広八幡神社とは

広八幡神社は、和歌山県有田郡広川町上中野に鎮座する八幡宮で、応永20年(1413年)頃に建てられた本殿から宝永元年(1704年)の拝殿までの6棟が国の重要文化財に指定されている。祭神は誉田別命、気長足姫命、足仲津彦命の三神で、古くは単に八幡宮と称し、広庄の産土神として祀られてきた。表記は広八幡神社のほか廣八幡宮・廣八幡神社とも書き、読みは「ひろはちまんじんじゃ」である。

創建の年代は分かっていない。社伝は、神功皇后が三韓からの帰途に有田の広村へ立ち寄った縁により、欽明天皇の代(在位539年から571年)に河内国の誉田八幡宮から勧請されたと伝える。『紀伊続風土記』には、室町時代初期の応永年間に梅本覚言という土豪が現在地へ遷したという記録が残るが、確かなことは分からない。

天正13年(1585年)、豊臣氏の紀州攻めの兵火で神庫や坊舎が焼け、社は一時衰えた。慶長5年(1600年)に浅野幸長が藩主となると神領十石が寄せられ、元和5年(1619年)に紀州徳川家が入封してからは歴代藩主の保護を受けて立ち直っていく。室町から江戸前期にかけて建った社殿が広八幡神社にまとまって残っているのは、この保護と無縁ではない。

江戸時代に刊行された『紀伊国名所図会』には「廣八幡宮」として境内の絵図が載る。多宝塔、鐘楼、西門、観音堂が描かれ、神仏習合の姿がよく分かる。明治初年の神仏分離でこれらは境内から離れ、多宝塔は広島市の三滝寺、鐘楼は広川町上中野の法蔵寺、西門は同町広の安楽寺へ移された。今日の境内は、一度失われたものを差し引いた後の姿である。

境内の歩き方

広八幡神社は氏子地域のほぼ中央、標高40メートルほどの小山を背にして西を向いて建つ。社前の道は東西に延び、西へ下ると広の旧市街の中央を抜けて広村堤防の赤門に達する。この道は「大道」と呼ばれ、秋祭りの神輿渡御はこの経路をたどる。

参道の階段を上がって楼門をくぐると境内に入る。正面に舞殿が建ち、楼門と平行して西側に絵馬堂、東側に社務所が並ぶ。舞殿は明和2年(1765年)の建立が棟札で確かめられており、和歌山県指定の建造物である。

舞殿の奥からもう一段階段を上ると拝殿があり、その先の神門と瑞垣の内側に本殿が鎮座する。本殿を正面に見て右に摂社若宮社本殿、左に摂社高良社本殿と摂社天神社本殿が並ぶ。左から天神社・高良社・本殿・若宮社の順に檜皮葺の屋根が四つ連なる眺めが、広八幡神社の中心部である。

このほか彌廣八幡神社、覚言社、明神社、庁舎、神輿庫、直会殿、天神社拝殿などが境内に点在する。神輿庫には広川町指定の四方唐破風御輿が納められ、文化3年(1806年)に現在の長崎県新上五島町から奉納されたものと伝わる。舞殿の脇の手水鉢は、下総の外川浦(現在の千葉県銚子市)に港を開いた広村出身の﨑山次郎右衛門が宝暦年間に奉納したもので、「盥漱水」の三字が刻まれている。

「稲むらの火」と避難の記憶

広八幡神社は、市街地より高い位置にある避難所としても知られる。安政元年(1854年)11月5日の安政南海地震の津波のとき、濱口梧陵はこの社へ避難したうえで村人の救出に向かい、暗夜に稲むらへ火を放って避難路を示したと伝えられる。この出来事はラフカディオ・ハーンが「A Living God」に書き、のち国定教科書の「稲むらの火」として広く知られた。

境内には「梧陵濱口君碑」が建つ。濱口梧陵と親交のあった勝海舟が撰文と題額を担い、書は明治の三筆と称された巖谷一六、刻字は宮亀年による。和歌山県指定の文化財で、碑の立つ高台からは、津波の後に濱口梧陵が私財を投じて築いた広村堤防の松並木を望むことができる。

広八幡神社は現在も津波避難場所に指定されており、平成25年(2013年)には避難施設が整えられた。11月5日の「世界津波の日」に広川町で行われる津浪祭では、式典の後にこの社へ向かう避難訓練が実施される。境内が今も防災の実務に組み込まれている点は、単なる旧跡と異なる。文化庁の日本遺産「百世の安堵」の構成文化財にも選ばれている。

境内の指定文化財

広八幡神社の建造物のうち、本殿、摂社若宮社本殿、摂社高良社本殿、摂社天神社本殿、拝殿、楼門の6棟が重要文化財である。本殿と若宮社・高良社の3棟が昭和4年(1929年)4月6日、天神社・拝殿・楼門の3棟が昭和22年(1947年)2月26日の指定で、いずれも国指定文化財等データベースの台帳に別件として登録されている。棟札は本殿ほか4棟のとして合わせて指定されており、建立と修理の年代を確かめる資料になっている。

