天日名鳥命神社本殿:千年の歴史を受け継ぐ大正期の社殿建築

鳥取市大畑の丘の上に静かに佇む天日名鳥命神社本殿は、大正2年(1913年)に再建された由緒ある式内社の社殿です。その歴史は延喜式神名帳(927年編纂)にまで遡り、千年以上にわたって地域の信仰の中心として守り継がれてきました。令和4年(2022年)10月31日に国登録有形文化財(建造物)に登録されたこの本殿は、近代における社殿造営の様相を伝える貴重な建築遺産であり、湖山池を望む豊かな自然環境の中で、訪れる人々に深い安らぎを与えてくれます。

歴史的背景

天日名鳥命神社の創立年代は不詳ですが、平安時代中期に編纂された『延喜式神名帳』(927年)に因幡国高草郡の式内社として記載されており、少なくとも千年以上の歴史を有することが確認されています。式内社とは、当時朝廷から官社として認められた格式高い神社であり、全国で2,861社しか認定されていませんでした。

主祭神の天日名鳥命は、因幡国造氏の氏神である天穂日命の御子神とされ、古代の地方豪族との密接な関係がうかがえます。神社のある大畑の地は古墳との結びつきも考えられており、大化改新以前から繁栄していた地域であることを物語っています。

社伝によれば、往古は天日名鳥命・天穂日命・天日鷲命をそれぞれ祀る三つの社がありましたが、中世に戦火により焼失。その後、本社一宇を建てて三神を合祀し、「天三祇の宮(あまさぎのみや)」と称するようになりました。近世には「天鷺宮」とも呼ばれ、明治初年に現在の天日名鳥命神社と改称されました。

大正2年(1913年)には、以前の中腹の鎮座地から山頂の現社地に遷座し、同時に字村の中にあった福谷神社(素盞嗚命を祀る)が合祀されました。現在の本殿はこの時に建造されたものです。

文化財指定の理由

天日名鳥命神社本殿は、令和4年(2022年)10月31日に国登録有形文化財(建造物)として登録されました。その評価のポイントは多岐にわたります。

本殿は鹿野城下から鳥取城下への旧街道沿いの丘上に位置する式内社の社殿であり、一間社流造銅板葺という神社建築の基本形式を忠実に守った建物です。床が高く、四方に縁を廻し、亀腹は石造とするなど、伝統的な社殿の構成要素を備えています。

全体的な装飾は抑制的でありながら、蟇股(かえるまた)等の彫刻意匠には近代的な華やかさが見られ、大正期の建築感覚が反映されています。正面扉には神紋が付されており、格式を示しています。特に注目すべきは、当時の設計書が現存しており、近代における社殿造営の計画・施工の様相を具体的に伝える資料として高く評価されている点です。

日本海新聞の報道によれば、神社建築の基本を忠実に守りながらも木材の彫刻など細かな意匠が見られる点、そして当時の設計書から近代の社殿造営の様相を伝える貴重な文化財として評価されたことが登録の決め手となりました。

建築の見どころ

本殿は建築面積わずか7.3平方メートルというコンパクトな建物ですが、随所に神社建築の粋が凝縮されています。

参道の石段を登り、木々に囲まれた丘の頂に至ると、そこに端正な姿の本殿が現れます。高い床は神聖な空間を地上から切り離す役割を果たし、四方を巡る縁(えん)が建物に開放感を与えています。

銅板葺の屋根は流造(ながれづくり)の優美な曲線を描き、石造の亀腹(かめばら)が堅牢な基壇を形成しています。蟇股(かえるまた)に施された彫刻は、全体の抑制的な意匠の中にあって、大正期ならではの近代的な華やかさを添えています。正面扉に刻まれた神紋にもぜひご注目ください。

同時に登録された幣拝殿(へいはいでん)と合わせて見学することで、大正期の神社建築の全体像をより深く理解することができます。周囲の丘陵地は古墳との関連も指摘されており、古代から連綿と続く聖地としての雰囲気を感じ取ることができるでしょう。

周辺情報

天日名鳥命神社の約2km北には、親神である天穂日命を祀る天穂日命神社が鎮座しています。本殿には波うさぎなどの精緻な彫刻が施されており、親子の神社を合わせて参拝することで、この地域の神話世界をより深く体感できます。

神社のすぐ近くには、「池」と名のつく湖沼の中で日本最大の面積を誇る湖山池が広がっています。周囲18km、面積6.9平方キロメートルという広大な池で、富士五湖最大の山中湖よりも大きな水面を持ちます。池の中央にある青島は桜と夕日の名所として知られ、橋で渡ることができます。季節限定で運航される遊覧船では、地元の語り部による鳥取弁での案内を楽しむことができます。

湖山池ナチュラルガーデンでは四季折々の花々が楽しめ、心安らぐ散策が可能です。また、車で約20分の距離には日本を代表する自然景観である鳥取砂丘があり、鳥取城跡や国重要文化財の仁風閣など、見どころが数多くあります。

Q&A

Q天日名鳥命神社本殿はどのような文化財ですか?
A令和4年(2022年)10月31日に国登録有形文化財(建造物)に登録された建築物です。大正2年(1913年)に建造された一間社流造銅板葺の社殿で、近代の社殿造営の様相を伝える貴重な建築遺産として評価されています。
Q「式内社」とは何ですか?
A式内社とは、平安時代に編纂された『延喜式神名帳』(927年)に記載された神社のことです。当時、朝廷から官社として認められた格式の高い神社であり、全国で2,861社が登録されていました。天日名鳥命神社は因幡国高草郡の式内社の一つです。
Qアクセス方法を教えてください。
A鳥取市大畑874に所在しています。JR鳥取駅から車で約15〜20分です。湖山池方面へのバス路線もありますが、神社へは車またはタクシーでのアクセスが便利です。参道は小高い丘の石段を登る形になっています。
Q御祭神はどなたですか?
A主祭神は天日名鳥命(あめのひなどりのみこと)で、因幡国造氏の氏神である天穂日命の御子神とされています。大正2年の合祀により、素盞嗚命(すさのおのみこと)も合わせて祀られています。
Q拝観料は必要ですか?
A拝観料は不要です。境内は自由に参拝・見学できます。ただし、常駐の社務所はありませんので、御朱印等については事前に確認されることをお勧めします。

基本情報

名称 天日名鳥命神社本殿(あめのひなどりのみことじんじゃほんでん)
文化財区分 国登録有形文化財(建造物)
登録年月日 令和4年(2022年)10月31日
建造年代 大正2年(1913年)
建築様式 一間社流造、銅板葺
構造 木造平屋建、建築面積7.3㎡
主祭神 天日名鳥命(あめのひなどりのみこと)
所在地 鳥取県鳥取市大畑874
所有者 宗教法人天日名鳥命神社

参考文献

天日名鳥命神社本殿 - 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/523487
天日名鳥命神社 - 鳥取縣神社廳
https://tottori-jinjacho.jp/pages/463/
天日名鳥命神社(鳥取市大畑) - Shrine-heritager
https://shrineheritager.com/amenohinadorinomikoto-shrine/
天日名鳥命神社(鳥取市) - 玄松子の記憶
https://genbu.net/data/inaba/hinadori_title.htm
国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00014408
天日名鳥命神社(鳥取市)が国文化財に - 日本海新聞
https://www.nnn.co.jp/today/220722/20220722166.html

最終更新日: 2026.03.28