キャンパスで最初に建った建物

東京工業大学大岡山西一号館(旧分析化学実験室)は、東京都目黒区大岡山にある昭和6年(1931年)9月竣工の鉄筋コンクリート造校舎で、平成25年(2013年)12月24日に登録有形文化財(建造物)に登録された。本館の北西側に東面して建ち、二階建に一部地下一階と塔屋を備え、平面はT字形をとる。

竣工した時点で、周囲にはほとんど何もなかった。大正12年(1923年)の関東大震災で蔵前の校舎を焼失し、翌年に大岡山へ移転したものの、その後しばらくは木造のバラック仮校舎で授業が続いていた。この建物は、その大岡山キャンパスに建った最初の恒久施設である。三年後に完成する本館より先に、ここが建った。

順序を決めたのは格ではなく化学だった。キャンパス計画は全学科を大きな一棟に集約する方針をとっていたが、分析化学教室だけが例外とされた。有毒ガスを発生させる実験に対応する必要があり、独立した外皮と排気系統、つまり専用の建物が要る。全学がまだ仮校舎にいる段階で、化学の実験室だけが恒久建築を得た理由はここにある。

実験棟に与えられた意匠 ― ロマネスク風の外観

登録基準は「造形の規範となっているもの」、登録番号は13-0305。評価されたのは、実用施設に求められる水準をはるかに超えて丁寧に仕上げられた外観である。

文化庁データベースの解説は、外観をロマネスク風にまとめてスクラッチタイルを貼り、壁頂部に歯飾りを付す、と記す。一方、大学側の資料は同じ部位をテラコッタ製のロンバルド帯とし、外壁については白色の横長タイル貼りと説明している。指しているのは同一の建物であり、いずれもロマネスク建築の語彙に属する装飾だが、呼称が資料によって異なる点は書き留めておきたい。

東面の中央には石貼のポーチが構えられ、本館と共通する扱いをとる。石は六ヶ村堅石のビシャン仕上げで、細かな凹凸が面に重さを与える。文化庁の解説が灯具などの細部の残りの良さに触れているのも見逃せない。九十年以上にわたって稼働し続けた実験棟で、まず失われるのがこの種の金物である。

大学の資料は、外壁タイルの割り付けなど本館よりも丁寧に設計・施工されている部分がある、と記している。主要建築ではなく付属棟についてこう書くのは珍しい。建築面積は資料により差があり、文化庁データベースは644平方メートル、大学の公開資料は建築面積622平方メートル、延床面積1,318平方メートルとする。公的な数値としては登録原簿が優先される。

背面として設計されなかった背面

この建物でもっとも見応えのある立面は、本来なら人目につかないはずの側にある。西立面は建物の背面にあたるが、敷地はこちら側で下がっており、建設当時はグラウンド越しに遠望される位置関係にあった。設計者はそれを踏まえ、外階段と円形のバルコニーを組み込んでいる。東面のポーチが公式の顔だとすれば、西側は設計が自由に振る舞っている場所である。回り込んで見る値打ちがある。

内部で要となったのは換気だった。両翼に配された第1から第4実験室は、天井の四隅に換気口を設け、屋上に据えたマルチプレート型排気機によって各室から直接排気する仕組みになっていた。昭和6年の時点でこれは相当に考え抜かれた設備計画で、登録原簿に記される塔屋の存在もここにつながる。

現在この建物には大学の国際交流センターが入っており、内部の一般公開は行われていない。外観の見学と撮影は構内が開いている時間であれば予約も料金も不要である。東急大井町線・目黒線の大岡山駅から正門まで徒歩1分ほど、正門を入って本館を目指し、その北西側の芝のスロープを下ったところに建っている。本館と70周年記念講堂もいずれも登録有形文化財で、数分の距離にある。

Q&A

Q東京工業大学大岡山西一号館の内部は見学できますか?
A現在は大学の国際交流センターが入る現役施設で、内部の一般公開は行われていません。構内は開放されているため、東面のポーチや西立面を含め、外観は徒歩で間近に見学できます。予約や料金は不要です。
Q東京工業大学大岡山西一号館はなぜ本館と別棟なのですか?
A分析化学の実験室として計画された建物で、有毒ガスを発生させる実験に対応する必要があったためです。他の学科はすべて本館という大きな一棟に集約されましたが、化学の実験室のみ専用の換気設備を備えた別棟とされ、本館より三年早い昭和6年9月に竣工しました。
Q東京工業大学大岡山西一号館の見どころはどこですか?
A東面中央の石貼ポーチ、壁頂部を巡る装飾帯、そして外階段と円形バルコニーを備えた西立面です。西側はキャンパスの中心から背を向けた位置にあり見落とされやすいのですが、意匠としてはこちらの方が凝っています。
Q東京工業大学大岡山西一号館へのアクセス方法は?
A東急大井町線または東急目黒線の大岡山駅を利用します。正門までは徒歩1分ほど。正門から本館へ向かい、その北西側の芝のスロープを下ります。登録原簿上の所在地は東京都目黒区大岡山2-1-1です。
Q東京工業大学大岡山西一号館の所有者は現在どこですか?
A登録原簿には国立大学法人東京工業大学と記載されています。同法人は令和6年(2024年)10月1日に東京医科歯科大学と統合して東京科学大学となり、大岡山キャンパスは新法人が保有しています。文化財の登録情報にはこの変更が反映されていません。

基本情報

名称東京工業大学大岡山西一号館(旧分析化学実験室)
所在地東京都目黒区大岡山2-1-1
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号13-0305 登録基準「造形の規範となっているもの」
指定年平成25年(2013年)12月24日登録
員数1棟
寸法鉄筋コンクリート造2階一部地下1階建、建築面積644平方メートル、塔屋付(文化庁データベース)。昭和6年9月竣工、T字形平面
所有者国立大学法人東京工業大学(登録原簿の記載)。同法人は2024年10月に統合により東京科学大学となった
公開状況外観のみ見学可。構内は開放されており拝観料なし。国際交流センターとして使用中で内部の一般公開なし

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「東京工業大学大岡山西一号館(旧分析化学実験室)」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00009720
文化遺産オンライン「東京工業大学大岡山西一号館(旧分析化学実験室)」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/285559
東京科学大学(旧・東京工業大学)「登録有形文化財 本館・西1号館・70周年記念講堂」
https://www.titech.ac.jp/public-relations/about/campus-maps/campus-highlights/cultural-properties
東京科学大学「大岡山キャンパス」
https://www.isct.ac.jp/ja/001/about/campuses-and-offices/ookayama
東京科学大学「アクセス」
https://www.isct.ac.jp/ja/001/access

最終更新日: 2026.08.04