荒川の水を甲府へ送った浄水場

平瀬浄水場は、山梨県甲府市平瀬町にある甲府市上下水道局の浄水場で、明治42年(1909年)に建設が始まり、大正2年(1913年)に給水を開始した。創設期の隧道坑口や整水井、昭和10年(1935年)の旧事務所など6件が、平成9年(1997年)から平成11年(1999年)にかけて国の登録有形文化財となっている。

浄水場は甲府駅から北西へ約8.5キロ、標高399メートルの山際にある。水源は国師ヶ岳(標高2,592メートル)の山中から流れ出る荒川で、甲府の水道はこの川の水を引いて大正2年1月に給水を始めた。上下水道局はこれを全国で26番目の上水道と位置づけている。江戸時代には甲府上水が木樋で城下に水を配っていたが、川の水を浄水してから鉄管で送る仕組みは、ここで初めて整った。

その後も浄水場は同じ場所で水をつくり続けた。昭和33年(1958年)に第2の水源として昭和浄水場が加わり、昭和61年(1986年)には上流に荒川ダムが完成した。いまの平瀬浄水場は自動制御の設備に更新され、1日126,400立方メートルの浄水能力を持つ県内最大の浄水場である。敷地は62,581平方メートルに及ぶ。

設備が入れ替わっても、水の通り道の要所に据えられた石の門や井戸の上屋は壊されずに残った。すでに使われていない取水ルートの門も含めて、創設時の姿をとどめているのはそのためである。

水の道筋に沿って並ぶ6件

登録された6件は、荒川から取り入れた水が浄水場を経て市街地へ向かう道筋の上に散らばっている。上流から順にたどると、次のようになる。

  • 第2隧道上口:取水口から浄水場へ水を導いた隧道の入口の門。平成11年(1999年)登録
  • 旧取水口門部:同じ導水路が浄水場の構内へ出てくる出口の石造ポータル。平成10年(1998年)登録
  • 旧濾過池整水井:濾過池の流量と濾過速度を調節した、円形平面の小さな上屋。平成9年(1997年)登録
  • 旧片山隧道上口:浄水を市街地へ送る片山隧道の、浄水場側の坑口。平成10年(1998年)登録
  • 旧片山隧道下口:同じ隧道の、市街地側の坑口。甲府市羽黒町にある。平成10年(1998年)登録
  • 平瀬水源旧事務所(水交庵):昭和10年(1935年)に建てられた浄水場の事務所。現在は水道資料館。平成9年(1997年)登録

旧取水口門部・旧濾過池整水井・水交庵の3件は、平瀬町437-3の浄水場構内にある。第2隧道上口と片山隧道の上口は構内の外の平瀬町内、片山隧道の下口は羽黒町字梨の木にあり、構内とは離れている。

2本の隧道は役割が逆向きである。第2隧道は川の水を浄水場へ引き込む導水路、片山隧道は浄水場でつくった水を市街地へ送り出す送水路にあたる。水を取り入れる側と送り出す側の両方が、坑口という同じ形で残っている。平瀬浄水場を一つの施設としてみるとき、6件はばらばらの記念物ではなく、一筋の水の流れの節目として並んでいる。

近代化遺産としての登録

6件の登録は、平成9年(1997年)7月の旧濾過池整水井に始まり、平成11年(1999年)8月の第2隧道上口まで、5回に分けて行われた。登録制度が平成8年(1996年)に始まった直後の時期にあたり、山梨県の登録番号でも旧濾過池整水井は19-0012と早い。上下水道局の一覧は6件すべての備考に山梨県近代化遺産(建造物等)総合調査を挙げている。

登録基準は揃っていない。旧取水口門部だけが「造形の規範となっているもの」として登録され、残る5件は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。石造ポータルとしての出来栄えが、単独で評価されたことになる。

令和2年(2020年)6月には、6件そろって日本遺産「甲州の匠の源流・御嶽昇仙峡」の構成文化財に認定された。浄水場の上流に続く昇仙峡の渓谷と、その水を都市へ届けた土木の仕事が、同じ枠組みの中で扱われている。

