永瀬孝男家住宅洋館とは

永瀬孝男家住宅洋館は、埼玉県川口市本町一丁目にある大正11年(1922年)頃の木造2階建の洋風住宅で、平成31年(2019年)3月29日に登録有形文化財となった。屋敷の敷地中央に南を向いて建ち、東に和館、西に土蔵が接続する。建築面積は188平方メートル。

屋根は急勾配の切妻造で、瓦は和瓦ではなく洋瓦を葺く。正面の中央に玄関ポーチが張り出す。所有者が公開する沿革によれば、この玄関には下足を脱ぐための土間がない。靴のまま室内に入るアメリカ式の生活を前提にした設計で、和館と接続していながら床の高さも履物の扱いも別の建物として計画されている。

建てた目的は住まいではなく客を迎えることだった。永瀬孝男家住宅洋館は、鋳物業を継いだ永瀬寅吉の迎賓施設として建てられている。寅吉はのちに川口市長を務めた人物で、政財界の来客を通すための場がこの家に必要になった。設計は建築士の由井千陽で、アメリカの建築雑誌に紹介された住宅コンペ案を参考にしたと所有者の沿革は記す。

登録の理由と価値

永瀬孝男家住宅洋館の登録基準は「造形の規範となっているもの」である。同じ敷地の7棟のうち、この基準で登録されたのは洋館だけで、残る6棟は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」による登録になっている。屋敷を構成する一員としてではなく、建築そのものの出来で評価された棟ということになる。

文化庁の解説は、外観をドイツ壁と縦長窓で基調づけ、玄関ポーチや内部の細部意匠をセセッション風とする点に、大正期の洋風住宅の趣向が表れていると述べる。セセッションは20世紀初頭のウィーンに起こった造形の動きで、曲線を抑えた幾何学的な線と面の扱いを特徴とする。日本の郊外住宅がその語彙を取り入れた時期の作例にあたる。

所有者の沿革はもう一段広い文脈を置く。アメリカの生活様式を意識した洋風住宅は大正5年(1916年)頃から東京近郊で建ち始めており、川口のこの家はその流行が都心から周縁へ伝わっていく過程を示す、というものである。東京の隣接地で、鋳物という地場産業の資力によって建てられた点にこの棟の位置がある。

見どころ

外から読めるのはまず壁である。ドイツ壁は塗ったモルタルの表面を荒らして粗い凹凸をつくる仕上げで、光の角度によって陰影の出方が変わる。所有者の沿革は、この外壁のモルタルに玉石を用いると記している。平滑な洋館の壁を想像して立つと、思ったより手触りの荒い面が現れる。

窓は縦に長い。横に広い和館の開口と並ぶことで、和洋の窓の作法の違いが1本の軒線の下で見比べられる。ここが永瀬孝男家住宅洋館のいちばん分かりやすい見どころで、和館との接続部あたりに視線を置くとよい。

屋根の勾配も見ておきたい。切妻の傾きが和館の寄棟造よりはるかに急で、洋瓦の重なりが縞になって落ちていく。塀の外からでも、この屋根の三角形だけは頭が出る。

内部は入れないが、何があるかは記録されている。所有者の沿革によれば、1階と2階の洋室の壁面や扉の随所に、鳥や植物をモチーフにしたステンドグラスがはめられている。ほかに応接室、電話室、そして窓の外側に取り付けられた防火用シャッターがある。電話室が独立してあること自体が、大正期にこの家が置かれていた立場を語る設備である。

見学方法

永瀬孝男家住宅洋館は個人の住宅で、内部は非公開である。所有者が運営する紹介サイトにも見学の受け付けや公開日の案内はない(2026年9月13日確認)。建物への立ち入りはできない。

外観を見るなら敷地の東側の公道からになる。ただし東面には高さ2.7メートルの煉瓦塀が回るため、洋館は屋根と煙出しの上部しか見えない。塀のすぐ前ではなく道路の反対側まで下がると、急勾配の屋根の三角形と洋瓦の面が視野に入る。

撮影を禁じる掲示は確認できなかったが、生活の場であることに変わりはない。門の内側や窓へレンズを向けるのは避けたい。

敷地全体の行き方と見学の条件は、永瀬孝男家住宅のページにまとめてある。

Q&A

Q永瀬孝男家住宅洋館の内部は見学できますか。
Aできません。個人の住宅で内部は非公開です。所有者の紹介サイトにも公開日や見学受け付けの案内は掲載されていません(2026年9月13日確認)。
Q永瀬孝男家住宅洋館はいつ建てられましたか。
A大正11年(1922年)頃です。同じ敷地では和館と土蔵が明治38年(1905年)、旧発電所が明治33年(1900年)頃で、洋館はそれらより後に加えられました。
Q永瀬孝男家住宅洋館は誰が設計しましたか。
A所有者が公開する沿革は建築士の由井千陽としています。アメリカの建築雑誌に紹介された住宅コンペ案を参考にした設計と記されています。
Q永瀬孝男家住宅洋館は外から何が見えますか。
A東側の公道からは、高さ2.7メートルの煉瓦塀越しに急勾配の切妻屋根と洋瓦、煙出しの上部が見えます。壁面や玄関ポーチは塀に隠れて見えません。
Q永瀬孝男家住宅洋館はどの登録基準で登録されましたか。
A「造形の規範となっているもの」です。同じ屋敷の7棟のうちこの基準によるのは洋館だけで、他の6棟は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」で登録されています。

基本データ

名称永瀬孝男家住宅洋館(ながせたかおけじゅうたくようかん)
所在地埼玉県川口市本町一丁目21-1
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 11-178
指定年平成31年(2019年)3月29日登録
員数1棟
寸法木造2階建、瓦葺、建築面積188平方メートル
所有者個人
公開状況非公開。外観のみ公道から。

参考文献

国指定文化財等データベース 永瀬孝男家住宅洋館(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00012692
川口市 指定文化財一覧(令和8年7月9日現在)
https://www.city.kawaguchi.lg.jp/material/files/group/185/R80709cul.pdf
永瀬邸について(登録有形文化財 旧永瀬邸)
https://www.nagasetei.jp/about/

最終更新日: 2026.09.12