天日名鳥命神社幣拝殿のご紹介

鳥取市大畑地区の小高い丘の上に鎮座する天日名鳥命神社(あめのひなどりのみことじんじゃ)。その幣拝殿は、大正2年(1913年)に建立された貴重な近代神社建築であり、令和4年(2022年)10月31日に国登録有形文化財(建造物)に登録されました。

この神社は、鹿野城下から鳥取城下へ至る旧街道沿いの丘上に位置し、延喜式神名帳にも記載される由緒ある式内社です。椎、タブノキ、榊、杉などの鬱蒼とした社叢に包まれた境内は、100段を超える石段を登った山頂にあり、千年以上の歴史が息づく静謐な聖域として訪れる人々を魅了しています。

歴史的背景

天日名鳥命神社の創立年代は不詳ですが、延長5年(927年)に完成した『延喜式』神名帳に掲載されていることから、少なくとも10世紀初頭には重要な祭祀の場として存在していたことが確認されています。主祭神の天日名鳥命は、因幡国造氏の氏神である天穂日命の御子神とされ、古代地方豪族との密接な関係を示しています。

往古は天日名鳥命・天穂日命・天日鷲命をそれぞれ祀る三つの社が存在していましたが、中世の戦火により焼失。三神を相殿として合祀し、「天三祇ノ宮(あまさぎのみや)」あるいは「天鷺宮」と称されるようになりました。鷺(さぎ)は三祇(さぎ)に通じるとする説もあります。明治初年に天日名鳥命神社と改称され、大正2年には字村の中に鎮座していた福谷神社(もと荒神、祭神は素盞嗚命)を合祀しました。

また大正2年、参道中腹に鎮座していた社殿を山頂の現在地に遷座し、同時に本殿および幣拝殿が新たに造営されました。

文化財としての価値

天日名鳥命神社幣拝殿は、令和4年(2022年)10月31日に国登録有形文化財(建造物)に登録されました。同日には本殿も同様に登録されており、神社の主要建築群として一体的に評価されています。

登録の要因として、以下の点が挙げられます。まず、懸魚(げぎょ)の原寸図が残存しており、大正期の社殿造営の技術と意匠を直接的に伝える貴重な史料となっています。また、幣拝殿の懸魚は本殿の彫刻意匠と比較してより伝統的なデザインを採用しており、同一境内において近代的な装飾と伝統的な意匠が共存する興味深い事例です。さらに、境内の歴史的景観を形成する重要な構成要素として評価されています。

建築的見どころ

幣拝殿は木造平屋建で、建築面積は28平方メートルです。拝殿部分は入母屋造妻入の桟瓦葺とし、正面には入母屋造の起り破風(むくりはふ)を備えた向拝を設けています。この起り破風は優美な曲線を描き、建物全体に格調高い印象を与えています。妻飾には懸魚を重ねるデザインが施されています。

向拝部分には格天井が張られ、縁(えん)は三方に廻されています。内部は一室構成で、背面には切妻造の幣殿が張り出し、本殿へと続く構造となっています。

特に注目すべきは懸魚の意匠です。本殿の蟇股等の彫刻が近代的な華やかさを持つのに対し、幣拝殿の懸魚はより伝統的な手法で制作されており、原寸図が現存することから、大正期における社殿建築の設計・施工過程を具体的に知ることのできる貴重な建造物です。

伝説と民話

天日名鳥命神社には、地域に伝わる興味深い伝説が残されています。かつて神社の鳥居横には御手洗池があり(現在は失われています)、そこには「要石」と呼ばれる二つの大石がありました。この石は地の底に住む大鯰の頭と尾を押さえているとされ、地震を鎮める役割を担っていたと伝えられています。

また、山麓には「腰掛け岩」があり、祭神の天日名鳥命がこの岩に腰を掛けて魚を釣ったという古跡として伝えられています。神話の時代から続くこうした素朴な伝承が、この地域の歴史の奥深さを物語っています。

参拝案内

天日名鳥命神社は鳥取市大畑の集落南寄りの小丘上に東面して鎮座しています。100段余りの石階を登ると、椎やタブノキ、榊、杉など豊かな社叢に囲まれた境内に到着します。境内面積は約2,673平方メートルです。

