焼け残った土蔵を抱き込んで建てられた料亭

相馬屋主屋は、山形県酒田市日吉町にある明治28年(1895年)頃の料亭建築で、平成8年(1996年)12月20日に国の登録有形文化財に登録された。木造2階建、瓦葺、建築面積483平方メートル。現在は観光施設「相馬樓(そうまろう)」として公開されている。

建築年代の「明治28年頃」には理由がある。その前年、明治27年(1894年)10月22日午後5時35分、庄内平野を震源とするマグニチュード7.0の内陸直下型地震が発生した。震源は現在の酒田市中心部の直下。山形県の記録では死者726人、住家全壊3,858戸、焼失2,148戸を数える。酒田市立資料館の調査によれば、酒田だけで1,747軒が焼けた。

江戸時代末期から料亭を営んでいた相馬屋も、この火災で主屋を失っている。焼け跡に残ったのは土蔵だった。厚い土壁で外気と炎を遮る土蔵造は、そもそも火災に耐えることを目的とした構法である。

相馬屋は更地にしなかった。残った土蔵を取り込む形で新しい主屋を建てた。この判断が、この建物の性格を決定づけている。

登録理由となった「特異な構成」

文化庁の解説が評価しているのは二点である。店・広間・土蔵を繋いだ複雑な構成が特異であること。そして各室の技能水準が高いこと。

前者は室内を歩けばすぐに理解できる。動線が町家の論理でも料亭の論理でも動かない。部屋と部屋が図面から起こしたのでは生じない角度で接し、床の高さが変わり、通路が不意に狭まる。狭まる位置に土蔵の壁がある。厚さ数十センチの土壁は動かせないから、動くのは人間の側になる。設計に先立って条件が存在した建物の姿である。

後者は細部の問題になる。座敷には床脇の棚、すなわちトコ棚が設けられた。違い棚の段差寸法や地板の見付は大工の力量が最も出る箇所で、文化庁の評価はここに「技能の水準も高い」という一句を当てている。北前船の寄港地として繁栄した酒田では、船主や商人を迎える料亭が座敷の格で競った。相馬屋はその競争の上位にいた。

登録有形文化財は、重要文化財の指定より緩やかな保護制度として平成8年に始まった。築後おおむね50年を経て、国土の歴史的景観に寄与するもの、造形の規範となっているもの、再現することが容易でないもののいずれかに該当する建造物が対象となる。相馬屋主屋は三番目の基準による登録で、登録番号は06-0003。山形県で最も早い時期の登録物件のひとつであり、制度発足直後の第1回登録に含まれている。

なお、観光系の資料には登録時期を「平成8年11月」とするものが複数ある。文化庁の国指定文化財等データベースは登録年月日を平成8年12月20日、告示を同年12月26日と記録しており、本稿は後者に従った。

舞娘坂を上って

石畳の舞娘坂を上ると、朱色の土塀が目に入る。門の屋根は瓦ではなく茅葺で、他の部分との材の落差が意図的に作られている。客が玄関に達する前に格を示す装置であり、料亭建築の外構としては直截な表現に属する。

玄関で靴を脱ぐ。座敷には赤い毛氈が敷かれ、襖には水墨が描かれる。引手が金物ではなく陶製である箇所があり、開口部の数だけ繰り返される小さな支出が室内の質を決めている。

2階の大広間が最も大きな室で、酒田舞娘の演舞場となっている。演目には、北前船で賑わった頃の湊町を唄った酒田甚句が含まれる。かつての厨房は稽古場に転用された。

明治28年の職人が主屋に取り込んだ土蔵は、いま展示室として使われている。京都から北前船で運ばれた雛人形が並ぶ蔵があり、樓主の蒐集による日本画や古美術を並べる蔵がある。北前船が米や干鰯とともに運んだのは工芸品と意匠であって、雛人形の北上はその航路の当然の帰結だった。

