとして運営されているわけではありません。ただし、七山エリアには観音の滝や温泉など、通年で楽しめる観光スポットが多数あります。
Q「トービトビトイトイトイ」にはどのような意味がありますか?
Aこの唱え言葉の正確な意味は長い年月の中で不明になっていますが、祝福や幸運を招く呪文として、子どもたちの間で口伝えに受け継がれてきたものと考えられています。
Qなぜ文化財に選択されたのですか?
Aワラトビを被って家々を巡るという地域的に際立った特色が評価されたことに加え、少子化・過疎化により行事の継続が危ぶまれており、早急な記録の作成が必要と判断されたためです。2023年3月に「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」に選択されました。

基本情報

名称 大白木の亥の子さま(おおしらきのいのこさま)
種別 記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財
選択年月日 2023年(令和5年)3月22日
所在地 佐賀県唐津市七山白木 大白木地区
開催時期 旧暦10月最初の亥の日前後(現在の暦で主に11月)
アクセス 長崎自動車道 佐賀大和ICより車で約45分、西九州道 浜玉ICより約20分
問い合わせ 唐津市観光課 TEL:0955-72-9127

参考文献

大白木の亥の子さま - 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/559625
国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/312/00001022
【動画】「亥の子さま」収穫祝う - 佐賀新聞
https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1149529
大白木の亥の子さま、記録すべき文化財に - 佐賀新聞
https://www.saga-s.co.jp/articles/-/978488
七山エリア観光情報 - さがじかん
https://www.sagajikan.com/yomimono/1385/
観音の滝 - あそぼーさが(佐賀県観光サイト)
https://www.asobo-saga.jp/spots/detail/6447a053-385a-49ca-b684-a60b95470e64

最終更新日: 2026.04.08