移築された商家の主屋

旧藤井家住宅の主屋は、現在の五個荘町歴史民俗資料館の中心を成す建物である。滋賀県東近江市宮荘町、旧五個荘町の集落に立つ。居室部は四間取りを基本とし、開口部の上に太い差鴨居を渡して軸部を固める。明治32年(1899年)には座敷2室を増築した。

主屋は昭和7年(1932年)に現在地へ移築された。良材を再用して家を組み直す手法は、近江商人の間で珍しくない。藤井家は江戸期以降に湖東から各地へ広がった近江商人の家系に連なる。屋敷を整えた藤井彦四郎(1876〜1956年)は三代目藤井善助の次男として生まれ、本家から分家して一代で身代を築いた。小町糸・スキー毛糸の名で糸と毛糸を商い、海外視察にも積極的であったと伝わる。

質素な家が登録された理由

主屋は平成9年(1997年)11月5日に登録有形文化財となった。登録番号は25-0008で、同日に登録された屋敷内6件のうちの一棟である。登録有形文化財の制度は、傑作を単体で顕彰するというより、国土の歴史的景観に寄与する建造物を広く保存の対象とする仕組みである。

ここで守られているのは、質素な造作を丁寧に仕上げた点にある。近江商人が実践の指針とした倹約の気風に沿って、主屋の意匠は抑制がきいている。家具調度が住宅とともに残るため、空となった器ではなく、機能していた商家の内部として読める。その完存性が評価につながっている。

見どころ

居室に上がると、頭上を横切る差鴨居がすぐ目に入る。太い材が視線の上で静かに構造を担う。抑えた主屋と、敷地内の華やかな客殿との落差は、多くの来訪者の印象に残る。日常の倹約と、得意先へのもてなしを明確に分けた商人の姿勢がここに読み取れる。

資料館として公開されているため、外観だけでなく室内に上がって見学できる。屋敷は庭園・客殿を含めた一体の構成として設計されており、主屋も庭や客殿と併せて見ると理解が深まる。時間に余裕をもって巡りたい。

Q&A

Q主屋は現在どう使われていますか。
A旧藤井家の屋敷を活用した五個荘町歴史民俗資料館の中心建物として公開されています。
Qいつ建てられ、いつ移築されましたか。
A主体部は明治初期、明治32年(1899年)に座敷2室を増築し、昭和7年(1932年)に現在地へ移築されました。
Q質素な家がなぜ文化財なのですか。
A登録有形文化財は歴史的景観に寄与する建物を評価します。抑えた造作と残された家具調度が、近江商人の暮らしを具体的に示す点が評価されています。
Q中に入れますか。
A入れます。資料館として室内を公開しており、開館は概ね10時〜16時30分、月曜ほか休館日があります。
Q差鴨居とは何ですか。
A開口部の上に渡す太い横木で、ここでは軸部を固める役割を担い、居室で見上げると確認できます。

基本データ

名称五個荘町歴史民俗資料館(旧藤井家住宅)主屋
所在地滋賀県東近江市宮荘町681
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録 平成9年11月5日・登録番号25-0008
構造木造2階建、瓦葺、建築面積258㎡
年代明治初期(明治32年 座敷増築)/昭和7年 現在地に移築
所有者東近江市
公開資料館として公開、開館10時〜16時30分(月曜ほか休館)

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁) — 五個荘町歴史民俗資料館(旧藤井家住宅)主屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00000348
文化遺産オンライン(文化庁) — 旧藤井家住宅 主屋
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/136118
東近江市観光協会 — 五個荘近江商人屋敷 藤井彦四郎邸
https://www.higashiomi.net/media/miru/a150

最終更新日: 2026.07.04