所長社宅に組み込まれた茶の空間

愛媛県新居浜市星越町の旧住友鉱業株式会社別子鉱業所長社宅茶室は、昭和12年(1937年)に主屋・応接棟とともに建てられた木造平屋建の建物である。建築面積は61平方メートル。主屋の南東に接続し、切妻造桟瓦葺の水回りおよび前室部と、三方に下屋を廻した南端の茶室からなる。令和2年(2020年)8月17日、住友山田社宅の他の5棟とあわせて国の登録有形文化財(建造物)となった。

別子鉱業所長の社宅は、主屋・応接棟・茶室の3棟延床面積349.13平方メートルを数え、住友山田社宅で最大の規模を持つ。和室の座敷、洋風の応接室に加えて茶室までを備えた構成は、企業幹部の接遇に茶の湯が組み込まれていた事実を示す。同じ昭和12年、新居浜には住友の迎賓館である泉寿亭も建てられており、茶の文化が企業社会の作法として根づいていた時代の産物といえる。

平成30年(2018年)に改修され、現在は新居浜市の所有である。

地袋の上に床柱が立つ自由な床構え

茶室は8畳の座敷で、南面と西面に縁を廻す。数寄屋の草庵風の小間ではなく、ゆとりのある広間形式をとる点に、茶事の専門家に限らない幅広い来客を想定した所長社宅らしさがにじむ。

白眉は東面の床である。一間半、およそ2.7メートル幅の地袋の上に床柱を立て、その上部に明障子を開いて外光を採り入れる。床の間といえば重厚に構えるのが常道だが、ここでは収納と光と柱が軽やかに組み合わされ、型にとらわれない造作を見せる。文化庁の解説文もこの自由な床構えを特筆する。

登録基準は「造形の規範となっているもの」。昭和戦前期の数寄屋普請の水準を、企業社宅という文脈の中で示す遺構である。

公開日の歩き方

所長社宅は内部が限定公開されており、茶室も見学の対象となる。公開日は4月から11月が毎週日曜、12月から3月が第2・第4日曜、時間は午前10時から正午まで。見学無料、無料駐車場あり。5名以上の団体は2週間前までに新居浜市別子銅山文化遺産課への予約が必要で、工事状況により公開が変更される場合がある。

見学ではまず主屋の雁行する廊下と座敷を巡り、渡廊下の先の応接棟を経て、最後にこの茶室へ向かう順路をすすめたい。和・洋・茶という三様の接客空間が一つの社宅に同居する構成は、歩いてみて初めて実感できる。茶室では畳に近い目線まで腰を落とし、地袋上の明障子から差す光が床にどう回るかを確かめてほしい。

同じ公開日には徒歩圏の住友化学工業幹部社宅、外国人技師東・西社宅も内部を見学できる。丘上の日暮別邸記念館とあわせれば、住友の企業城下町新居浜を半日で概観できる。

Q&A

Q別子鉱業所長社宅の茶室は見学できますか?
A見学できます。所長社宅は4月から11月は毎週日曜、12月から3月は第2・第4日曜の午前10時から正午まで公開され、見学は無料です。
Qこの茶室の最大の特徴は何ですか?
A東面の床の間です。幅一間半(約2.7メートル)の地袋の上に床柱を立て、上部に明障子を開いて光を採る、型にとらわれない自由な造作が評価されています。
Q茶室の広さはどのくらいですか?
A8畳の広間形式で、南面と西面に縁を廻します。建物全体は建築面積61平方メートルで、水回りと前室部を含みます。
Qなぜ企業の社宅に茶室があるのですか?
A昭和戦前期の財界では茶の湯が接遇と交際の作法として重んじられ、住友でもその伝統が受け継がれていました。所長社宅の茶室は、要人を最も格式高い和の作法で迎えるための空間でした。

基本情報

名称旧住友鉱業株式会社別子鉱業所長社宅茶室(きゅうすみともこうぎょうかぶしきがいしゃべっしこうぎょうしょちょうしゃたくちゃしつ)
所在地愛媛県新居浜市星越町乙1903-1
指定区分登録有形文化財(建造物) 令和2年(2020年)8月17日登録 登録番号38-0144
年代昭和12年(1937年)/平成30年(2018年)改修
構造及び形式木造平屋建、切妻造桟瓦葺、建築面積61平方メートル。主屋南東に接続
所有者新居浜市
公開状況内部公開あり(4月〜11月は毎週日曜、12月〜3月は第2・第4日曜、午前10時〜正午、無料)

参考文献

国指定文化財等データベース — 旧住友鉱業株式会社別子鉱業所長社宅茶室
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013460
新居浜市 — 住友山田社宅4棟を限定公開しています
https://www.city.niihama.lg.jp/soshiki/dozan/sumitomoyamadashatakunitouwogenteikoukai.html
新居浜市 — 住友山田社宅2棟を仮オープンします
https://www.city.niihama.lg.jp/soshiki/dozan/sumitomoyamadashatakunitouwokario-punnsimasu.html

最終更新日: 2026.07.02