白漆喰の町並みに現れる煉瓦壁

杉光陶器店三の蔵(すぎみつとうきてんさんのくら)は、佐賀県嬉野市塩田町大字馬場下甲727にある江戸時代末期の土蔵で、平成10年(1998年)9月2日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。登録番号は41-0008、告示は同年9月25日である。

位置は主屋の北側。街道の建物線からやや引き込んで建つ。屋根は切妻造、出入りは妻側からとる妻入である。文化庁のデータベースは瓦葺、建築面積69平方メートルと記録し、解説文はこれを二階建の土蔵と述べる。ただし構造及び形式等の欄の記載は木造平屋建で、両者は一致していない。

この蔵の前で足を止める理由は、街道に向いた壁面にある。煉瓦積なのである。白漆喰塗の町家が軒を連ねるなかで、この面だけが異質な質感を放つ。出入口の構えも同様で、いずれも江戸期の当初材ではない。

銀行だった数年間

明治末から大正初めにかけての一時期、この建物は蔵ではなかった。地元有志の出資により設立された銀行の店舗として使われている。文化庁は行名を塩田銀行と記し、時期を明治末年からとする。観光庁の解説文データベースは1910年から1916年までとし、その後もとの用途に戻ったと述べる。地域の観光資料には志保田銀行と表記するものもあり、行名の表記は資料間で揺れたままである。

正面の煉瓦壁と出入口の構えは、この改造時のものと考えられている。判断の筋道は追いやすい。1910年代の地方において、銀行は銀行らしく見える必要があり、その記号は洋風であること、具体的には煉瓦であった。商家の土蔵は、街道に向いた一面を積み替えるだけで用を足した。

塩田津が銀行を必要とした背景も明快である。有明海の潮を利用して塩田川を遡る舟が天草の陶石を運び込み、焼き上がった器が同じ経路を下っていく。町は長崎街道の宿場でもあり、長崎に陸揚げされた砂糖が内陸へ向かう道筋にあたっていた。明治に入り、この取引には近接した信用と決済の場が求められるようになる。

平成10年の登録は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」という基準による。杉光陶器店の敷地からは同時に四棟が登録された。主屋が41-0005、一の蔵が41-0006、二の蔵が41-0007、そして三の蔵が41-0008である。

いまも使われている

この建物は展示物にならなかった。杉光陶器店は敷地内で陶磁器の商いを続けており、その一角はカフェとして営業している。地域の報道はこれを旧銀行の建物と結びつけて紹介してきた。古民家をめぐるテレビ番組でも取り上げられ、内部には船底天井、つまり緩やかな弧を描く格の高い天井形式が残ると伝えられている。

実際的にいえば、予約なしに営業時間中の内部を見られるということでもある。営業日と時間は行政ではなく店舗側が定めるため、訪問前の確認をすすめたい。街道からの外観撮影に制限はないが、内部を撮る際には一声かけたい。

光にこだわるなら午前中がよい。煉瓦の面は街道側を向いており、早い時間に直射を受ける。左右に続く漆喰壁との対比が最も鋭く見えるのはこの時間帯である。

交通はJR肥前鹿島駅から祐徳バス嬉野線でおよそ十分。西九州新幹線嬉野温泉駅からは道路距離で約10キロメートルである。隣接する西岡家住宅は昭和49年(1974年)指定の重要文化財で、内部も公開されている。NPO法人塩田津町並み保存会が予約制でボランティアガイドを行っており、川沿いの石垣、荷揚げ場跡、通りに点在する恵比寿像まで、徒歩一時間ほどで巡ることができる。

Q&A

Q杉光陶器店三の蔵の正面が煉瓦壁なのはなぜですか。
A明治末期に銀行店舗へ改造された際のものと考えられています。当時の地方において煉瓦は近代性と信用の記号であり、街道に面した一面だけを積み替えることで、土蔵を銀行の外観に仕立てました。
Q杉光陶器店三の蔵を使った銀行はどこですか。
A地元有志の出資で設立された銀行で、文化庁は塩田銀行と記録しています。観光庁の資料は使用期間を1910年から1916年までとし、その後もとの用途に戻ったとします。地域の資料には志保田銀行とするものもあります。
Q杉光陶器店三の蔵の内部に入ることはできますか。
A敷地の一部がカフェとして営業しており、地域の紹介記事はこれを旧銀行の建物と結びつけています。営業時間中であれば内部に入ることができますが、営業日時は店舗側の設定によるため事前確認をすすめます。
Q杉光陶器店三の蔵はどこにあり、どう行けばよいですか。
A佐賀県嬉野市塩田町大字馬場下甲727、主屋の北側です。JR肥前鹿島駅から祐徳バスで十分ほど、西九州新幹線嬉野温泉駅からは道路距離で約10キロメートルです。
Q杉光陶器店三の蔵の規模はどのくらいですか。
A国のデータベースは瓦葺、建築面積69平方メートルと記録します。解説文は妻入二階建の土蔵とする一方、構造欄は木造平屋建としており、この食い違いは記録上そのままになっています。

基本情報

名称杉光陶器店三の蔵(すぎみつとうきてんさんのくら)
所在地佐賀県嬉野市塩田町大字馬場下甲727
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 41-0008
指定年登録 平成10年(1998年)9月2日/告示 同年9月25日
員数1棟
寸法瓦葺、建築面積69平方メートル。国のデータベースは構造欄に木造平屋建と記す一方、解説文では二階建の土蔵とする。
所有者個人(国のデータベースに所有者名の記載なし)
公開状況敷地の一部がカフェとして営業。営業時間中は内部に入場可。塩田津重要伝統的建造物群保存地区内。

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース 杉光陶器店三の蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000716
観光庁 地域観光資源の多言語解説文データベース 杉光陶器店及び蔵3棟
https://www.mlit.go.jp/tagengo-db/R2-01986.html
文化庁 国指定文化財等データベース 杉光陶器店二の蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000715
全国伝統的建造物群保存地区協議会 嬉野市塩田津
https://www.denken.gr.jp/archive/ureshino-siotatsu/index.html
嬉野市 嬉野観光マップ・スポット
https://www.city.ureshino.lg.jp/kanko/map.html

最終更新日: 2026.08.05