全学科を一棟に収めるという判断

東京工業大学本館は、東京都目黒区大岡山にある昭和9年(1934年)竣工の鉄骨鉄筋コンクリート造校舎で、平成25年(2013年)12月24日に登録有形文化財(建造物)に登録された。大岡山キャンパスのほぼ中央に北面して建ち、三階建の主体部に一部四階と地下一階を備え、正面中央に塔屋が立つ。

この建物の出発点は火災である。前身の東京高等工業学校は蔵前(現在の台東区)にあったが、大正12年(1923年)の関東大震災で校舎を焼失した。翌大正13年に大岡山へ移転したものの、しばらくはバラックの仮校舎が並ぶだけの状態が続く。昭和4年に大学へ昇格し、ここで恒久的な校舎を建てる道筋がついた。

設計にあたったのは、事務局と建築学科の教員で構成された学内組織「復興部」である。当初の構想では学科ごとに別棟を建てるはずだった。方針を変えたのは、設計を主導した建築学科教授の橘節男の判断による。全学科を一つの建物に集約したほうが学校管理上も経済上も有利だという見立てで、講義室、学長室、会議室、事務室、図書館までを一棟に収める計画に切り替わった。別棟として残されたのは、有毒ガスを扱う分析化学教室だけである。

工事は二期に分けて進んだ。第一期が昭和7年10月に清水組の施工で竣工、第二期が昭和9年8月に安藤組の施工で竣工し、昭和10年3月に追加工事が終わっている。

登録基準が評価したもの ― 造形の規範として

登録有形文化財の制度は平成8年に始まったもので、指定制度に比べて規制はゆるやかである。現状変更は許可制ではなく届出制で、近代以降の建造物が社会的評価を受ける前に失われていく状況に対応するために設けられた。本館の登録基準は「造形の規範となっているもの」、登録番号は13-0304。

評価の対象になったのは、長大な正面をどう破綻なくまとめるかという設計上の課題への解答である。正面の全長は127.4メートル。この長さは何もしなければ単調になる。中央を塔屋で立ち上げ、両端のヴォリュームに相応の重さを持たせることで、視線が三点に留まる構成をつくっている。装飾的な要素はきわめて少ない。

文化庁データベースの解説は、外壁を白いスクラッチタイル貼、玄関ポーチを伊豆石貼とし、半円アーチを並べると記す。四方の立面はいずれも相称形に整えられており、この均衡が大学の中枢としての格式を支えている。大学側の資料は、設計を橘のもとの復興部工務課によるものとしたうえで、時計塔の意匠には当時助教授だった谷口吉郎が関与したと伝わる、と付記している。

建築面積については資料間に差がある。文化庁データベースは7,063平方メートルとするが、大学の公開資料は建築面積6,727平方メートル、竣工当時の延床面積24,269平方メートルとする。公的な数値としては登録原簿の記載が優先される。

正面127メートルをどう歩くか

東急大井町線・目黒線の大岡山駅を出ると、正門までは徒歩1分ほど。門を入った正面、緩やかな坂の先に本館が構えている。この見え方を計算した配置である。

まず玄関ポーチに立つ。北面の中央に五連のアーチが張り出し、足元で仕上げがタイルから石に切り替わる。この素材の転換が、入口を入口らしく見せている。次に西側へ回り込みたい。敷地はこちら側で下がっており、設計者はその高低差を九連アーチのロッジアに転用した。正門からは背を向けた位置にあるため素通りされやすいが、この建物でもっとも建築的な操作が見える場所はここである。

時計塔はゆっくり見上げるだけの価値がある。装飾で見せる塔ではなく、水平に長く伸びた本体に対して垂直の量塊をどう据えるかという、比例の問題として組み立てられている。

見学にあたっての実務的な点を挙げておく。キャンパスは開かれており、外観の見学と撮影に制限はない。ただし本館は現役の大学施設であり、内部の一般公開は行われていない。拝観料や公開時間という概念はなく、大学構内を歩くかたちになる。時期を選ぶなら4月初旬、本館前の桜並木が咲く頃がよい。昭和6年竣工の西1号館、1950年代竣工の70周年記念講堂もそれぞれ登録有形文化財で、いずれも数分の距離にあるため、三棟をまとめて見て回れる。

Q&A

Q東京工業大学本館の内部は見学できますか?
A本館は現在も講義・事務に使われている現役の施設で、内部の一般公開は行われていません。キャンパス自体は開放されているため、外観は間近で見学できます。オープンキャンパスや公開講座などの機会に内部へ入れる場合があり、実施は大学から告知されます。
Q東京工業大学本館へのアクセス方法は?
A東急大井町線または東急目黒線の大岡山駅を利用します。駅から大岡山キャンパス正門までは徒歩1分ほどで、正門を入った正面に本館が建っています。登録原簿上の所在地は東京都目黒区大岡山2-1-1です。
Q東京工業大学本館は撮影できますか?
A構内からの外観撮影に制限はありません。北面の玄関ポーチと西面のロッジアはいずれも徒歩で回り込めます。商業撮影、三脚の使用、ドローン撮影は事前に大学広報課の許可が必要です。学生・教職員が写り込む撮影は避けてください。
Q東京工業大学本館の設計者は誰ですか?
A大岡山移転後に学内へ置かれた「復興部」が設計しました。事務局と建築学科教員からなる組織で、建築学科教授の橘節男が設計を主導しています。大学の資料によれば、時計塔の意匠には当時助教授だった谷口吉郎が関与したと伝わります。
Q東京工業大学本館の所有者は現在も東京工業大学ですか?
A東京工業大学は令和6年(2024年)10月1日に東京医科歯科大学と統合し、東京科学大学となりました。大岡山キャンパスは新法人に引き継がれています。文化庁の登録原簿には統合前の法人名が所有者として記載されたままです。

基本情報

名称東京工業大学本館(とうきょうこうぎょうだいがくほんかん)
所在地東京都目黒区大岡山2-1-1
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号13-0304 登録基準「造形の規範となっているもの」
指定年平成25年(2013年)12月24日登録
員数1棟
寸法鉄骨鉄筋コンクリート造3階一部4階地下1階建、建築面積7,063平方メートル、塔屋付(文化庁データベース)。昭和9年竣工、正面全長127.4メートル
所有者国立大学法人東京工業大学(登録原簿の記載)。同法人は2024年10月に統合により東京科学大学となった
公開状況外観のみ見学可。構内は開放されており拝観料なし。内部の一般公開なし

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「東京工業大学本館」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00009719
文化遺産オンライン「東京工業大学本館」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/230328
東京科学大学(旧・東京工業大学)「登録有形文化財 本館・西1号館・70周年記念講堂」
https://www.titech.ac.jp/public-relations/about/campus-maps/campus-highlights/cultural-properties
東京科学大学(旧・東京工業大学)「本館」キャンパス見どころ紹介
https://www.titech.ac.jp/public-relations/about/campus-maps/campus-highlights/main
東京科学大学「アクセス」
https://www.isct.ac.jp/ja/001/access

最終更新日: 2026.08.04