鶴岡一の豪商が客を迎えた別邸
風間家旧別邸無量光苑は、山形県鶴岡市泉町にある豪商風間家の別邸で、明治43年(1910年)に建てられた釈迦堂を中心に、表門・中門・北門・板塀・土蔵の計6件の建造物が国の登録有形文化財に登録されている。釈迦堂は平成14年(2002年)2月14日、残る5件は平成15年(2003年)7月1日の登録である。
風間家の祖は越後国の武士で、商人に転じて村上、酒田を経て18世紀後半に鶴岡へ移ったと伝わる。安永8年(1779年)に初代が幸右衛門を襲名し、酒田の本家から「金屋」の屋号を受けて分家した。鶴岡城下で呉服・太物を商う庄内藩の御用商人となり、幕末には鶴岡第一の豪商と呼ばれるまでになった。
明治に入ると家業を貸金業に移し、庄内地方では酒田の本間家に次ぐ大地主に成長する。貸金業はのちに風間銀行となり、昭和16年(1941年)に他の3行と合併して荘内銀行が生まれた。明治29年(1896年)に七代幸右衛門が住まいと営業の拠点として建てたのが、南側の本宅「丙申堂」である。
無量光苑はその丙申堂の北およそ50メートルにあり、家族が暮らす場所ではなく、来賓の接待に使う迎えの屋敷として営まれた。敷地は820坪(約2,700平方メートル)あり、その多くを庭園が占める。
「無量光苑釈迦堂」という名の由来
別邸には建てられた当初から「無量光」の額が掛かっていた。筆者は黄檗宗の三筆の一人に数えられる木庵で、阿弥陀仏の限りない光を表す語である。風間家は代々浄土真宗への信仰が厚く、この額にちなんで八代目の当主が建物と庭を合わせて「無量光苑」と名付けた。
その後、九代目の当主が東京帝国大学の印度哲学の研究者から贈られた石仏の釈迦像を座敷の床に安置し、建物と庭を含めて「無量光苑釈迦堂」と呼ぶようになった。現在、文化財としての名称は建物ごとに「風間家旧別邸無量光苑」を冠しており、主屋にあたる建物が「釈迦堂」の名で登録されている。
名前だけを聞くと寺院の仏堂のように思えるが、釈迦堂は住宅として建てられた数寄屋造風の座敷である。文化庁のデータベースでも種別は「住宅」に分類されている。
6件の建物と屋敷の配置
6件の登録番号は、釈迦堂が06-0042、土蔵・表門・中門・北門・板塀が06-0053から06-0057まで続く。登録の基準は、釈迦堂・土蔵・北門の3件が「造形の規範となっているもの」、表門・中門・板塀の3件が「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。
敷地の南面の東端に薬医門形式の表門が開き、釈迦堂は敷地の中ほどに建つ。釈迦堂の玄関は西を向き、その脇に内苑を仕切る中門がある。東と北には広縁と土庇がめぐり、座敷から庭を見渡せる。敷地の西面は延長62メートルの板塀が通りに沿って区切り、北西の隅には北辺の外堀から少し奥まって北門が立つ。南東の隅に建つ土蔵は、道路を隔てた本宅から移されてきたものである。
建物の年代には幅がある。釈迦堂は明治43年の建築で、表門・中門・板塀もその頃のものとされる。北門は明治初期と、別邸より古い時期に位置づけられている。土蔵は明治30年(1897年)頃に本宅の内蔵として建てられ、昭和30年(1955年)に現在地へ移築された。板塀も昭和29年(1954年)に移されている。
門が3つあるのは、それぞれの役割が違うためである。通りに面して格式を示す表門、茶室脇で露地門の性格を帯びた中門、屋敷の裏手を固める北門と、3つを見比べると別邸の表と奥の使い分けが読み取れる。
庭園と季節の見どころ
無量光苑の庭は、座敷に座って眺めることを前提に木々が配されている。運営する公益財団法人克念社は、樹齢200年を超える桜があると紹介しており、ソメイヨシノ、山桜、枝垂桜が春の庭を彩る。5月にはツツジが咲きそろい、山形県観光物産協会は白いツツジが一斉に開く5月中旬をもっとも華やかな時期として案内している。
秋はモミジとハギが色づき、庭のシンボルの一つとされる花梨が実をつける。数十種の草花が季節ごとに入れ替わるので、同じ座敷でも訪ねる月によって見える景色が大きく変わる。
釈迦堂の広縁に腰を下ろすと、深い土庇が視界の上端を切り、庭が横長の画面のように収まる。接待の場として客人に見せるために整えられた眺めであり、建物と庭を一体で味わうのがこの別邸の楽しみ方である。
見学とアクセス
