大正九年、山腹に建てられた大規模本堂

大樹寺本堂は、鳥取県八頭郡八頭町福地にある曹洞宗寺院の本堂で、大正9年(1920年)の建築、令和6年(2024年)8月15日に登録有形文化財(建造物)となった。市場城跡の東方にあたる山腹、境内のほぼ中央に西面して建つ。木造平屋建、瓦葺、建築面積256平方メートル。登録番号は31-0292、第107回登録である。

愛知県岡崎市の大樹寺、すなわち徳川将軍家の菩提寺と同名だが、まったく別の寺院である。こちらの山号は普門山。石段を上がった先にある地方寺院で、建築上の見どころは中世の遺構ではなく、大正から昭和にかけて整えられた伽藍にある。

創建年代は不詳。旧記録が焼失したためで、寺伝として残るのは輪郭だけである。もとは隣接する市場集落の山上にあり、安藤義光の菩提所であったという。この安藤義光について、寺側の由緒は家老とし、鳥取市の観光案内は毛利家の家臣で八頭郡津黒城主と記す。文化庁のデータベースは現在地を「市場城跡東方の山腹」と説明しており、人物の位置づけには資料間で幅がある。

天正年間(1573~92年)の兵火で堂宇を失った。羽柴秀吉が鳥取城を攻めた天正8年(1580年)前後のことと推定されている。このとき小僧の了山宗覚が本尊の釈迦如来像を抱えて逃れたと伝わる。明暦年間(1655~58年)に現在地で再興され、あわせて曹洞宗に改め、鹿野の譲傳寺の末寺となった。宝暦年間(1751~64年)には再び火災に遭い、八世真龍が復興した。

つまり今日目にする本堂は、少なくとも三代目か四代目にあたる。

登録の理由と建築の内容

登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。抽象的な言い回しに見えるが、この建物については即物的な意味を持つ。棟が高く、田畑越しに遠くから屋根の稜線が見える。寺の位置を風景のなかで定めているのは、この屋根である。

形式は入母屋造平入桟瓦葺。妻側ではなく平側から入る構えで、正面には向拝を設ける。この向拝が最も手の込んだ部分になる。垂木をまっすぐ通さず湾曲させており、突出部全体の輪郭がやわらかい。中備と手挟には彫刻が密に入る。大工と彫物師に費用を割いたのがどこかは、外から見てすぐわかる。

内部は前から外陣、大間、内陣と三層に分かれる。禅宗寺院の本堂として定型的な平面だが、規模が大きい。大間の天井は折上格天井で、周囲を曲面で持ち上げてから格縁の格子に接続する。手間と材の両方を要する形式であり、大正期の農村の檀家がここに金をかけたという事実そのものが、この本堂の性格を示している。

同じ日に、境内の他の三棟も登録された。開山堂(昭和26年、31-0293)、僧堂(昭和30年、31-0294)、鐘楼(昭和29年、31-0295)である。四棟は一括して評価されており、その中心に位置するのが本堂にあたる。

参拝の実際

参道は石段で、その脇に立つ木のほうが知名度は高い。有楽椿である。関東では太郎冠者と呼ばれ、茶人大名の織田有楽斎が茶花として愛好したと伝わる品種。推定樹齢は資料によって400年以上とも約450年ともされる。樹高8.7メートル、幹回り1.85メートル、枝張り10.5メートルで、八頭町の指定文化財。淡い紅色の花が11月下旬から4月上旬にかけて咲き続けるため、冬に訪れる理由がある寺でもある。

堂内には本尊の釈迦牟尼佛のほか、薬師如来、達磨大師、十六羅漢、大権修利菩薩などが安置される。大樹寺は中国四十九薬師霊場、因幡薬師霊場、中国楽寿三十三観音霊場の札所を兼ねており、規模のわりに巡拝者の出入りは少なくない。

所在地は鳥取県八頭郡八頭町福地408、電話は0858-74-0854。駐車場は無料。JR東郡家駅から車で約20分、鳥取自動車道の河原ICからは約30分ほど。公共交通なら東郡家駅から八頭バスの落岩行きがある。境内は自由に歩けるが、堂内の拝観や坐禅への参加は決まった時間割で受け付けているわけではないため、事前に電話で相談するのが確実である。堂内撮影の可否も同様に確認したい。2020年代の初めには住職の交代にともなう伽藍内の改装が行われており、遠方から訪ねる場合は現在の状況を問い合わせておくとよい。

Q&A

Q鳥取県の大樹寺本堂は、岡崎の大樹寺と同じ寺ですか?
A別の寺院です。愛知県岡崎市の大樹寺は徳川将軍家の菩提寺で、こちらは鳥取県八頭町福地にある曹洞宗の普門山大樹寺です。同名ですが由緒に関係はありません。
Q大樹寺本堂の内部は拝観できますか。拝観料はかかりますか?
A境内は自由に参拝でき、駐車場も無料です。堂内拝観について料金や公開時間の案内は出ていないため、0858-74-0854へ事前にご連絡ください。
Q大樹寺本堂へは最寄り駅からどう行けばよいですか?
AJR東郡家駅が最寄りで、車で約20分です。同駅から八頭バスの落岩行きも利用できます。車の場合、鳥取自動車道の河原ICから約30分をみておいてください。
Q大樹寺本堂はいつ建てられ、どの区分の文化財ですか?
A大正9年(1920年)の建築で、令和6年(2024年)8月15日に登録有形文化財(建造物)となりました。登録番号は31-0292です。登録は重要文化財の指定より緩やかな保護の枠組みにあたります。
Q大樹寺本堂を訪ねるのに適した季節はいつですか?
A11月下旬から4月上旬です。参道の石段脇に立つ有楽椿が咲く時期にあたります。この地域は積雪もあり、雪と淡紅色の花が重なる光景を目当てに訪れる人が多い季節です。
Q大樹寺には本堂のほかにも登録文化財がありますか?
Aあります。令和6年8月15日に開山堂(昭和26年)、鐘楼(昭和29年)、僧堂(昭和30年)が同時に登録されました。いずれも境内から外観を見ることができます。

基本情報

名称大樹寺本堂(だいじゅじほんどう)
所在地鳥取県八頭郡八頭町福地408(〒680-0307)
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 31-0292
指定年令和6年(2024年)8月15日登録 第107回
員数1棟
寸法木造平屋建、瓦葺、建築面積256平方メートル/大正9年(1920年)建築
所有者宗教法人大樹寺
公開状況境内は自由に参拝可(駐車場無料)。堂内拝観・坐禅は事前連絡(0858-74-0854)

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース 大樹寺本堂
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00015083
文化遺産オンライン 大樹寺本堂
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/565641
曹洞禅ナビ(曹洞宗公式寺院ポータル) 普門山 大樹寺
https://sotozen-navi.com/detail/index_310008.html
鳥取市観光サイト【公式】 普門山 大樹寺
https://www.torican.jp/spot/detail_1388.html
とっとり旅【公式】 大樹寺のウラクツバキ(有楽椿)
https://www.tottori-guide.jp/tourism/tour/view/986

最終更新日: 2026.08.03