平瀬浄水場旧片山隧道上口:大正時代の水道遺産を訪ねて

山梨県甲府市の山間に佇む平瀬浄水場旧片山隧道上口は、大正2年(1913年)に築造された石造の水路坑口です。日本で26番目に創設された甲府市の近代水道を支えた送水路の一部であり、100年以上にわたって甲府の水道の歴史を見守り続けてきました。平成10年(1998年)に国の登録有形文化財(建造物)に登録され、さらに令和2年(2020年)には日本遺産「甲州の匠の源流・御嶽昇仙峡」の構成文化財にも認定された、甲府市の近代化を物語る貴重な土木遺産です。

平瀬浄水場の歴史

平瀬浄水場は、標高2,592メートルの国師ヶ岳の山中から流れ出る荒川の水を取水するために、明治42年(1909年)に建設が始まりました。大正2年(1913年)1月に全国で26番目の上水道として給水を開始し、以来、甲府市内(南部を除く)と甲斐市の一部(旧敷島町)の広い範囲に水を届けてきました。山梨県内で最も大きな浄水場であり、一日最大126,400立方メートルの浄水能力を有しています。

片山隧道は、浄水場からの送水路の一部として、山を貫いて水を市街地へ運ぶ重要な役割を果たしていました。その上手口(上流側の入口)が本記事の対象である旧片山隧道上口であり、平瀬町に所在しています。対をなす下手口(下流側の出口)は同市羽黒町梨の木に位置し、こちらも登録有形文化財に指定されています。

文化財としての価値

平瀬浄水場旧片山隧道上口は、平成10年(1998年)10月9日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました(登録番号:19-0030)。石造の水路坑口で、幅4.6メートル、高さ3.4メートルの規模を持ち、開口部には鉄扉が取り付けられています。同市羽黒町梨の木に所在する隧道の下口と同じ形式ですが、上口の方が一回り小さいのが特徴です。

甲府市の水道の歴史を知るうえで欠かせない施設であり、山梨県近代化遺産(建造物等)総合調査の対象としても位置づけられています。大正期の土木技術と石造建築の技巧を今に伝える貴重な遺構として、高く評価されています。

さらに、令和2年(2020年)6月には日本遺産「甲州の匠の源流・御嶽昇仙峡~水晶の鼓動が導いた信仰と技、そして先進技術へ~」の構成文化財に認定されました。昇仙峡の名水を浄水し市民に届けてきた施設群として、この地域の水と人との深い結びつきを物語っています。

見どころ・魅力

旧片山隧道上口の魅力は、飾り気のない堅実な石造りの美しさにあります。大正時代の土木技術者たちが、山の岩盤を穿ち、丁寧に石を組んで造り上げた坑口は、100年以上の歳月を経ても堂々とした佇まいを見せています。アーチ状の開口部と鉄扉の組み合わせは、機能美と歴史の重みを感じさせます。

平瀬浄水場には、本施設を含めて6件の登録有形文化財があり、それぞれが甲府の水道近代化の物語を伝えています。旧濾過池整水井は円形平面の美しい上屋を持ち、「尽不流々混」の題字が刻まれています。旧取水口門部には「決渠為雨」の銘板が掲げられ、第2隧道上口には「挙鍾為雲」の扁額があるなど、古典漢文の銘文が水と雲、雨の関係を詩的に表現しており、技術施設でありながら文化的な趣も感じられます。

また、旧事務所「水交庵」は昭和10年に建設された木造平屋建ての瀟洒な建物で、2連のアーチで構成された玄関ポーチが特徴的です。戦後には甲府駐留米軍の軍政官の宿舎として使用された歴史があり、山梨県出身の桑原福保画伯による壁画も残されています。現在は資料館として公開され、水道の歴史を学ぶことができます。

周辺情報

平瀬浄水場は、日本有数の渓谷美を誇る御嶽昇仙峡への入口に近い場所に位置しています。昇仙峡は秩父多摩甲斐国立公園内にある渓谷で、国の特別名勝に指定されており、「全国観光地百選・渓谷の部」第1位にも選ばれた日本を代表する景勝地です。長潭橋から仙娥滝まで約5キロメートルの遊歩道が整備されており、花崗岩の断崖や奇岩、落差30メートルの仙娥滝などを間近で楽しめます。紅葉の見頃は10月中旬から11月下旬です。

