四十年近くをかけて完成した塔

油山寺の三重塔は、最上部の相輪が上げられた慶長16年(1611年)に完成した。再建の槌音が響きはじめたのは天正2年(1574年)。戦乱のなかで先の塔が焼け落ちたあと、ふたたび木を組みはじめてから棟が整うまで、四十年近い歳月が流れている。完成が桃山時代の終わりにかかったこの塔には、木割が大きく、装飾が豊かになっていく時代の気風が、その姿にあらわれている。

油山寺は静岡県袋井市の北、村松の山あいにある。真言宗智山派の寺院で、古くから目の病に霊験あらたかな寺として地元の信仰を集めてきた。三重塔は杉木立の斜面を少し登った中腹に建ち、朱塗りの軸部に銅板葺きの屋根が木洩れ日を受ける。高さはおよそ23メートル。日本の名だたる塔と比べれば大きくはないが、つくりは丁寧で、桃山期を代表する塔の一つに数えられてきた。

なぜ重要文化財なのか

三重塔が国の重要文化財(建造物)に指定されたのは、昭和29年(1954年)9月17日のことである。文化庁の台帳には「三間三重塔婆、銅板葺」とあり、員数は1基。記載そのものは簡潔だ。

評価の核心は、複数の建築様式を一棟のなかに同居させた点にある。各層の組み方をよく見ると、二種類の語彙が働いているのがわかる。中下層は古くからの和様で、水平の線を抑えめにとった落ち着いた構え。これに対して上層は禅宗様と大仏様に移り、反りの強い組物や、より垂直性の際立つ構成があらわれる。様式の混用は桃山期にはめずらしくないが、当時の大工が伝統と渡来の技法をどう調和させたかを、保存状態よく示している点で価値が高い。

並び称される塔も格を語る。建築史では、滋賀県の長命寺、京都府の宝積寺の三重塔とともに、この塔を「安土桃山期の三名塔」と呼ぶ。地方寺院の一塔に対する評価としては、相当に高い。

訪れたら見たいところ

まず塔の足元に立ち、視線を上へたどってみたい。各層は下の層より細くつくられ、上にいくほど塔身がすぼまっていく。劇的というより、どっしりと地に着いた印象を与える形だ。屋根の隅は大きく反り上がり、その下では、屋根の重みを受ける組物(木の枡を組み合わせた部分)が幾重にも張り出す。この組物は専門家が注目するところで、じっくり眺める価値がある。

頂きを飾る相輪は、この規模の塔にしては太く力強い。慶長16年に最後に上げられた部材であり、塔の完成を告げる象徴でもあった。内部には金剛界大日如来を秘仏として安置するが、堂内は通常公開されていない。

いま目にする姿は、昭和42年(1967年)から44年(1969年)にかけての解体修理によるところが大きい。一材ずつ解いて点検し、組み直したこの工事のおかげで、四世紀を経ても木組みの線が崩れずに保たれている。

寺で繰り返し語られる由来にも触れておきたい。寺伝では、建久元年(1190年)に源頼朝が眼病平癒の礼として塔を寄進し、寵臣の工藤祐経が普請奉行を務めたと伝わる。ただし現存するのは桃山期の再建塔である。頼朝の話は、目の前の建物そのものの履歴ではなく寺の伝承に属する。両者を分けて受けとめつつ、伝えそのものを楽しみたい。

油山寺をめぐる

三重塔は山を登る道のりの一つの目印で、参道そのものが歩く楽しみに満ちている。入口には朱塗りの山門が構える。もとは近くの掛川城の大手門で、万治2年(1659年)の建立、廃城後の明治6年(1873年)にこの地へ移された。山門も国の重要文化財に指定され、屋根を飾った鯱鉾は方丈に納められている。門をくぐると、小さな滝や苔むした石段が杉の木立のなかにつづき、山頂近くの薬師堂へと至る。

油山寺は、可睡斎、法多山尊永寺とあわせて「遠州三山」と呼ばれる三寺の一つで、いずれも車で容易にまわれる。紅葉の名所でもあり、約千本のカエデが11月下旬から12月中旬にかけて色づく。この時期にはもみじまつりが開かれ、参拝者でにぎわう。

アクセスは車が便利で、東名高速道路の袋井インターチェンジから約15分、新東名の森掛川インターチェンジからは約20分。JR東海道本線の袋井駅からはタクシーで約15分ほどである。無料駐車場があり、約200台分の広さがある。

Q&A

Q塔はどれくらい古いのですか。
A現在の塔は天正2年(1574年)から慶長16年(1611年)にかけて建てられた桃山時代の建築です。1574年に再建が始まり、1611年に相輪を上げて完成しました。寺伝ではこれ以前、建久元年(1190年)の塔があったと伝わりますが、その建物は残っていません。
Q塔の内部に入れますか。
A金剛界大日如来を安置する内部は通常公開されていません。外観は境内から自由に拝観・撮影できます。境内の参拝は無料で、書院・方丈内部の拝観は300円です。
Q建築のどこが見どころですか。
A三つの様式を一棟に取り入れている点です。中下層は古い和様、上層は渡来系の禅宗様と大仏様で組まれています。各層が上にいくほど細くなる姿、そして組物と太い相輪がとくに評価されています。
Q訪れるのに適した時期は。
Aカエデが色づく11月下旬から12月中旬がもっとも人気で、この時期にはもみじまつりが開かれます。春から初夏の境内は静かで、薬師堂への登り道は木陰が涼しく快適です。
Qアクセス方法を教えてください。
A車では東名高速道路の袋井インターから約15分です。JR袋井駅からはタクシーで約15分。約200台分の無料駐車場があります。駐車場から塔や薬師堂までは、少し坂を登ることになります。

基本情報

名称油山寺三重塔(ゆさんじさんじゅうのとう)
所在地静岡県袋井市村松
寺院油山寺(医王山薬王院油山寺)/真言宗智山派
指定区分重要文化財(建造物)
指定年月日昭和29年(1954年)9月17日
構造及び形式三間三重塔婆、銅板葺
員数1基
時代桃山時代(天正2年〜慶長16年/1574〜1611年に再建)
高さ約23メートル
所有者油山寺
拝観時間おおむね7:00〜17:00(変更の場合あり。事前確認を推奨)
拝観料境内無料/書院・方丈内部拝観は300円
アクセスJR袋井駅から車で約15分、東名袋井ICから約15分。無料駐車場あり(約200台)。

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)/油山寺三重塔
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/1156
文化遺産オンライン(国立文化財機構)/油山寺三重塔
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/185306
目の霊山 油山寺 公式サイト/重要文化財
https://yusanji.jp/bunkazai/
袋井市/医王山油山寺
https://www.city.fukuroi.shizuoka.jp/soshiki/syougyou/1/tera_jinja/11052.html
日本交通公社/全国観光資源台帳 油山寺
https://tabi.jtb.or.jp/res/220028-

最終更新日: 2026.06.03