和佐の大庄屋・中筋家の2つの屋敷
中筋家住宅は、和歌山県和歌山市禰宜の和佐地区に残る中筋家の屋敷群で、嘉永5年(1852年)の主屋を中心とする本家の屋敷「旧中筋家住宅」の6棟が昭和49年(1974年)2月5日に国の重要文化財に指定され、分家の屋敷の5棟が平成10年(1998年)12月11日に国の登録有形文化財に登録されている。読みは「なかすじけじゅうたく」である。
2つの屋敷は同じ禰宜の集落にあり、本家から分家までは南へ300メートル足らずしか離れていない。名前がよく似ているため混同されやすいが、本家は「旧」を冠した旧中筋家住宅、分家は旧を付けない中筋家住宅として、文化庁のデータベースでも別々に扱われている。本家は和歌山市が管理して一般公開しており、分家は個人の住まいとして使われている。
和歌山市の資料によると、中筋家は天正13年(1585年)の羽柴秀吉による根来攻めを逃れてこの地に移った文貞坊に始まるとされる。貞享4年(1687年)に4代良政が禰宜村の庄屋となり、寛延3年(1750年)に5代良重が和佐組の大庄屋に就いてから、明治初年まで6代にわたってその役を務めた。大庄屋は、村ごとの庄屋の上に立ち、「組」と呼ばれる複数の村のまとまりを取りしきった役である。分家が本家から分かれたのは安政年間(1854〜1860年)で、本家がまだ大庄屋の職にあった時期にあたる。
和佐地区は市域の東部、紀ノ川の南岸に広がる。東に標高237メートルの高積山がそびえ、北を紀ノ川が流れる穀倉地帯で、熊野三山へ向かう熊野古道も地区を南北に通っている。本家の屋敷は、その熊野古道に敷地の東側を面して構えている。
本家の屋敷:旧中筋家住宅
旧中筋家住宅は、熊野古道沿いの広い敷地に、南の表門(長屋門)、その奥の主屋、西側に並ぶ蔵、北側の御成門を配した大庄屋の屋敷である。和歌山県教育庁の解説によれば、主屋は鬼瓦の銘から嘉永5年(1852年)の建築と分かり、20畳の大広間を備え、一部を3階建とする珍しい形式をとる。主屋を建てたのは8代良秘で、屋敷構えが今の形に整ったのは10代良恭のときとされる。
主屋・表門・長屋蔵・北蔵・内蔵・御成門の6棟が重要文化財で、県の解説は、江戸時代末期から明治初期にかけての屋敷構えがよく残り、豪農の権威と財力を示す資料として歴史的な価値が高いと評価する。戦後は個人の所有のもとで維持され、和歌山市が管理団体となって平成12年(2000年)から約10年をかけて保存修理を行い、平成22年(2010年)8月から一般に公開されている。
分家の屋敷:中筋家住宅
分家の屋敷は、和佐地区から海南市の方へ向かう県道と、そこから西へ入る道とが交わる角にある。文化庁の解説をもとに配置をたどると、県道に面した東側に長屋門が建ち、その北に屋根を一段下げた附属の貯蔵庫、さらに北に便益棟が続く。西へ入る道の側、つまり屋敷の北辺には、東寄りに離れ座敷及び東蔵、その西隣に西蔵が並ぶ。主屋は長屋門をくぐった奥、敷地の中ほどに位置する。
外周の建物は外観をそろえてある。東辺では長屋門と貯蔵庫が同じ壁の仕上げで一続きになり、便益棟もその意匠に合わせたうえで、屋根を貯蔵庫よりわずかに低くしている。北辺では、西蔵の腰板張りの外観が離れ座敷及び東蔵と一連のものとして扱われている。
規模は主屋が建築面積205平方メートルで抜きん出ており、離れ座敷及び東蔵62平方メートル、長屋門50平方メートル、西蔵30平方メートル、便益棟11平方メートルと続く。5棟とも木造平屋建の瓦葺である。建築年代は、主屋と便益棟が明治20年(1887年)、長屋門がその頃、離れ座敷及び東蔵と西蔵が大正時代(1912〜1926年)とされる。県の解説はこれらを明治中期から大正にかけて改築または新築されたものとしており、分家からおよそ30年を経た明治中期に屋敷の骨格が整い、大正期に北辺の建物が加わったと読める。
指定と登録、それぞれの評価
本家の旧中筋家住宅は、昭和49年(1974年)2月5日に6棟が重要文化財に指定された。文化財保護法の指定制度によるもので、屋敷の全体が江戸時代末期の大庄屋の暮らしを示す資料として評価されている。
分家の5棟は、平成10年(1998年)12月11日に登録有形文化財として登録され、同じ月の25日に官報で告示された。登録番号は主屋の30-0021から便益棟の30-0025まで連番で、和歌山市の文化財一覧を見ると、市内の登録有形文化財(建造物)では井上家住宅、御前家住宅に続く3件目にあたる。登録基準は、主屋が「再現することが容易でないもの」、残る4棟が「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。県の解説は、屋敷構えがそのまま残り、今日まできわめて良好に維持管理されており、和佐地区の落ち着いた農村集落の景観に大きく寄与していると述べる。
本家は幕末の大庄屋の格式を示す屋敷として、分家は明治・大正に整えられた農家の屋敷構えとして、別々の制度で評価されている。同じ家から出た2つの屋敷を歩いて比べられる点が、この地区の見どころである。