例祭は毎年4月15日に近い日曜日に行われ、伝統的な麒麟獅子の奉納が行われます。秋祭は10月1日です。拝殿には書き置きの御朱印が用意されており、初穂料300円を賽銭箱に納めていただきます。直書きの御朱印は近隣の長柄神社でいただくことも可能です。

この神社は「因幡伯耆國 開運神社巡り」の干支所縁十二神社のひとつに数えられており、酉年に所縁があり、五穀豊穣のご利益があるとされています。

周辺の見どころ

  • 吉岡温泉:約1,000年の歴史を持つ由緒ある温泉郷。薬師如来のお告げにより発見されたと伝えられ、「美肌伝説の湯」として知られています。源泉かけ流しの公衆浴場「一ノ湯」のほか、温泉街には無料の足湯も設置されています。鳥取駅からバスで約34分です。
  • 湖山池:山陰地方有数の天然湖で、山陰海岸ジオパークの一部としても認定されています。桜の季節には湖畔の景色が特に美しく、青島公園も人気のスポットです。
  • 白兎神社・白兎海岸:因幡の白兎伝説ゆかりの神社と美しい海岸。神社の北方約5キロメートルに位置し、縁結びの神様として広く知られています。
  • 鳥取砂丘:日本最大級の海岸砂丘。吉岡温泉エリアから車で約20分の距離にあります。
  • 天穂日命神社:天日名鳥命の親神を祀る神社。天日名鳥命神社の北約2キロメートルに位置し、親子の神を巡る参拝コースとして訪れることができます。

Q&A

Q天日名鳥命神社へのアクセス方法は?
AJR鳥取駅から日ノ丸バスに乗車し「吉岡中央」バス停で下車、徒歩約15分です。お車の場合は鳥取市中心部から約20分。神社麓付近に駐車スペースがあります。
Q幣拝殿の建築的な特徴は何ですか?
A大正2年建立の木造平屋建で、入母屋造妻入桟瓦葺の拝殿に起り破風の向拝を設けた格調高い造りです。懸魚には伝統的な意匠が施され、原寸図が現存する点が特に貴重とされています。令和4年に国登録有形文化財に登録されました。
Q御朱印はいただけますか?
Aはい。拝殿に書き置きの御朱印が用意されています。初穂料300円を賽銭箱にお納めください。直書きの御朱印をご希望の場合は、近隣の長柄神社でいただくことも可能です。
Q参拝に適した時期はいつですか?
A豊かな社叢に囲まれているため四季を通じて美しい景観を楽しめます。特に4月中旬の例祭では麒麟獅子の奉納が見られます。また、近くの吉岡温泉では6月に長柄川沿いでホタル鑑賞が楽しめます。
Q足の不自由な方でも参拝できますか?
A境内へは100段以上の石段を登る必要があり、バリアフリーの通路はありません。石段はやや急な箇所もありますので、足腰に不安のある方はご注意ください。

基本情報

名称 天日名鳥命神社幣拝殿(あめのひなどりのみことじんじゃへいはいでん)
文化財区分 国登録有形文化財(建造物)
登録年月日 令和4年(2022年)10月31日
建立年 大正2年(1913年)
構造 木造平屋建、瓦葺、建築面積28㎡
祭神 天日名鳥命、素盞嗚命
所在地 〒680-1437 鳥取県鳥取市大畑874
所有者 宗教法人天日名鳥命神社
例祭 4月15日に近い日曜日(麒麟獅子奉納あり)
アクセス JR鳥取駅から日ノ丸バス「吉岡中央」下車、徒歩約15分。車の場合、鳥取市中心部から約20分。

参考文献

文化遺産オンライン - 天日名鳥命神社幣拝殿
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/546178
文化遺産オンライン - 天日名鳥命神社本殿
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/523487
国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00014409
鳥取縣神社廳 - 天日名鳥命神社
https://tottori-jinjacho.jp/pages/463/
鳥取市観光サイト - 天日名鳥命神社
https://www.torican.jp/spot/detail_2802.html
玄松子の記憶 - 天日名鳥命神社(鳥取市)
https://genbu.net/data/inaba/hinadori_title.htm

最終更新日: 2026.03.28