甲府駅南口バスターミナル4番乗降口から昇仙峡方面行きのバスが運行しており、天神森まで約30分(710円)、昇仙峡滝上まで約45分(1,090円)です。昇仙峡ロープウェイとのセット券「御嶽昇仙峡パス」も販売されています。

甲府市内では、甲府城跡(舞鶴城公園)の散策、山梨ジュエリーミュージアムの見学、湯村温泉郷での入浴なども楽しめます。地元グルメとしては、山梨の郷土料理であるほうとうや、甲州ワインがおすすめです。なお、平瀬浄水場の水を使ったボトルドウォーター「甲府の水」は、モンドセレクション最高金賞を受賞した高品質な水として知られています。

Q&A

Q平瀬浄水場旧片山隧道上口は見学できますか?
A平瀬浄水場では平日に事前予約制の施設見学を実施しています(所要時間約90分)。見学を希望される場合は、甲府市上下水道局(Tel: 055-228-3311)へ事前にお電話でお申し込みください。土日祝日および年末年始は見学を実施していません。
Q平瀬浄水場にはいくつの登録有形文化財がありますか?
A平瀬浄水場には合計6件の国登録有形文化財があります。旧濾過池整水井、平瀬水源旧事務所(水交庵)、旧片山隧道下口、旧取水口門部、第2隧道上口、そして本記事で紹介している旧片山隧道上口です。いずれも令和2年に日本遺産の構成文化財に認定されています。
Q最寄り駅からのアクセス方法を教えてください。
AJR中央本線の甲府駅が最寄り駅です。甲府駅から平瀬浄水場までは北西へ約8.5キロメートルの距離があります。甲府駅南口バスターミナル4番乗降口から昇仙峡方面行きのバスを利用するか、タクシーでのアクセスが便利です。東京・新宿駅からは中央本線の特急で約90分で甲府駅に到着します。
Q周辺で合わせて訪れたい観光スポットはありますか?
A国の特別名勝・御嶽昇仙峡が最大の見どころです。甲府駅からバスで約30~45分でアクセスでき、約5キロメートルの遊歩道で渓谷美を満喫できます。そのほか、甲府城跡(舞鶴城公園)、山梨ジュエリーミュージアム、湯村温泉郷なども人気です。

基本情報

名称 平瀬浄水場旧片山隧道上口(ひらせじょうすいじょうきゅうかたやまずいどうかみぐち)
文化財区分 登録有形文化財(建造物)
登録番号 19-0030
登録日 平成10年(1998年)10月9日
時代 大正(1913年築造)
構造・形式 石造水路坑口 幅4.6m 高さ3.4m
員数 1基
所在地 山梨県甲府市平瀬町2903
所有者 甲府市水道事業管理者
日本遺産 「甲州の匠の源流・御嶽昇仙峡~水晶の鼓動が導いた信仰と技、そして先進技術へ~」構成文化財(令和2年6月認定)
アクセス JR甲府駅から北西約8.5km、甲府駅南口から昇仙峡方面行きバス利用
見学 平瀬浄水場の施設見学は平日のみ・事前予約制(甲府市上下水道局 Tel: 055-228-3311)

参考文献

平瀬浄水場旧片山隧道上口 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/180733
文化庁登録有形文化財 — 甲府市上下水道局
https://www.water.kofu.yamanashi.jp/general/bunka/20170224154705.html
平瀬浄水場 — 甲府市上下水道局
https://www.water.kofu.yamanashi.jp/general/facility/hires.html
平瀬浄水場 — 富士の国やまなしインフラガイド
https://www.yamanashi-infra.jp/infrastructure/648/
日本遺産「甲州の匠の源流・御嶽昇仙峡」構成文化財 — 甲府観光ナビ
https://kofu-tourism.com/feature/bunkazai/1
昇仙峡STORY — 日本遺産体験 周遊ツーリズム事業
https://shosenkyo-story.jp/
甲府市水道事業の概要 — 甲府市上下水道局
https://www.water.kofu.yamanashi.jp/general/jigyou/20191212135437.html
平瀬浄水場施設見学のご案内 — 甲府市上下水道局
https://www.water.kofu.yamanashi.jp/general/facility/20230315175546.html

最終更新日: 2026.03.02