万徳寺多宝塔:室町時代の優美な姿を今に伝える重要文化財

愛知県稲沢市長野に佇む萬徳寺(まんとくじ)の多宝塔は、室町時代後期に建立された国指定重要文化財です。檜皮葺(ひわだぶき)の屋根をいただく優雅な二重塔は、和様建築の美しさを静かに伝え、尾張地方を代表する歴史的建造物として高い評価を受けています。

名古屋からわずか11分というアクセスの良さでありながら、大勢の観光客で混み合うことのない穴場スポットとして、日本の伝統建築を間近で鑑賞したい方にとって理想的な訪問先です。

萬徳寺の歴史

萬徳寺は真言宗豊山派に属する寺院で、山号を長沼山(ちょうしょうざん)と称します。寺伝によると、神護景雲2年(762年)に称徳天皇の勅願により慈賢上人が創建し、草堂に阿弥陀三尊を安置したことに始まります。

その後、鵜沼川の洪水により荒廃しましたが、承和元年(834年)に弘法大師空海がこの地に巡歴した際、真言の道場として再興したと伝えられています。空海は本堂の裏手に如意宝珠を埋納したとされ、奈良県の室生寺、山形県の恩徳寺とともに三か所に宝珠を納めたことが広く知られています。

天暦年中(947〜957年)の火災、永祚年間(989〜990年)の大嵐で再び荒廃しましたが、建長6年(1254年)に常円上人が再興し、中興開山となりました。亀山天皇の庇護を受けて多宝塔を建立し、大日如来を安置、梵鐘を鋳造、八幡社を勧請して鎮守としました。

江戸時代には醍醐寺報恩院末として尾張真言宗の大本山と称し、53か所の末寺を有するほどに繁栄しました。豊臣秀吉以来、寺領530石を有していたことからも、その隆盛ぶりがうかがえます。昭和44年(1969年)の火災で本堂を焼失しましたが、幸いにも多宝塔や鎮守堂などの重要文化財は無事でした。

多宝塔の建築的特徴

多宝塔とは、方形(四角形)の初層の上に円形の上層を重ね、宝形造の屋根を有する二層塔で、主に真言宗系の寺院に見られる仏塔形式です。法華経の見宝塔品に由来し、釈迦如来と多宝如来が並座する宝塔を表現しています。

下層の構造

下層は三間四方で、外側の側柱(がわばしら)は四隅の稜角を削った面取角柱を用い、柱上の組物には出組(でぐみ)を置きます。正面と背面の中央柱間にのみ簡素な桟唐戸(さんからど)を吊って戸口とし、側面は板壁で窓を設けない質素な造りとなっています。内部には中央やや後方に二本の円柱を立てて来迎柱(らいごうばしら)とし、その前に和様の仏壇を置いています。

上層の構造

上層は、下層屋根上に白漆喰の円形土壇状の亀腹(かめばら)と高欄(こうらん)を配し、円周上に12本の円柱を立てています。柱上には尾垂木(おだるき)を付けた四手先斗栱(よてさきときょう)を載せ、上層高欄腰組には禅宗様の平三斗(ひらみつど)を用いるなど、和様を基調としながらも禅宗様の要素を取り入れた意匠が見られます。上・下層ともに二軒繁垂木(ふたのきしげたるき)を平行に配しています。

屋根と相輪

屋根は宝形造で、檜皮葺(ひわだぶき)とされています。檜皮葺は日本固有の伝統的屋根葺技法で、2020年にユネスコ無形文化遺産にも登録された「伝統建築工匠の技」の一つです。頂には青銅製の相輪(そうりん)をあげ、仏塔としての格式を示しています。

重要文化財に指定された理由

万徳寺多宝塔は、明治34年(1901年)3月27日に国の重要文化財に指定されました。愛知県内でも最も早い時期に指定を受けた建造物の一つです。

その価値は、まず室町時代後期の多宝塔建築として良好な状態で現存していることにあります。建立年次を示す明確な史料は残されていませんが、建築様式や技法の分析から室町後期の建立と推定されています。

また、同じ稲沢市内にある性海寺多宝塔(同じく重要文化財)との比較研究において重要な位置を占めています。頭貫や木鼻、渦を用いない実肘木の絵様など多くの類似点があり、性海寺の塔を参考にして建てられたことを示唆しています。一方で、連子窓や腰長押がなく、蟇股(かえるまた)も設けないなど、性海寺の塔よりも簡素な構成となっており、この簡素さの中に独自の美を見出すことができます。

令和元年(2019年)10月から令和2年(2020年)6月にかけて国庫補助事業として保存修理が実施され、多宝塔と鎮守堂の修復が完了しました。これにより、今後も長くその優美な姿を伝えていくことが期待されています。