別室には竹久夢二美術館が置かれている。夢二(明治17年〜昭和9年)は酒田を複数回訪れた。館は平成20年(2008年)5月に相馬樓内へ開館し、夢二が撮影した写真、愛用のカメラ、紙作品などを展示する。

実務的な注意を二点。館内にエレベーターはなく、階段は急で段差も多い。車椅子・ベビーカーでの入館はできない。また入樓の際は靴下またはストッキングの着用が求められる。

Q&A

Q相馬屋主屋は内部を見学できますか。開館時間と休館日は?
A見学できます。観光施設「相馬樓」として午前10時から午後4時まで開館し、最終入樓は午後3時30分です。定休日は水曜日、盆期間、年末年始のほか不定休があります。不定休日は前月10日に公式サイトで告知されるため、訪問前に確認してください。入樓チケットで樓内と竹久夢二美術館を見学でき、舞娘の演舞観賞と舞娘御膳は別チケットとなります(御膳は要予約)。
Q相馬屋主屋へは酒田駅からどう行きますか。駐車場はありますか。
A酒田駅から庄内交通バスで約5分、寿町停留所で下車してすぐです。駐車場は15台分あります。周辺には山居倉庫、本間家旧本邸、日和山公園などが徒歩圏に集まっており、酒田市街の近代和風建築をまとめて見る行程が組みやすい立地です。
Q相馬屋主屋はバリアフリーに対応していますか。
A対応していません。運営者はこの点を明示しており、館内にエレベーターはなく、階段が急で段差も多いため、車椅子・ベビーカーは利用できません。階段には手摺が付いていますが、足の不自由な方や高齢の方には負担があります。明治28年に土蔵を避けながら組み上げられた平面が、そのまま床レベルの不均一として残っているためです。
Q「相馬屋主屋」と「相馬樓」は同じ建物ですか。
A同じ建物です。相馬屋主屋は文化財としての登録名称で、料亭「相馬屋」の主屋という意味になります。相馬樓は、相馬屋の廃業後に地元の株式会社平田牧場が取得し、平成12年(2000年)3月に観光施設として開いた際の施設名です。酒田の料亭文化を建物ごと使い続けるための転用でした。
Q相馬屋主屋の館内は撮影できますか。
A館内撮影について一律の規定は公表されていないため、受付で確認してください。舞娘の演舞では終了後に記念撮影の時間が設けられており、茶房で飲み物を注文した場合にも舞娘との撮影ができます(舞娘の在館状況により対応できない日があります)。蔵の展示美術品については座敷とは扱いが異なる可能性があります。

基本情報

名称相馬屋主屋(そうまやしゅおく)/施設名「舞娘茶屋 相馬樓 竹久夢二美術館」
所在地山形県酒田市日吉町1-2-20
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 06-0003
指定年平成8年(1996年)12月20日登録、同年12月26日告示
員数1棟
寸法木造2階建、瓦葺、建築面積483平方メートル
所有者株式会社平田牧場
公開状況公開(午前10時〜午後4時、最終入樓午後3時30分)。水曜日・盆・年末年始・不定休は休館。入樓料あり。演舞観賞・舞娘御膳は別料金。バリアフリー非対応。

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「相馬屋主屋」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000020
文化遺産オンライン「相馬屋主屋」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/184750
相馬樓 公式サイト
https://www.somaro.net/
酒田市「舞娘屋相馬樓・竹久夢二美術館」
https://www.city.sakata.lg.jp/bunka/bunkazai/bunkazaishisetsu/soumarou.html
文化庁 日本遺産ポータルサイト「相馬屋主屋」
https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/culturalproperties/result/2657/
山形県「主な地震記録と被害概況」(PDF)
https://www.pref.yamagata.jp/documents/7735/zishinnhigairireki.pdf
酒田さんぽ(酒田観光物産協会)「舞娘茶屋 相馬樓 竹久夢二美術館」
https://sakata-kankou.com/spot/30132

最終更新日: 2026.08.11