試作工場の西半分として残った一棟
愛知製鋼刈谷工場旧試作工場西棟(旧豊田自動織機製作所自動車部試作工場)は、愛知県刈谷市豊田町にある木造平屋建の工場で、平成30年(2018年)5月10日に登録有形文化財(建造物)に登録された。
もとは一棟の建物だった。昭和8年(1933年)9月、豊田喜一郎が株式会社豊田自動織機製作所の社内に自動車部を置き、翌昭和9年(1934年)3月、板金・組立工場、機械・仕上工場、倉庫、材料試験・研究室をまとめた試作工場が刈谷の敷地に完成する。昭和10年(1935年)5月にA1型試作乗用車の第1号車が組み上がったのは、その東半部にあたる場所だった。
戦後の昭和20年(1945年)から昭和23年(1948年)にかけて、建物は減築され、東西2棟に分割される。西半分が現在の旧試作工場西棟である。建築面積は758平方メートル、東棟は934平方メートル。文化庁の国指定文化財等データベースは、年代を「昭和9年/昭和20年代改修」と記録している。
自動車部は昭和12年(1937年)8月に分離独立してトヨタ自動車工業株式会社となり、同じ敷地で自動車用の鋼を扱っていた製鋼部はのちに独立して現在の愛知製鋼株式会社になった。西棟はその後も所有者を変えながら敷地に残り、修復を経て現在はトヨタ産業技術記念館の運営で公開されている。
「造り」が評価された建物
愛知製鋼刈谷工場旧試作工場西棟(旧豊田自動織機製作所自動車部試作工場)の登録は、登録基準のうち「再現することが容易でないもの」に該当するとして行われた。登録番号は23-516、第90回の登録である。東棟は23-515として同じ日に別件で登録された。この制度は届出を基本とし、建物を使いながら守っていくことを前提にしている。
文化庁の解説を読み比べると、東棟と西棟では評価の重心が違う。東棟はA1型試作乗用車が誕生した工場という出来事の側から書かれている。対して西棟について挙げられているのは、外壁を亜鉛鉄板で張ること、内部の独立柱にも亜鉛鉄板を巻くこと、方杖を用いて柱と小屋組を緊結し耐震性能を確保していること。つまり、造りそのものへの評価である。
刈谷市は、この建物を当時の日本における工場建築の典型と位置づけている。19世紀末から積み重ねられてきた木造大規模建築の耐震・耐火の工夫が、一棟のなかにまとまった形で見られる点を評価している。西棟はその見本にあたる。
関東大震災から10年あまり、鉄骨造がまだ高価だった時代に、木材で大きな工場を建てながら火と揺れにどう備えるか。旧試作工場西棟はその問いへの、昭和初期なりの答えである。
旧試作工場西棟の見どころ
愛知製鋼刈谷工場旧試作工場西棟の外壁は亜鉛鉄板張である。木造の建物でありながら、外皮を金属で覆っている。近隣からの延焼と、工場自身が出す火に備えた造りで、板張りや漆喰では代えられない部分である。表面の質感は、木造建築を見慣れた目には工業製品の顔をしている。
内部に入ると、独立柱にも亜鉛鉄板が巻いてある。柱は建物を支える部材であり、そこが焼け落ちれば屋根が落ちる。外壁だけでなく主要な軸組まで鉄板で守るという判断に、火をどれだけ警戒していたかが表れている。
柱と小屋組の取り合いには方杖が入る。柱から斜めに立ち上げて梁を支える部材で、直交する二材の角に三角形をつくることで、地震の横揺れに対して形が崩れにくくなる。木造で耐震性能を確保するために当時とられた手法のひとつである。
小屋組はキングポストトラス。中央に立てた束を頂点として斜材が左右に降り、屋根の荷重を柱へ流す。床の柱を減らして作業空間を広くとるために、木材だけで組まれた。屋根は金属板葺で、外から見ると装飾のない切妻の輪郭が東西に長く伸びている。
すぐ東に並ぶのが東棟である。もとは同じ一棟で、東棟の内部は中央の柱筋に独立柱が並ぶ一つの空間として造られている。見学では両棟を続けて見ることになるので、同じ建物の東西で何が共通し何が違うかを確かめられる。
旧試作工場西棟の見学方法とアクセス
愛知製鋼刈谷工場旧試作工場西棟は東棟とあわせて「トヨタ創業期試作工場」として一般公開されており、見学料は無料である。稼働中の工場の敷地内にあるため、見学はすべて事前申込制で、当日ふらりと訪ねて入れる施設ではない。見学はガイドの案内付きで所要時間は40分。1日4回(9時30分、11時00分、14時00分、15時30分)、1回あたり50人までとなっている。開館時間は9時30分から17時00分。
休館日は土曜・日曜・祝日と、年末年始、ゴールデンウィーク、夏季休業期間である。工場の稼働に合わせた休みなので、一般的な観光施設とは逆になる。申し込みは公式サイトの申込フォームか、ファクスで受け付けている。受付の対象は見学日の3営業日後から90日先までである。
