塩田津の町並みを支える三階建て

杉光陶器店主屋(すぎみつとうきてんしゅおく)は、佐賀県嬉野市塩田町大字馬場下甲728に建つ江戸時代末期の大型町家で、平成10年(1998年)9月2日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。登録告示は同年9月25日、登録番号は41-0005である。

構造は木造三階建、屋根は瓦葺。文化庁のデータベースは建築面積を258平方メートルと記録する。塩田津の町並みのなかで、これだけの規模をもつ建物は多くない。

形式は入母屋造の妻入。街道に向かって切妻の三角形が立ち上がり、その面が白漆喰で塗り込められている。土蔵造の大型町家という文化庁の解説は、外観の印象をそのまま言い当てている。

平面は正面左手に通り土間を通し、右手に居室を二列に並べる構成をとる。近年の改装で店舗まわりの内部は一変したが、奥向きの部屋には旧態がよく残る。建築年代は文化庁の記録では江戸時代末期、西暦でいえば1830年から1867年の幅で示される。地元の観光案内には安政2年(1855年)の建築とするものもあるが、この年紀は国の記録には現れない。

「再現することが容易でないもの」という基準

登録有形文化財の制度は平成8年(1996年)に始まった。指定制度が現状変更に強い規制をかけるのに対し、登録制度は使い続けられている建物を届出制で守る仕組みで、登録に際しては三つの基準のいずれかが適用される。杉光陶器店主屋に適用されたのは「再現することが容易でないもの」であった。同じ敷地に建つ三棟の蔵が「国土の歴史的景観に寄与しているもの」で登録されているのと対照的である。

再現が難しいという判断の背後にあるのは、材料と手間と技術の三つである。塩田津の町家は居蔵造と呼ばれ、厚い土壁が重い瓦屋根を受ける。塩田津町並み保存会の伝えるところでは、寛政元年(1789年)の大火と文政11年(1828年)の大風を経てこの構法が広まったという。茅葺では火にも風にも水にも耐えられない。川港の商人たちはそう判断した。

杉光陶器店主屋の隣には、昭和49年(1974年)に重要文化財に指定された西岡家住宅が建つ。両者は通り土間の位置が左右反転する関係にあり、二棟を並べて眺めると、塩田津の商家がどのように空間を組み立てたかが見えてくる。

塩田津の町並み全体は平成17年(2005年)に重要伝統的建造物群保存地区に選定された。令和2年(2020年)には、長崎から砂糖が内陸へ運ばれた長崎街道の物語が日本遺産「シュガーロード」として認定されている。

水と陶石が動かした町で

塩田津はまず川港であった。有明海の干満差を利用して塩田川を遡った舟が、天草産の陶石を運び込む。町の水車がこれを砕き、吉田焼や志田焼の原料となった。杉光陶器店は焼き上がった器を扱う側にいた。主屋の規模と、その背後に並ぶ三棟の蔵は、この流通の構図から生まれている。

水は富を運び、時に襲いかかった。観光庁の多言語解説文データベースは、第二次大戦後この店が九度の大洪水に見舞われ、最も被害の大きかった昭和37年(1962年)には一階の天井近くまで水が達したと記す。三階建てという高さと、壁の厚みを、この数字とともに見上げたい。

建物は現在も商いを続けている。店内では陶磁器が販売され、一部はカフェとして使われているため、登録有形文化財としては珍しく内部に足を踏み入れられる。ただし営業日と営業時間は店舗側が定めるものなので、訪問前の確認をすすめる。街道側からの外観撮影に制限はないが、内部の撮影は店の方に一声かけたい。

交通は少し手間がかかる。鉄道の最寄りはJR肥前鹿島駅で、祐徳バス嬉野線に乗れば十分ほどで塩田津周辺に着く。西九州新幹線の嬉野温泉駅からは道路距離でおよそ10キロメートル。NPO法人塩田津町並み保存会が予約制でボランティアガイドを手配しており、少額の実費で町歩きの案内を受けられる。

散策には一時間ほどをみておきたい。川沿いの石垣列、昭和期の荷揚げクレーンの土台、塩田石工が刻んだ恵比寿像。いずれも店先から数百メートルの範囲にある。

Q&A

Q杉光陶器店主屋は内部を見学できますか。
A陶磁器の販売店およびカフェとして営業しており、営業時間中は一階に入ることができます。公開日時を行政が定めているわけではないため、訪問前に営業状況を確認してください。
Q杉光陶器店主屋はいつ登録有形文化財になりましたか。
A平成10年(1998年)9月2日に登録され、同年9月25日に告示されました。登録番号は41-0005、登録基準は「再現することが容易でないもの」です。
Q杉光陶器店主屋へは駅からどう行きますか。
AJR肥前鹿島駅から祐徳バス嬉野線を利用し、塩田津周辺のバス停まで十分ほどです。西九州新幹線嬉野温泉駅からは約10キロメートルで、車またはタクシーが現実的です。
Q杉光陶器店主屋の居蔵造とはどのような構法ですか。
A厚い土壁を白漆喰で仕上げ、重い瓦屋根を支える塩田津周辺の町家構法です。18世紀末の大火と19世紀前半の大風を受けて普及したと伝わり、火と風、そして水害への備えを兼ねています。
Q杉光陶器店主屋とあわせて見るべき文化財はありますか。
A隣接する西岡家住宅は重要文化財で、通り土間の位置が主屋と左右対称の関係にあり、内部も公開されています。ほかに同じ敷地の一の蔵・二の蔵・三の蔵、川沿いの荷揚げ場跡や検量所跡が徒歩圏にあります。

基本情報

名称杉光陶器店主屋(すぎみつとうきてんしゅおく)
所在地佐賀県嬉野市塩田町大字馬場下甲728
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 41-0005
指定年登録 平成10年(1998年)9月2日/告示 同年9月25日
員数1棟
寸法木造三階建、瓦葺、建築面積258平方メートル
所有者個人(国のデータベースに所有者名の記載なし)
公開状況陶磁器店・カフェとして営業。営業時間中は一階に入場可。塩田津重要伝統的建造物群保存地区内。

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース 杉光陶器店主屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000713
観光庁 地域観光資源の多言語解説文データベース 杉光陶器店及び蔵3棟
https://www.mlit.go.jp/tagengo-db/R2-01986.html
全国伝統的建造物群保存地区協議会 嬉野市塩田津
https://www.denken.gr.jp/archive/ureshino-siotatsu/index.html
嬉野市 嬉野観光マップ・スポット
https://www.city.ureshino.lg.jp/kanko/map.html
佐賀県観光サイト あそぼーさが 塩田津
https://www.asobo-saga.jp/spots/detail/16df1fed-fb97-4ad2-a289-97c186ed53b6

最終更新日: 2026.08.05