桁行五十五メートルの石造平屋

鹿沼市文化活動交流館石蔵(旧帝国繊維石蔵)は、栃木県鹿沼市睦町にある大正初期(1912年から1918年)建築の石造平屋建倉庫で、平成26年(2014年)10月7日に登録有形文化財(建造物)となった。

規模がまず目を引く。南北棟の切妻造、鋼板葺、建築面積495平方メートル、桁行は約55メートルに及ぶ。高さを抑えた長大な壁体が広場に沿って横たわる構成で、端から端まで視線を移すのに時間がかかる。

壁体は二種の凝灰岩を積み分ける。下段には市内で産出する深岩石を尺角(約30センチメートル角)に加工して据え、上部には大谷石を用いる。産地も色調も異なる石材が一枚の壁の上下で切り替わるため、近づいて見上げると境界が判別できる。

小屋組はキングポストトラス。内部に柱を立てず、桁行方向に連続する無柱空間を得ている。原料繊維や製品を積み上げる倉庫としては合理的な選択であった。室内は2枚の間仕切壁によって3室に分かれ、その間に位置する控壁が長大な側壁の外方への変形を抑える構造体を兼ねる。

南側の妻壁には、丸の中に「麻」の字を図案化したレリーフが浮彫される。ここが旧工場敷地の南端にあたり、社章を看板ではなく石そのものに刻んだ意匠である。

製麻業と帝国製麻の系譜

鹿沼は麻の産地であった。黒川流域の平地が原料を供給し、明治期には加工地としての性格を強めていく。明治21年(1888年)に当地で下野麻紡織(のち下野製麻)が設立されたのは、その延長にある。

下野製麻は明治36年(1903年)に近江麻糸・大阪製麻とともに日本製麻へ統合され、さらに明治40年(1907年)7月26日、日本製麻と北海道製麻の合併によって帝国製麻が成立した。創業者は安田善次郎で、渋沢栄一・大倉喜八郎も参画している。発足時の資本金640万円、従業員4,600名、製品工場は日光・鹿沼・大津・大阪・札幌の5か所、原料工場16か所という規模であった。

原料の亜麻は北海道で栽培し、労働集約的な紡績・製織工程は首都圏に近い鹿沼で担う。この分業が鹿沼工場の位置づけを決めていた。同工場が生産した麻糸は消防用ホースの原糸などに供され、ホース製造は現在も鹿沼で続いている。社名が帝国繊維へ改まるのは昭和16年(1941年)で、本建築が竣工した大正初期の社名は帝国製麻であった。文化財名称に「旧帝国繊維」を冠するのは、平成8年(1996年)の寄贈時点の社名に拠る。

本建築は帝国繊維鹿沼工場のうち西工場の施設群に属し、黒川と木島用水に囲まれた区画に位置する。創建時の姿をほぼ保つ。平成8年に鹿沼市へ寄贈され、平成14年(2002年)に改修を受けるとともに、隣接地に鹿沼市文化活動交流館が建設された。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」、登録番号09-0215、第78回登録である。

数値には出典間の差がある。文化庁の国指定文化財等データベースは建築面積495平方メートル、桁行五五メートルとし、鹿沼市は497平方メートル、桁行54.5メートルとする。とちぎいにしえの回廊は南北桁行約30間(54.4メートル)と記す。計測基準の違いによるとみられるが、登録原簿の値は文化庁の記載である。

石を見る、内部に入る

深岩石と大谷石はいずれも凝灰岩だが、性質は同じでない。深岩石は鹿沼市内で採掘され、大芦川・思川流域に石蔵が広がるほか、舟運や例幣使街道を通じて栃木市域や壬生町にも運ばれた。大谷石は宇都宮近郊の産で、より軟質かつ淡色である。本建築では下段に地元産の深岩石、上部に大谷石という積み分けがなされ、荷重の大きい下部に硬い石を配する判断が読み取れる。

