導水路が浄水場に姿を現す石の門
平瀬浄水場旧取水口門部は、山梨県甲府市平瀬町の平瀬浄水場構内にある大正2年(1913年)築造の石造水路坑口で、平成10年(1998年)9月2日に国の登録有形文化財となった。荒川から原水を引いた取水路が、浄水場の側で地上に出る出口に築かれた門部である。
取水口を発した導水路は隧道を抜け、この門から浄水場の構内へ水を送り込んでいた。隧道の入口側には平瀬浄水場第2隧道上口が残っており、2つの門が1本の導水路の両端をなす。現在この取水ルートは使われておらず、門は水の通らない構造物として構内に残されている。
規模は幅14.4メートル、高さ11.0メートル。入口側の第2隧道上口(幅4.3メートル、高さ3.3メートル)や送水路の片山隧道の坑口と比べると、格段に大きい。文化庁のデータベースは平瀬浄水場旧取水口門部の員数を「1棟」とし、構造を石造水路坑口と記している。
登録の理由と価値
平瀬浄水場に関わる登録有形文化財6件のうち、平瀬浄水場旧取水口門部だけが登録基準の「造形の規範となっているもの」で登録されている。残る5件はいずれも「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。
文化庁の解説は、この門を水道近代化のシンボルとし、同時に浄水場の石造構造物の好例と位置づけている。取水設備としての役目はすでに終わっているにもかかわらず、造形の手本として評価されたことになる。問われたのは水を通す機能ではなく、石で組んだポータルそのものの出来だった。
登録は平成10年9月2日で、同じ日に送水路側の旧片山隧道下口も登録された。水を取り込む門と送り出す門が、同じ日に登録有形文化財となっている。
見どころ 開口部の上の銘板
開口部の上には四文字の銘板が据えられている。上下水道局の一覧はこれを「決渠為雨」、文化庁の解説は「沢渠為雨」と記しており、先頭の1字が両者で異なる。現地で確かめる機会があれば、どちらの字かを見比べたい。
「決渠為雨」であれば、中国の『漢書』溝洫志に載る灌漑の歌「挙臿為雲、決渠為雨」の後半にあたる。水路を切り開けば雨のように田を潤す、という意味である。導水路の入口にあたる第2隧道上口には前半を思わせる「挙鍾為雲」の扁額があり、1つの句を導水路の両端に分けて掲げたものとみられる。川の水を町へ引き入れる施設の出口に、雨の句を置いたことになる。
平瀬浄水場旧取水口門部を見るときは、高さ11.0メートルに及ぶ石造の構えの大きさと、その中央に開いた開口部との対比に注目したい。水の出口という実用の場所に、これだけの量感を持つ門を据えたところに、創設期の水道にかけた甲府の意気込みが表れている。
見学方法
平瀬浄水場旧取水口門部は稼働中の平瀬浄水場の構内にあり、自由には立ち入れない。構内に入れるのは、上下水道局が受け付ける団体向けの施設見学の場合に限られる。
見学範囲図は浄水工程をめぐる順路を示したもので、この門が順路から見えるかどうかは記されていない。見学を申し込む際に、旧取水口門部を見たいと伝えて確かめておくのが確実である。撮影の可否も公式の記載がないので、同じ機会に確認したい。
Q&A
- 平瀬浄水場旧取水口門部とは何ですか?
- 平瀬浄水場旧取水口門部は、荒川から原水を引いた導水路が平瀬浄水場の構内に出てくる出口に、大正2年(1913年)に築かれた石造の門です。幅14.4メートル、高さ11.0メートルで、平成10年(1998年)に国の登録有形文化財となりました。
- 平瀬浄水場旧取水口門部は見学できますか?
- 浄水場の構内にあるため自由には入れません。上下水道局の団体向け施設見学(平日・要予約)の際に、この門を見られるかを申し込み時に確認してください。
- 平瀬浄水場旧取水口門部の銘板には何と書かれていますか?
- 上下水道局の資料では「決渠為雨」、文化庁の解説では「沢渠為雨」と記されています。「決渠為雨」であれば、中国の『漢書』溝洫志の灌漑の歌の一節で、水路を切り開けば雨のように田を潤すという意味です。
- 平瀬浄水場旧取水口門部は今も使われていますか?
- この取水ルートは現在使われていません。役目を終えたあとも取り壊されず、水道近代化の象徴として構内に残されています。
- 平瀬浄水場旧取水口門部はなぜ「造形の規範」として登録されたのですか?
- 文化庁は、この門を浄水場の石造構造物の好例と評価しています。平瀬浄水場の登録文化財6件のうち、この基準で登録されたのは旧取水口門部だけです。
基本情報
| 名称 | 平瀬浄水場旧取水口門部 |
|---|---|
| 所在地 | 山梨県甲府市平瀬町437-3 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 指定年 | 平成10年(1998年)9月2日登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 石造水路坑口、幅14.4メートル、高さ11.0メートル |
| 所有者 | 甲府市水道事業管理者 |
| 公開状況 | 浄水場構内(団体向け施設見学のみ、平日・要予約) |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁): 平瀬浄水場旧取水口門部
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000730
- 国指定文化財等データベース(文化庁): 平瀬浄水場第2隧道上口
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00001254
- 甲府市上下水道局 ― 文化庁登録有形文化財
- https://www.water.kofu.yamanashi.jp/general/bunka/20170224154705.html
- 山梨県 ― 市町村別 国・県指定文化財一覧
- https://www.pref.yamanashi.jp/bunka/bunkazaihogo/bunkazaiguide_shichosonbetsu_bunkazailist.html
- 甲府市上下水道局 ― 平瀬浄水場施設見学のご案内
- https://www.water.kofu.yamanashi.jp/general/facility/20230315175546.html
- 甲府市上下水道局 ― 平瀬浄水場見学範囲図
- https://www.water.kofu.yamanashi.jp/data/files/%E5%B9%B3%E7%80%AC%E6%B5%84%E6%B0%B4%E5%A0%B4%E6%96%BD%E8%A8%AD%E8%A6%8B%E5%AD%A6%E7%AF%84%E5%9B%B2%E5%9B%B3%28%E6%B1%BA%E8%A3%81%E5%BE%8C%EF%BC%89%20.pdf
最終更新日: 2026.09.24