見どころ・魅力

多宝塔は萬徳寺の文化遺産の中心ですが、境内にはほかにも数多くの見どころがあります。

  • 鎮守堂(重要文化財):享禄3年(1530年)の棟札が残る一間社流造、檜皮葺の小社です。多宝塔と並ぶ国指定重要文化財で、コンパクトながらも端正な造りが印象的です。
  • 牡丹園:萬徳寺は「ぼたん寺」の通称で親しまれており、境内一円に約700本の各種牡丹が植栽されています。例年4月下旬に見頃を迎え、赤・白・黄色の順に花開く様子は圧巻です。
  • 山門:清洲城の通用門(馬がけ門)を移築したものと伝えられ、木材に残る矢じりの跡が戦国時代の歴史を物語っています。
  • 寺宝:鎌倉時代の仏画や典籍など、愛知県指定文化財を含む貴重な寺宝を所蔵しています。

周辺情報

稲沢市は国指定文化財が24件もある文化財の宝庫です。萬徳寺と合わせて周辺の名所を巡れば、充実した歴史散策が楽しめます。

  • 尾張大國霊神社(国府宮):萬徳寺から徒歩約15分。毎年旧暦1月13日に行われる「はだか祭」(儺追神事)で全国的に有名な古社です。楼門と拝殿が重要文化財に指定されています。
  • 性海寺・大塚性海寺歴史公園:萬徳寺から約2km南。萬徳寺多宝塔の手本となった多宝塔(重要文化財)を有する真言宗の古刹です。6月上旬〜中旬には約90種1万株のあじさいが咲き誇る「あじさいまつり」が開催されます。
  • 六角堂(長光寺):永正7年(1510年)建立の六角形の仏堂で重要文化財に指定。鉄造地蔵菩薩立像を安置する、全国でも珍しい建築形式です。
  • 稲沢市荻須記念美術館:稲沢市出身でパリを拠点に活躍した洋画家・荻須高徳の作品を展示する美術館です。

アクセス・拝観案内

萬徳寺はJR稲沢駅と名鉄国府宮駅の間に位置し、名古屋から気軽にアクセスできます。JR東海道線でJR名古屋駅からJR稲沢駅まで普通列車で約11分、稲沢駅からは徒歩約7分です。名鉄名古屋本線の国府宮駅からは徒歩約15分です。

境内は無料で拝観できます。牡丹の見頃を迎える4月下旬が特におすすめですが、多宝塔はどの季節に訪れても美しく、秋の紅葉も見事です。所要時間は約30〜45分が目安です。

Q&A

Q万徳寺多宝塔はいつ建てられましたか?
A建立年次を示す明確な史料は残されていませんが、建築様式や技法の分析から室町時代後期(15世紀後半〜16世紀後半頃)の建立と推定されています。明治34年(1901年)に国の重要文化財に指定されました。
Q拝観料はかかりますか?
A境内の拝観は無料です。多宝塔は外観からの鑑賞となり、内部は通常非公開です。
Qおすすめの訪問時期はいつですか?
A約700本の牡丹が咲き誇る4月下旬が特におすすめです。多宝塔と牡丹の共演は大変美しく、地元テレビでも取り上げられるほどです。秋の紅葉も風情があり、四季を通じて楽しめます。
Q名古屋からのアクセス方法を教えてください。
AJR東海道線で名古屋駅から稲沢駅まで普通列車で約11分。稲沢駅から徒歩約7分です。名鉄名古屋本線の場合は国府宮駅で下車し、徒歩約15分となります。
Q周辺にほかの文化財はありますか?
A稲沢市には国指定文化財が24件あります。徒歩圏内の尾張大國霊神社(国府宮)をはじめ、性海寺多宝塔や長光寺六角堂など、重要文化財建造物が点在しており、一日かけて巡る歴史散策コースとしても最適です。

基本情報

名称 多宝塔(萬徳寺)
指定区分 国指定重要文化財(建造物)
指定年月日 明治34年(1901年)3月27日
建立年代 室町時代後期(15世紀後半〜16世紀後半頃)
構造・形式 三間多宝塔、檜皮葺
宗派 真言宗豊山派
山号 長沼山
所有者 萬徳寺
所在地 愛知県稲沢市長野三丁目
アクセス JR稲沢駅から徒歩約7分/名鉄国府宮駅から徒歩約15分
拝観料 無料
直近の保存修理 令和元年10月〜令和2年6月(国庫補助事業)

参考文献

重要文化財 多宝塔(萬徳寺) – 稲沢市公式ウェブサイト
http://www.city.inazawa.aichi.jp/miryoku/bunka/konishitei/1002857.html
萬徳寺多宝塔 – 文化財ナビ愛知(愛知県教育委員会)
https://www.pref.aichi.jp/kyoiku/bunka/bunkazainavi/yukei/kenzoubutu/kunisitei/0002.html
萬徳寺 – 稲沢市観光協会公式ウェブサイト
https://www.inazawa-kankou.jp/archives/50
萬徳寺多宝塔 – 文化遺産オンライン(文化庁)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/155795
国指定文化財等データベース – 文化庁
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/1256
萬徳寺 (稲沢市) – Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%90%AC%E5%BE%B3%E5%AF%BA_(%E7%A8%B2%E6%B2%A2%E5%B8%82)
愛知県稲沢市 万徳寺 – japan-geographic.tv
https://japan-geographic.tv/aichi/inazawa-mantokuji.html

最終更新日: 2026.03.22