内部は令和5年(2023年)10月からカフェ「Kanumarché シカノクラ」として利用されている。運営は株式会社アーリスで、鹿沼市の公共施設民間提案活用制度に基づく。完全予約制のアフタヌーンティーが中心で、当日の飛び込み利用は想定されていない。月に2回程度の頻度でコンサートも開催される。長大な石造空間の残響が室内楽に向くという事情もある。令和7年(2025年)初頭には同じ建物内に、地元のパン工房が運営する「ワノクラ」が開店し、平日昼のイートインを行っている。

営業時間・料金・予約方法は変更されうるため、訪問前に運営者の最新情報を確認されたい。変わらないのは石積の肌と小屋組で、開口部の見込みの深さは、眺望より屋根の支持を優先した壁厚の帰結である。

隣接する鹿沼市文化活動交流館は入館無料で、企画展を開催している。平成14年竣工、設計は熊倉敬次建築設計事務所。石蔵と広場を挟んで向かい合う配置で、築約110年の倉庫と現代建築が同一敷地に並ぶ。駐車場は約30台分、トイレも設けられている。

アクセスはJR鹿沼駅から徒歩約14分、タクシーで約5分。「文化活動交流館前」のバス停が敷地前にある。一帯は市立図書館や川上澄生美術館を含む文化ゾーンを構成する。深岩石そのものに関心が向くなら、市内には石蔵、石塀、鳥居、石段など用例が数多く残り、栃木県の文化財サイトが所在を紹介している。

Q&A

Q鹿沼市文化活動交流館石蔵(旧帝国繊維石蔵)の内部を見学できますか。
A令和5年10月以降、内部は完全予約制のカフェ「Kanumarché シカノクラ」として利用されており、予約すれば石造空間の内部に入れます。コンサートも月2回程度開催されます。外観は隣接する広場から随時見られます。
Q鹿沼市文化活動交流館石蔵の石材は何が使われていますか。
A下段が鹿沼市内産の深岩石、上部が大谷石で、いずれも凝灰岩です。深岩石は尺角(約30センチメートル角)に加工して積まれています。色調が異なるため、積み分けの境界は外から確認できます。
Q鹿沼市文化活動交流館石蔵へのアクセスと駐車場を教えてください。
A所在地は鹿沼市睦町1956-2。JR鹿沼駅から徒歩約14分、タクシーで約5分です。敷地前に「文化活動交流館前」バス停があり、約30台分の駐車場とトイレが利用できます。
Q鹿沼市文化活動交流館石蔵はなぜ「旧帝国繊維石蔵」と呼ばれるのですか。
A帝国繊維株式会社鹿沼工場のうち西工場の施設群に属した建物だからです。同社は明治40年に帝国製麻として発足し、昭和16年に帝国繊維へ改称しました。平成8年に鹿沼市へ寄贈され、その時点の社名が名称に残りました。
Q鹿沼市文化活動交流館石蔵で特に見るべき箇所はどこですか。
A南側の妻壁です。旧工場敷地の南端にあたり、丸の中に「麻」の字を図案化したレリーフが浮彫されています。内部では、柱のない大空間を支えるキングポストトラスの小屋組が見どころです。

基本情報

名称鹿沼市文化活動交流館石蔵(旧帝国繊維石蔵)
所在地栃木県鹿沼市睦町字寺ノ内1956-2
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 09-0215(第78回登録)
指定年平成26年(2014年)10月7日登録・告示
員数1棟
寸法石造平屋建、鋼板葺、建築面積495平方メートル(桁行約55メートル)
所有者鹿沼市(公共施設民間提案活用制度により株式会社アーリスが使用)
公開状況外観は自由に見学可。内部は予約制カフェ・コンサート会場として公開

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「鹿沼市文化活動交流館石蔵(旧帝国繊維石蔵)」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00010097
文化遺産オンライン「鹿沼市文化活動交流館石蔵(旧帝国繊維石蔵)」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/281670
鹿沼市公式ホームページ「鹿沼市文化活動交流館石蔵」
https://www.city.kanuma.tochigi.jp/0298/info-0000001813-0.html
とちぎいにしえの回廊「石をめぐる冒険 石が刻むとちぎの文化財」
https://www.inishie.tochigi.jp/special_stone_detail.html?id=35
帝国繊維株式会社「当社のあゆみ」
https://www.teisen.co.jp/company/history.html

最終更新日: 2026.08.24