油山寺山門 ― 掛川城の門が寺の入口になるまで
油山寺の参道の入口に建つ二階建ての門は、もともと寺のための建物ではない。掛川城の大手二之門、玄関下御門とも呼ばれた城門で、万治2年(1659)に城主井伊直好の手で建てられた。明治維新ののち掛川城が廃城になると、門は解体され、南へおよそ6キロ離れたこの地へ運ばれて、明治6年(1873)に山門として組み直された。
この来歴は国の指定区分にもあらわれている。山門でありながら、種別は寺院建築ではなく「城郭」に分類されている。静岡県内に残るこの時期の城門としては唯一の遺構である。
形式は片潜付櫓門。門の通路の上に櫓の部屋を載せ、片側に日常用の小さな潜り戸を設けた造りである。屋根は入母屋造、本瓦葺。前後に庇屋根が付くのは、この種の門としては珍しい。
なぜ重要文化財に指定されたか
油山寺山門が国の重要文化財に指定されたのは、昭和29年(1954)9月17日である。評価の根拠は装飾の豪華さではなく、十七世紀の城門建築としての確かさにある。天井裏には墨書が残り、万治2年の建立年と井伊直好の名が記される。由来が言い伝えではなく文字で裏づけられている点が大きい。この規模の城門の多くは、明治初期の廃藩と城郭の取り壊しで失われた。記録を伴って残った例は数少ない。
近づいて見ると、その大きさが実感できる。間口は約9メートル、奥行は約4.55メートル。柱は一辺60センチを超える太い角材を用いる。門扉は節のないクスノキの一枚板で、幅およそ1.2メートル、高さおよそ2.4メートル。継ぎ目を要しないほど太い幹から切り出されている。二階の櫓部分は25畳の広さがある。
大棟の両端には鯱が載る。城の屋根を飾り、火除けの願いを込めた、魚の体をもつ想像上の生き物である。鯱は附(つけたり)として別に指定されている。万治2年に造られた一対は屋内に移され、方丈に展示されている。現在屋根に載るのは、のちの修理で据え直された後補である。
見どころ
門をくぐる前に、参道で少し離れて眺めてほしい。数歩下がると、白い漆喰壁、重い瓦屋根、開口部の上に組まれた櫓の黒い骨組みが見え、森の中に置かれた小さな城のように映る。武家の構えと周囲の静かな杉林との対比が、この場所の見どころそのものである。
この城門がなぜこの寺に来たのかを知っておくと、くぐる足取りも変わる。油山寺は千三百年以上にわたって眼病に霊験ある寺として信仰を集めてきた。門は感謝のしるしだった。掛川城が廃城になったとき、最後の城主太田備中守が、眼病平癒の礼として門を油山寺に寄進したのである。戦いのための建物が、信仰のかたちに変わった。
門の姿はずっと同じだったわけではない。大正12年(1923)には本瓦葺が銅板葺に改められ、建立当初の姿から離れた。昭和45年から46年(1970〜71)の大修理で瓦屋根に戻され、江戸初期の形に復された。さらに平成27年(2015)には屋根と耐震の工事が行われている。いま目にする門は、十七世紀に掛川に建っていた姿に近い。
周辺の見どころとアクセス
門をくぐると、そこから登りが始まる。油山寺は山の斜面に広がっており、本坊から山上の薬師本堂へ向かうには、森に囲まれた坂道と苔むした石段を10分ほど歩く。途中には「るりの滝」がある。寺伝では、八世紀に孝謙天皇がこの滝の水で眼を洗い快癒したとされ、眼病平癒の信仰のもとになった場所である。
山上近くには朱塗りの三重塔が立つ。慶長16年(1611)の再建で、これも国の重要文化財である。滋賀の長命寺、京都の宝積寺と並んで桃山期の三名塔に数えられ、高さはおよそ23メートル。上層に禅宗様の手法を用いる。
油山寺は、法多山尊永寺、可睡斎とともに遠州三山の一つに数えられる。三山はいずれも紅葉の名所で、油山寺では約1,500本のモミジが11月下旬から12月上旬にかけて門と参道を染める。場所はJR袋井駅の北およそ6キロ、袋井インターチェンジから車で15分ほどである。
Q&A
- 門の上の櫓部分には登れますか。
- 25畳ある二階の櫓部分は、通常は公開されていません。門は参道の下から眺める形になり、その位置から全体の構えと棟の鯱を見ることができます。
- なぜ城の門が寺に建っているのですか。
- 寄進によるものです。明治初期に掛川城が廃城となったあと、最後の城主太田備中守が眼病平癒の礼として、明治6年(1873)に門を油山寺へ寄進しました。眼病に霊験ある寺という由緒にかなった縁です。
- 創建当初の鯱はどこにありますか。
- 万治2年(1659)に造られた一対は保存のため屋内に移され、方丈に展示されています。現在屋根に載るのは、修理の際に据えられた後補です。
- 拝観料はかかりますか。
- 境内を歩き、門をくぐるのは無料です。法話拝観には200円がかかります。料金や受付時間は変わることがあるため、訪問前に油山寺へご確認ください。
- 紅葉の見頃はいつですか。
- 例年11月下旬から12月上旬で、約1,500本のモミジが門と参道を彩ります。色づきは天候によって前後するため、油山寺または袋井市観光協会に確認すると確実です。
基本情報
| 名称 | 油山寺山門(ゆさんじさんもん) |
|---|---|
| 指定区分 | 重要文化財(建造物)、種別は城郭 |
| 指定年月日 | 昭和29年(1954)9月17日 |
| 建立 | 万治2年(1659)、井伊直好により掛川城に建立 |
| 移築 | 明治6年(1873)、油山寺へ |
| 構造形式 | 片潜付櫓門、前後庇付、入母屋造、本瓦葺 |
| 附指定 | 鯱 2個 |
| 所有者 | 油山寺 |
| 所在地 | 静岡県袋井市村松 |
| アクセス | 袋井ICから車で約15分、JR袋井駅の北約6キロ |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)油山寺山門
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/1155
- しずおか文化財ナビ(静岡県)油山寺山門
- https://www.pref.shizuoka.jp/kankosports/bunkageijutsu/bunkazai/1002825/1041003/1041889/1004977/1021201.html
- 油山寺 公式サイト
- https://yusanji.jp/bunkazai/
最終更新日: 2026.06.03