山本家住宅隠居所
ここでまず目を引くのは色である。開口部の上の小壁や三角の妻壁が、白でも灰でもなく、鮮やかな赤土塗で仕上げられる。暗い木部と淡い瓦に映える温かな赤土で、意匠の控えめな平屋にあって、この赤は明らかな見せ場となっている。
和歌山県海南市阪井、棕櫚・薬種商「山本勝之助商店」を営んだ山本家の隠居所である。隠居所は、家督と表の住まいを次代に譲って当主が退いたのちに移り住む別棟の住居をいう。本建物は昭和12年(1937)の建築で、内蔵の北、小路を隔てた別敷地に建つ。
丁寧に造られた平屋
桁行5間、梁行4間半の木造平屋建で、入母屋造桟瓦葺。南正面には切妻屋根の玄関がつき出し、瓦葺の庇を四周に巡らして雨を壁から離して落とす。正面は出桁造とし、梁の出を利用して桁を前へ送り出し、深く陰のある軒をつくる。
内部は矩折れの中廊下が平面を折れ進み、座敷8畳を含む4室をつなぐ。規模は住居のもので、間取りはゆったりとし、商いの喧騒よりも、それを楽しむゆとりをもつ者の家である。小路を隔てた別敷地に独立して建ち、すぐ裏を野上電鉄の線路跡(今は遊歩道)が通る。にぎやかな主屋まわりにはない、空気と静けさがあった。
登録の理由と価値
隠居所は平成19年(2007)10月2日に登録有形文化財(建造物)となった(登録番号30-0126)。平成8年に始まった登録制度は、重要文化財の指定より緩やかな保護で、許可制ではなく届出と指導・助言を基本とし、記録されぬまま失われかねない近代建造物を広く守るためのものである。本建物は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」の基準を満たす。
価値の一つは、敷地のなかで住居としての対をなす点にある。主屋や蔵が商いと見せを語るのに対し、隠居所は同じ敷地のより静かな暮らしを示す。創業者の晩年にあたる昭和12年の建築である。赤土塗は一群のなかでこの建物に独自の性格を与え、昭和10年代の住居が敷地のなかにそのまま残ることで、家族の暮らしぶりの像を補っている。
見どころ
まず赤土塗を拾いたい。鴨居上の小壁と妻壁に現れる。続いて南正面の切妻の玄関と、出桁造による前へ深く張り出した軒。さらに、この家が小路を隔てた自前の敷地を守り、働く建物群から少し離れて建ち、裏手には旧線路の緑の帯が続くことにも気づく。
ここは営業中の商家の敷地に建つ私的な住居であって、見学施設ではない。外観は小路から眺められるが、内部は常時公開されていない。広い街並みの一部として味わい、ゆっくり過ごす場所は近くの亀池公園などの公共空間に求めるのがよい。
Q&A
- 隠居所とは何ですか。
- 当主が家業と表の住まいを次代に譲って退いたのち、移り住むための別棟の住居です。山本家ではこの平屋がそれにあたります。
- なぜ壁が赤いのですか。
- 小壁や妻壁を赤土塗で仕上げているためで、温かな赤土を意匠の見せ場として用いています。白漆喰の蔵や黒漆喰の主屋とは異なる性格を与えています。
- いつ建てられたのですか。
- 昭和12年(1937)です。内蔵の北、小路を隔てた別敷地に建てられました。
- 中を見学できますか。
- できません。営業中の商家の敷地に建つ私的な住居で、公開施設ではありません。外観は小路から眺められますが、内部は常時公開されていません。
基本情報
| 名称 | 山本家住宅隠居所(やまもとけじゅうたくいんきょじょ) |
|---|---|
| 所在地 | 和歌山県海南市阪井679他 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 登録年月日 | 平成19年(2007)10月2日登録、同月22日告示/登録番号30-0126 |
| 員数 | 1棟 |
| 年代 | 昭和12年(1937) |
| 構造及び形式 | 木造平屋建、瓦葺、建築面積128㎡ |
| 所有・用途 | 山本家(営業中の商家敷地内の私的住居) |
| 交通 | JR海南駅からオレンジバス約10分「亀池公園」下車、または海南東ICから国道370号を車で約5分 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)/山本家住宅隠居所
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00006394
- 山本勝之助商店 公式サイト(沿革・屋号「かねいち」)
- https://yamamotokatsunosuke.com/about.html
- 一般社団法人 和歌山県建築士会 遺産めぐり「山本勝之助商店」
- https://www.wakayama-aba.jp/isan_meguri/山本勝之助商店
最終更新日: 2026.06.22