風間家旧別邸無量光苑は、本宅の丙申堂と共通の入館券で見学できる。公式サイトによる開館期間は4月15日から11月30日まで、開館時間は午前9時30分から午後4時30分(最終入館は午後4時)である。入館料は大人500円で、中学生以下は無料。休館日は7月13日(お盆のため)で、2026年は館内行事のため7月4日も休館とされた。冬期の12月から4月中旬までは閉館する。
入館料の表示は案内媒体によって異なり、山形県の観光サイトには大人400円・小中学生200円という古い金額が残っている。公式サイトの英語版には子ども200円と書かれている。訪問前に公式サイトの日本語版で最新の金額を確かめたい。支払いには交通系ICカードやQRコード決済も使える。
JR羽越本線の鶴岡駅からは、湯野浜温泉方面行きのバスで約10分の「市役所前」で降り、歩いて約5分。車なら山形自動車道の鶴岡インターチェンジから約10分、日本海東北自動車道の鶴岡西インターチェンジから約15分である。駐車場は丙申堂の西側、鶴岡第2合同庁舎前にある。
丙申堂は無量光苑の南、道路を隔てた向かいにあり、歩いて1〜2分で行き来できる。共通券なので、本宅と別邸を続けて見ると、同じ家が住まいと接待の場をどう分けたかがよく分かる。問い合わせは無量光苑釈迦堂(0235-22-1112)へ。
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)— 風間家旧別邸無量光苑釈迦堂
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00002602
- 国指定文化財等データベース(文化庁)— 風間家旧別邸無量光苑土蔵
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003347
- 国指定文化財等データベース(文化庁)— 風間家旧別邸無量光苑表門
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003348
- 国指定文化財等データベース(文化庁)— 風間家旧別邸無量光苑中門
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003349
- 国指定文化財等データベース(文化庁)— 風間家旧別邸無量光苑北門
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003350
- 国指定文化財等データベース(文化庁)— 風間家旧別邸無量光苑板塀
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003351
- 文化遺産オンライン — 風間家旧別邸無量光苑釈迦堂
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/167912
- 鶴岡市教育委員会 — 指定文化財目録(登録有形文化財)
- https://www.city.tsuruoka.lg.jp/bunka/rekishi/shitei-bunka-ichiran.files/15_registeredtangibleculturalproperties.pdf
- 丙申堂(公益財団法人克念社)— 風間家旧別邸 無量光苑 釈迦堂
- https://heishindo.jp/shakado/
- 丙申堂(公益財団法人克念社)— 風間家の歴史
- https://heishindo.jp/history/
- 丙申堂(公益財団法人克念社)— ご案内
- https://heishindo.jp/guide/
- 丙申堂(公益財団法人克念社)— 年間行事
- https://heishindo.jp/schedule/
- やまがたへの旅(山形県観光物産協会)— 風間家旧別邸「無量光苑 釈迦堂」
- https://yamagatakanko.com/attractions/detail_1890.html
- つるおか観光ナビ — 旧風間家住宅「丙申堂」
- https://www.tsuruokakanko.com/spot/386
最終更新日: 2026.09.25
基本情報
| 名称 | 風間家旧別邸無量光苑 |
|---|---|
| 所在地 | 山形県鶴岡市泉町6-20 |
| 所有者 | 公益財団法人克念社 |
| 指定 | 登録有形文化財 6件 |
| 座標 | 38.72953, 139.82939 |