見学とアクセス
本家の旧中筋家住宅は、3月から11月までの土曜日・日曜日・祝日に公開されている。時間は午前9時から午後4時30分までで、入場は午後4時までである。観覧料は一般100円、高校生以下は無料、20人以上の団体は1人80円となる。公開期間外や平日でも、5人以上の団体であれば1か月前までの申請で見学できる。身体障害者手帳などを持つ人と介護者は観覧料が無料で、車椅子の場合は庭や土間から建物を見学できる。一部に立ち入りや観覧を制限している場所があるので、係員の案内に従いたい(いずれも2026年9月26日確認)。
分家の中筋家住宅は個人が所有する住宅で、5棟とも内部は公開されておらず、敷地への立ち入りもできない。和歌山県と和歌山市の文化財情報のいずれにも、公開日や見学受け付けの案内は見当たらなかった。外から見やすいのは、東の県道に面した長屋門・貯蔵庫・便益棟の並びと、北の道に面した離れ座敷及び東蔵・西蔵の並びである。主屋は長屋門の内側に建つため、道からはほとんど見えないと考えておいたほうがよい。住まいであることを考え、門の内側や窓へレンズを向けるのは控えたい。県道沿いでは車の往来にも気をつけたい。
鉄道ではJR和歌山線の千旦駅が最寄りで、和歌山市の案内によると、千旦駅から旧中筋家住宅までは歩いて約20分である。布施屋駅から熊野古道に沿って歩く道筋もあり、こちらは約30分とされる。分家の中筋家住宅は、旧中筋家住宅からさらに南へ300メートル足らずの位置にある。車の場合は、旧中筋家住宅から南へ約300メートルの場所に無料の駐車場があり、乗用車10台と観光バス2台が停められる。公開日に本家を見学し、そのまま南へ歩いて分家の外観を見る順路をとると、2つの屋敷を無理なく比べられる。
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁) 中筋家住宅主屋
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00001000
- 国指定文化財等データベース(文化庁) 中筋家住宅離れ座敷及び東蔵
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00001001
- 国指定文化財等データベース(文化庁) 中筋家住宅西蔵
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00001002
- 国指定文化財等データベース(文化庁) 中筋家住宅長屋門
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00001003
- 国指定文化財等データベース(文化庁) 中筋家住宅便益棟
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00001004
- 文化遺産オンライン 中筋家住宅主屋
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/185730
- 和歌山県教育庁「わかやまの文化財」 旧中筋家住宅
- https://wakayama-bunkazai.jp/bunkazai/bunkazai-spot-374/
- 和歌山県教育庁「わかやまの文化財」 中筋家住宅
- https://wakayama-bunkazai.jp/bunkazai/bunkazai-spot-375/
- 和歌山県教育委員会 国登録有形文化財一覧
- https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/500700/mokuroku/d00155458.html
- 和歌山市の文化財 和歌山市内の指定文化財一覧
- https://wakayamacity-bunkazai.jp/bunkazai_list/
- 和歌山市の文化財 旧中筋家住宅
- https://wakayamacity-bunkazai.jp/nakasujike/
- 和歌山市の文化財 中筋家の歴史
- https://wakayamacity-bunkazai.jp/nakasujike/rekishi/
- 和歌山市 施設案内 国指定重要文化財 旧中筋家住宅
- https://www.city.wakayama.wakayama.jp/shisetsu/bunkashisetsu/1010298.html
最終更新日: 2026.09.26
基本情報
| 名称 | 中筋家住宅 |
|---|---|
| 所在地 | 和歌山県和歌山市禰宜 |
| 所有者 | 個人 |
| 指定 | 重要文化財 1件・登録有形文化財 5件 |
| 座標 | 34.23166, 135.24995 |