旧正門のすぐ内側に建つ小さな近代建築

旧制和歌山中学校図書館(桐蔭高等学校同窓会館)は、和歌山県和歌山市吹上にある和歌山県立桐蔭高等学校の校地に建つ昭和4年(1929年)竣工の鉄筋コンクリート造平屋建の建物で、令和3年(2021年)2月4日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。

現存するのは閲覧室の部分である。敷地の北面中央に西を向いて建つ。当時の正門は北側にあり、門を入ってすぐ東がこの建物だった。建築面積は125平方メートル、屋根は陸屋根。昭和4年の学校建築で瓦も棟も持たない平らな屋根を選ぶことは、それ自体が意思表示だった。

意匠の力点は西面の玄関ポーチに置かれている。太い円柱が、先へ行くほど厚みを減じる水平の庇を受ける。庇の下には蛇腹がまわり、視線を上ではなく横へ流す。手摺りが左右に添う。そして正面壁面の中央に、モルタル塗で旧制中学校の校章が据えられている。

側面には縦長の窓が連続して並び、建物の奥行きを強調する。

細部は足元まで及ぶ。床下換気口のグリルには、和歌山中学校の「中」の字が意匠として組み込まれている。地面にいちばん近い部分にまで手が入っている。

保護者の寄付による、開校50周年の記念建築

和歌山中学校の開校は明治12年(1879年)3月。県内で最初の中学校として出発し、明治22年(1889年)に和歌山城西の丸跡へ移り、大正4年(1915年)4月に現在地へ新築移転した。昭和初期には野球の全国優勝もあって、校名は全国に知られていた。

開校50年の節目が昭和4年に当たる。記念事業のひとつとして保護者会が図書館を寄贈し、建物は同年6月8日に完成した。開校50周年記念祝賀会そのものは同年11月、5日間にわたって開かれ、2日目には1千人の生徒が小旗を手に市中を行進する旗行列も行われている。

設計者と施工者は分かっていない。資料が残っておらず、建物そのものから読み取るほかない。

閲覧室は昭和5年(1930年)から昭和50年代まで、生徒の学びの場として使われ続けた。昭和52年(1977年)5月に校舎整備の一環として新しい図書館が竣工すると、旧図書館の改修工事が始まる。閲覧室後方の書庫を撤去し、昭和53年(1978年)5月、和中開校100周年・桐蔭30周年を機に同窓会館として生まれ変わった。この改修を経ても、閲覧室部分の外観は旧態をよく残している。

現在は部活動や会議など、多目的に使われている。

登録の理由

登録番号は30-0289。令和3年2月4日、第97回の登録として告示された。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」で、文化庁の解説は「簡明な意匠の近代建築」と評している。

登録有形文化財は、築おおむね50年を経た建造物を対象とし、使い続けることを前提に、大きな改変の際の届出を求める制度である。所有者の裁量が比較的広く残される点が重要文化財の指定と異なる。週に何度も人が出入りする同窓会館は、この制度が想定した使われ方に近い。

所有者は和歌山県。地元紙の報道によれば、学校が当初手続きを進めていたのはこの建物であり、同じ校地の運動場スタンドは文化庁担当官の勧めで申請に加えられたという。2件は同日付で登録され、令和3年3月1日には登録記念パンフレットが発行された。

訪ねるときに知っておきたいこと

桐蔭高校は通常どおり授業を行っている学校である。同窓会館にも開館時間や見学料の設定はなく、見学プログラムも用意されていない。建物を見たい場合は事前に学校へ連絡し、目的を伝えて許可を得る必要がある。授業日に予告なく門前を訪ねても対応は難しい。

校外からでも手掛かりはある。令和3年2月以降、正門南側のレンガ塀に登録を報告する記念パネルが掲げられている。同年3月には校内に解説板が設置され、運動場スタンド、野村吉三郎箴言碑の解説板とともに除幕された。同窓会館の前には、平成11年(1999年)の和中・桐蔭創立120周年記念事業で建立された和歌山中学校校歌の歌碑が立つ。

撮影は公道からであれば制限されない。校地内での撮影には許可が必要である。

アクセスは、JR和歌山駅または南海和歌山市駅から和歌山バスで小松原5丁目下車、東へ徒歩約5分。和歌山城は徒歩圏で、明治22年から大正4年まで校舎が置かれた西の丸跡には、令和4年(2022年)3月に和歌山中学校の解説板が設置された。すぐそばには明治29年卒業生の記念植樹である楠と石碑が移設されている。和歌山市の「市の木」が楠となった由来にもつながる木である。

Q&A

Q旧制和歌山中学校図書館(桐蔭高等学校同窓会館)は見学できますか。
A自由な見学はできません。現役の高等学校の校地内にあり、部活動や会議に使われているため、開館時間や見学料の設定はありません。見学を希望する場合は事前に学校へ連絡してください。正門脇のレンガ塀に設置された登録記念パネルは校外から見ることができます。
Q旧制和歌山中学校図書館はいつ、誰の負担で建てられたのですか。
A昭和4年(1929年)6月8日の完成です。明治12年(1879年)の和歌山中学校開校から50年を記念する事業として、保護者会の寄付により建てられました。設計者・施工者はいずれも資料が残らず不明です。
Q桐蔭高等学校同窓会館の見どころはどこですか。
A注目したいのは3点です。太い円柱が厚みを減じる水平庇を受ける西面の玄関ポーチ、正面壁面中央にモルタル塗で飾られた旧制中学校の校章、そして「中」の字を組み込んだ床下換気口のグリルです。側面に連続する縦長窓も、建物の奥行きを引き立てています。
Q旧制和歌山中学校図書館は、いまも図書館として使われていますか。
A使われていません。昭和5年(1930年)から昭和50年代まで図書館でしたが、昭和52年に新しい図書館が竣工したのを受けて改修され、閲覧室後方の書庫を撤去したうえで昭和53年5月に同窓会館となりました。閲覧室部分の外観は当初の姿をよく保っています。
Q桐蔭高等学校同窓会館へのアクセスと、周辺で併せて訪ねられる場所は。
AJR和歌山駅・南海和歌山市駅から和歌山バスで小松原5丁目下車、東へ徒歩約5分です。同じ日に登録された旧制和歌山中学校運動場スタンドが同じ校地内にあり、和歌山城、県立博物館、県立近代美術館も徒歩圏にあります。

基本データ

名称旧制和歌山中学校図書館(桐蔭高等学校同窓会館)
所在地和歌山県和歌山市吹上5丁目1-17
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 30-0289
指定年令和3年(2021年)2月4日登録(第97回登録)
員数1棟
寸法鉄筋コンクリート造平屋建、陸屋根、建築面積125平方メートル/昭和4年建設、昭和53年改修
所有者和歌山県
公開状況現役の高等学校の校地内にあり、部活動・会議等に使用。一般公開なし、見学は事前連絡・許可が必要。見学料なし。

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース ― 旧制和歌山中学校図書館(桐蔭高等学校同窓会館)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00013619
文化遺産オンライン ― 旧制和歌山中学校図書館(桐蔭高等学校同窓会館)
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/539768
わかやまの文化財 ― 旧制和歌山中学校(桐蔭高等学校)
https://wakayama-bunkazai.jp/bunkazai/bunkazai-spot-970/
和歌山県立桐蔭高等学校 ― 桐蔭の歴史
https://www.toin-h.wakayama-c.ed.jp/about/history/
わかやま新報 ― 二つの国登録有形文化財 桐蔭高校で報告会
https://www.wakayamashimpo.co.jp/2021/03/20210310_99959.html

最終更新日: 2026.08.27