アクセスは、JR東海道本線または名鉄三河線の刈谷駅から徒歩約15分。所在地は愛知県刈谷市豊田町3丁目6で、愛知製鋼株式会社の刈谷工場の敷地内にあたる。集合場所と駐車場は申し込み後に届く予約確認書で案内される。見学開始の10分前には集合場所に着いておきたい。
撮影の可否について、運営側の公式サイトに明記された案内は見当たらない。稼働中の工場敷地であることから、申し込みの際に確認するか、当日ガイドの指示に従うのが確実である。施設内に会議室や休憩室はなく、手洗いの数にも限りがある。敷地内は車両が行き交うため、案内に従って移動したい。なお現在この場所で自動車の生産は行われていない。
Q&A
- 愛知製鋼刈谷工場旧試作工場西棟(旧豊田自動織機製作所自動車部試作工場)は見学できますか。予約は必要ですか。
- 見学できます。東棟とあわせて「トヨタ創業期試作工場」の名で公開されており、見学はすべて事前申込制です。公式サイトの申込フォームかファクスで、見学日の3営業日後から90日先までの範囲で申し込みます。当日受付はありません。
- 旧試作工場西棟はなぜ登録有形文化財になったのですか。
- 登録基準の「再現することが容易でないもの」に該当するとされました。外壁を亜鉛鉄板で張り、内部の独立柱にも亜鉛鉄板を巻き、方杖で柱と小屋組を緊結して耐震性能を確保している点が、昭和初期の木造工場建築として評価されています。
- 旧試作工場西棟と東棟は何が違うのですか。
- もとは一棟の試作工場で、昭和20年(1945年)から昭和23年(1948年)の間に減築・分割されて2棟になりました。西棟は建築面積758平方メートルで耐火・耐震の造りが評価され、東棟は934平方メートルでA1型試作乗用車が誕生した工場として評価されています。
- 旧試作工場西棟へのアクセスと最寄り駅からの所要時間を教えてください。
- JR東海道本線または名鉄三河線の刈谷駅から徒歩約15分です。所在地は愛知県刈谷市豊田町3丁目6、愛知製鋼株式会社の刈谷工場の敷地内にあります。集合場所と駐車場は、申し込み後に届く予約確認書で案内されます。
- 旧試作工場西棟の休館日と、写真撮影の可否を教えてください。
- 休館日は土曜・日曜・祝日および年末年始、ゴールデンウィーク、夏季休業期間です。撮影については運営側の公式サイトに明記された案内が見当たらないため、申し込み時に確認するか、当日ガイドの指示に従ってください。
基本データ
| 名称 | 愛知製鋼刈谷工場旧試作工場西棟(旧豊田自動織機製作所自動車部試作工場) |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県刈谷市豊田町3丁目6 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号23-516 |
| 指定年 | 平成30年(2018年)登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造平屋建、金属板葺、建築面積758平方メートル |
| 所有者 | 愛知製鋼株式会社 |
| 公開状況 | 「トヨタ創業期試作工場」として事前申込制で公開(見学無料、所要40分、土日祝休館) |
参考文献
- 国指定文化財等データベース 愛知製鋼刈谷工場旧試作工場西棟(旧豊田自動織機製作所自動車部試作工場)/文化庁
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00012377
- 愛知製鋼刈谷工場旧試作工場西棟(旧豊田自動織機製作所自動車部試作工場)【国登録有形文化財(建造物)】/刈谷市
- https://www.city.kariya.lg.jp/kankobunka/rekishibunka/bunkazai_iseki/1006420/1013615/1013248.html
- 国指定文化財等データベース 愛知製鋼刈谷工場旧試作工場東棟(旧豊田自動織機製作所自動車部試作工場)/文化庁
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00012376
- トヨタ創業期試作工場について/トヨタ創業期試作工場
- https://k.tcmit.org/about/
- 施設案内/トヨタ創業期試作工場
- https://k.tcmit.org/information/
- アクセス/トヨタ創業期試作工場
- https://k.tcmit.org/access/
最終更新日: 2026.08.30