薬師如来を納める金色の厨子

静岡県袋井市の油山寺で、国の重要文化財に指定されているのは一基の厨子である。本尊の薬師如来を納めるためにつくられた小ぶりの宮殿形で、表面には金箔が施され、昭和29年(1954)9月17日に指定を受けた。

厨子が置かれているのは、参道の奥、杉木立に覆われた山腹に建つ薬師本堂の内陣である。家具というより小さな建物に近い大きさで、瓦を思わせる屋根を木の組物が受け止める。苔むした石段を登って堂内に入ると、薄暗がりの奥に金の扉を閉じた厨子が据えられている。

指定が認めたもの

記録によれば、厨子は正面一間、桁行二間で、前面の一間を開放して本尊に近づけるようにしてある。屋根は入母屋造で、長辺ではなく妻側から入る妻入の形をとる。瓦の代わりに木の板を瓦の形に削って葺く本瓦形板葺で、軒は二重に重なる。

組物は古い和様の三手先で軒を支える。中備の下段には蟇股を、上段にはその上に別の束を入れる。県の調査は、尾垂木の根元に刻まれた繰形を古い形式の名残と見ており、より早い時代の大工仕事につながる手がかりとする。規模は小さいが、軸部の組み立ては正確で堅牢である。

造立年代の判断はやさしくない。国のデータベースは桃山時代、天正16年(1588)頃とする。この数字は、かつて古い扉に残されていた、天正16年に金具などを修理したという墨書に由来する。県の研究者はこれを造立ではなく修理の記録と読み、厨子そのものは天正以前、室町末期までさかのぼる可能性があると考えている。その後、寛政年間と明治期に修理が加えられ、昭和43年(1968)には半解体修理を経て当初の姿に復された。

寺に伝わる話は、ここに一人の名を添える。桶狭間で討たれた今川義元の遺族が、義元の供養のために寄進したという説があり、一方で他所から移したとも伝えられる。いずれも文書で裏づけられたものではなく、寺も確定した事実ではなく言い伝えとして語る。

訪れたときに見たいもの

厨子に納められた薬師如来は秘仏で、金の扉が開かれるのは百年に一度に限られる。本尊そのものを目にできる人はほとんどいない。けれども国が守るべきものとして選んだのは、像を納めるこの厨子の方である。堂内の床から組物や軒の線をゆっくり眺める価値がある。

薬師如来は病を癒す仏で、多くは薬壺を手にした姿で表される。油山寺では、この働きが特別な意味を持つ。当寺は目の祈願寺として全国に知られているからだ。天平勝宝元年(749)、孝謙天皇が境内のるりの滝の水で患った眼を洗ったところ快癒したと伝わり、以後、朝廷は油山寺を勅願寺と定めた。今も目の不調を抱えた人々が参詣し、滝は滝行の道場として続いている。

本堂までは登りがあり、それも参拝の一部となる。下の伽藍から十分ほど、切通しや渓流、るりの滝を見ながら、杉に囲まれた苔むす石段を踏んでいく。境内は晩秋に紅葉で色づき、楓が染まる頃の登りが見どころとなる。

同じ山腹には、ほかにも国指定の建造物が二つある。三重塔は安土桃山期の三名塔の一つに数えられ、高さはおよそ23メートル。元亀3年(1572)の焼失ののちに再建され、秘仏の大日如来を安置する。参道の入り口に構える山門は、もとは隣接する掛川城の門で、万治2年(1659)に建てられ、明治6年(1873)の廃城に際して油山寺へ移された。

油山寺の周辺

油山寺は真言宗の寺院で、袋井周辺の三つの山寺からなる遠州三山の一つに数えられる。残る二つは法多山尊永寺と可睡斎で、参拝者は二寺を一日で組み合わせて巡ることも多い。

寺はJR東海道本線の袋井駅から北へおよそ六キロの山あいにある。駅からはタクシーで約15分、車でも袋井インターチェンジから15分ほどで着く。下の境内では、方丈や書院で寺宝を拝観でき、拝観料が必要となる。境内そのものの散策は無料である。開門時間や山上の本堂までの道のりは季節や天候で変わるため、訪問前に寺へ確認しておくとよい。

Q&A

Q厨子と中の本尊は見られますか。
A中に納められた薬師如来は、扉が百年に一度しか開かない秘仏なので、像そのものはほとんど拝観できません。像を納める金色の厨子は山腹の薬師本堂にあります。堂内への立ち入りは季節によって異なる場合があるため、事前に寺へお問い合わせください。
Q厨子はいつ、誰がつくったものですか。
A国のデータベースは、扉の修理の墨書をもとに桃山時代、天正16年(1588)頃としています。室町末期までさかのぼると見る研究者もいます。寺伝では今川義元の遺族との関わりが語られますが、確証はありません。
Qなぜ目の祈願で知られるのですか。
A本尊が病を癒す薬師如来であることに加え、天平勝宝元年(749)に孝謙天皇が境内のるりの滝の水で眼を洗って快癒したという伝承があり、以来、目の平癒を願う信仰を集めてきました。
Qどうやって行けばよいですか。
AJR東海道本線の袋井駅から北へ約六キロ、タクシーや車で15分ほどです。下の伽藍から薬師本堂までは、杉木立の石段を十分ほど登ります。
Q境内でほかに見ておきたいものは。
A同じ境内には、桃山期の三重塔と、掛川城から移された山門という、二つの国指定建造物があります。るりの滝や晩秋の紅葉も見どころで、近隣の遠州三山と合わせて巡るのもおすすめです。

基本情報

名称油山寺本堂内厨子(ゆさんじほんどうないずし)
所在地静岡県袋井市村松
所有者油山寺
指定区分重要文化財(建造物) 昭和29年(1954)9月17日指定
員数1基
時代桃山時代・天正16年(1588)頃(室町末期にさかのぼる説もあり)
構造一間厨子、入母屋造、妻入、本瓦形板葺
安置像薬師如来(百年に一度開帳の秘仏)
アクセスJR東海道本線・袋井駅からタクシー・車で約15分。本堂は下の伽藍から徒歩約10分の山上
拝観下の伽藍(寺宝拝観)は有料、境内散策は無料。開門時間・堂内拝観は寺へ要確認

参考文献

文化遺産オンライン(国立文化財機構) 油山寺本堂内厨子
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/122167
国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/1157
しずおか文化財ナビ(静岡県) 油山寺本堂内厨子
https://www.pref.shizuoka.jp/kankosports/bunkageijutsu/bunkazai/1002825/1041003/1041889/1004977/1021200.html
油山寺 公式サイト 重要文化財
https://yusanji.jp/bunkazai/
袋井市 医王山油山寺
https://www.city.fukuroi.shizuoka.jp/soshiki/syougyou/1/tera_jinja/11052.html

最終更新日: 2026.06.03