見学とアクセス

平瀬浄水場は稼働中の水道施設で、構内への自由な立ち入りはできない。上下水道局は小学校や自治会などの団体を対象に施設見学を受け付けている。実施日は土日祝日と年末年始を除く平日で、午前の部が午前9時30分から正午まで、午後の部が午後1時から午後4時まで。所要時間はおよそ1時間30分、受け入れは120名程度までとされる。

申し込みは、先に電話で日程を調整し、そのあと申込書をファクスで送る流れになる。窓口は甲府市上下水道局浄水課施設係(電話055-251-8111)で、受付は平日の午前9時から正午までと午後1時から午後5時まで。個人での見学については案内に記載がないため、希望する場合も同じ窓口に相談することになる。

見学範囲図によると、見学は浄水池を集合場所として、着水井から急速混和池、フロック形成池、薬品沈澱池、急速ろ過池へと浄水の工程を順にめぐる。取水口と沈砂池は範囲外である。令和5年(2023年)6月付の上下水道局の案内では、管理本館と水道資料館(水交庵)の内部は見学できないとされている。撮影の可否は公式の案内に記載がないので、申し込みの際に確かめておきたい。

車の場合、甲府駅から一般道で北西へ約8.5キロ。構外にある隧道坑口3件については、一般公開の案内が出ていない。

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁): 平瀬浄水場第2隧道上口
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00001254
国指定文化財等データベース(文化庁): 平瀬浄水場旧取水口門部
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000730
国指定文化財等データベース(文化庁): 平瀬浄水場旧濾過池整水井
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000238
国指定文化財等データベース(文化庁): 平瀬浄水場旧片山隧道上口
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000823
国指定文化財等データベース(文化庁): 平瀬浄水場旧片山隧道下口
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000762
国指定文化財等データベース(文化庁): 平瀬水源旧事務所(水交庵)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000407
甲府市上下水道局 ― 文化庁登録有形文化財
https://www.water.kofu.yamanashi.jp/general/bunka/20170224154705.html
甲府市上下水道局 ― 平瀬浄水場
https://www.water.kofu.yamanashi.jp/general/facility/hires.html
甲府市上下水道局 ― 甲府市水道事業の概要
https://www.water.kofu.yamanashi.jp/general/jigyou/20191212135437.html
甲府市上下水道局 ― 平瀬浄水場施設見学のご案内
https://www.water.kofu.yamanashi.jp/general/facility/20230315175546.html
甲府市上下水道局 ― 平瀬浄水場見学範囲図
https://www.water.kofu.yamanashi.jp/data/files/%E5%B9%B3%E7%80%AC%E6%B5%84%E6%B0%B4%E5%A0%B4%E6%96%BD%E8%A8%AD%E8%A6%8B%E5%AD%A6%E7%AF%84%E5%9B%B2%E5%9B%B3%28%E6%B1%BA%E8%A3%81%E5%BE%8C%EF%BC%89%20.pdf
甲府市上下水道局 ― 平瀬浄水場施設見学のお知らせ(令和5年6月)
https://www.water.kofu.yamanashi.jp/data/files/%E5%B9%B3%E7%80%AC%E6%B5%84%E6%B0%B4%E5%A0%B4%E6%96%BD%E8%A8%AD%E8%A6%8B%E5%AD%A6%E3%81%AE%E3%81%8A%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%9B%EF%BC%88R5.6%29.doc
甲府市 ― 水交庵(すいこうあん)
https://www.city.kofu.yamanashi.jp/senior/kamejii/047.html
山梨県 ― 市町村別 国・県指定文化財一覧
https://www.pref.yamanashi.jp/bunka/bunkazaihogo/bunkazaiguide_shichosonbetsu_bunkazailist.html

最終更新日: 2026.09.24

基本情報

名称平瀬浄水場
所在地山梨県甲府市平瀬町437-3
所有者甲府市水道事業管理者
指定登録有形文化財 6件
座標35.71194, 138.53503