建造物以外では、鎌倉時代の短刀一口(銘・来国光)が重要文化財に指定されている。和歌山県指定の文化財としては舞殿、南紀男山三彩狛犬、梧陵濱口君碑があり、広川町指定として木造狛犬、大般若経六百巻、四方唐破風御輿が挙げられる。南紀男山三彩狛犬は江戸時代の南紀男山焼で、阿像は長さ57センチ、吽像は54センチ、高さはともに81センチ、黄・緑・紫・白の四種の釉薬で彩色されている。

無形の分野では、秋祭りに奉納される田楽が昭和48年(1973年)に国の記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財となり、乙田の獅子舞が昭和46年(1971年)に和歌山県の無形民俗文化財に指定されている。

年中行事

広八幡神社では年間40近い神事が営まれる。最大のものは10月1日の秋祭りで、「広祭り」とも呼ばれ、有田地方でその年最初の秋祭りにあたる。前日9月30日の宵宮から始まり、当日は正午に拝殿と本殿で神事式が行われ、くじで決まった本神輿に御神体が納められる。

続いて舞殿で上中野の田楽が舞われる。「しっぱら踊り」とも呼ばれ、袖振2名、ささらを持つ中踊り6名、太鼓たたき2名にオニ1名、ワニ1名、獅子2名を加えた14名で奉納される。苗代づくりから稲刈りまでの農作業を踊りに写した構成で、獅子が暴風雨と害獣を表し、オニに鎮められて千秋楽に至る。田楽が中盤に入るころ、舞殿の北側にある乙田天神社の正面で山本の乙田の獅子舞が始まる。打込舞・中舞・高舞の三段で東海道の道中を写すとされ、高舞で獅子が高く伸び上がる。

その後、各地区の神輿と屋台が浜の宮の御旅所へ渡御する。楼門下では的を扇子で三度たたく「マトウケ」の所作があり、馬駈けをしていた時代の名残と伝えられる。

このほか1月1日の歳旦祭、1月15日のどんと祭、1月25日の初天神、2月3日の節分祭、4月25日の春祭り、7月14日の夏祭り宵宮と燈華祭、7月15日の夏祭り、7月31日の名越祭、11月23日の新穀感謝祭が営まれる。10月の第3土曜には「稲むらの火祭り」がある。毎月1日と15日に月並祭、25日に天神社の月並祭が行われる。

参拝とアクセス

広八幡神社の境内は参拝者に開かれており、公式サイトに拝観料や拝観時間の案内はない。ただし各社殿の内部は非公開で、本殿と3棟の摂社は神門と瑞垣の内側にあるため、参拝は瑞垣の外からとなる。御祈祷を希望する場合は社務所の受付があるが、時間の掲示がないので電話(0737-63-5731または0737-62-2371)で事前に相談するのが確実である。撮影を禁じる案内は公式サイトには見当たらないが、祈祷中や祭礼の進行中は妨げにならないよう配慮したい。

鉄道ではJR紀勢本線の湯浅駅が最寄りで、徒歩およそ20分、タクシーなら約5分である。車の場合は阪和自動車道の広川インターチェンジから約5分、有田インターチェンジから約10分。駐車場は2か所あり、第一駐車場は楼門から北へ80メートルの位置でバスと乗用車の兼用、約40台を収容する。第二駐車場は楼門から南へ70メートルで約15台分。

境内は小山を背にした斜面にあり、楼門まで参道の階段、楼門から拝殿へさらに階段が続く。足元に配慮した靴で訪れるとよい。社殿は昭和53年(1978年)以来の修復「平成のご造営」を経ており、本殿・天神社・楼門などは朱の塗りが新しい状態で見られる。

参考文献

国指定文化財等データベース 広八幡神社本殿(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/2899
国指定文化財等データベース 広八幡神社拝殿(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/2903
国指定文化財等データベース 広八幡神社楼門(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/2904
日本遺産ポータルサイト 広八幡神社(文化庁)
https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/culturalproperties/result/3911/
廣八幡神社 御由緒
https://hirohachimanjinja.or.jp/%e5%be%a1%e7%94%b1%e7%b7%92
廣八幡神社 廣八幡宮みどころ紹介
https://hirohachimanjinja.or.jp/%e5%bb%a3%e5%85%ab%e5%b9%a1%e7%a5%9e%e7%a4%be%e3%81%bf%e3%81%a9%e3%81%93%e3%82%8d%e7%b4%b9%e4%bb%8b
廣八幡神社 指定文化財
https://hirohachimanjinja.or.jp/%e6%8c%87%e5%ae%9a%e6%96%87%e5%8c%96%e8%b2%a1
廣八幡神社 アクセス
https://hirohachimanjinja.or.jp/%e3%82%a2%e3%82%af%e3%82%bb%e3%82%b9
Hiro-Hachiman-Gu Shrine(廣八幡神社 英語ページ)
https://hirohachimanjinja.or.jp/english

最終更新日: 2026.09.14

基本情報

名称広八幡神社
所在地和歌山県有田郡広川町大字上中野
所有者廣八幡宮
指定重要文化財 6件
座標34.01775, 135.17521