北を向いて建つ写真館

明治村高田小熊写真館は、愛知県犬山市の博物館明治村にある明治41年(1908年)頃の写真館建築で、平成16年(2004年)2月17日に国の登録有形文化財に登録された。

建物はもともと新潟県の高田、いまの上越市本町に建っていた。冬のあいだ何度も屋根の雪を下ろす土地である。店を開いたのは小熊和助で、東京の江木写真館で修業したのち郷里へ戻り、この写真館を構えた。設計は和助自身の手によるとされ、施工にあたったのは地元の大工と考えられている。

高田が急に膨らんだ年でもあった。陸軍第十三師団が高田に入営したのは明治41年(1908年)11月1日、廃止される大正14年(1925年)まで、町は軍都として動いていく。明治44年(1911年)1月には、この師団に配属されたオーストリア・ハンガリー帝国の軍人レルヒ少佐が金谷山で日本初の本格的なスキー指導を行った。明治村高田小熊写真館が客を迎えていたのは、そういう高田である。

建物は昭和56年(1981年)、本町通りの区画整理で解体された。翌昭和57年(1982年)に明治村へ移され、いまは村内5丁目65番地に建っている。

明治村高田小熊写真館が登録された理由

文化庁の国指定文化財等データベースは、明治村高田小熊写真館を登録番号23-0119として収める。登録基準は「造形の規範となっているもの」ひとつ。木造2階建、鉄板葺、建築面積70平方メートル、員数は1棟である。

評価の中心にあるのは、写真術の制約がそのまま建物の形になっている点だろう。明治の写真館に強い照明はない。露光に足る光は太陽から取るほかなく、直射では影が硬く落ち、日が回れば明るさも変わる。そこで一日の変化がもっとも小さい北の光を選び、屋根の北面をまるごとガラスにした。

建物が北を向いているのはそのためである。切妻造の屋根は、南面が鉄板葺、北面がガラス葺という左右で異なる断面をもつ。写場(スタジオ)はそのガラスの下、2階に置かれた。

外壁は柱形を見せる下見板張で、窓は簡素な上げ下げ窓である。装飾は玄関部に集中し、他の面はそっけないほど飾りがない。登録有形文化財の制度は、こうした地方の実用建築を意匠の規範という観点から拾い上げる。明治村高田小熊写真館はその一例にあたる。

明治村高田小熊写真館の見どころ

北へ傾くガラスの屋根

外から見て最初に目に入るのが、この屋根である。急勾配の北面が一枚の大きな採光面になっていて、天気のよい日には空がそのまま映り込む。屋根そのものが照明器具だと考えると、勾配の付け方も、面の広さも腑に落ちる。

2階へ上がると、その裏側に出る。天井は張られておらず、小屋裏がそのまま見えている。梁と垂木の間から光が落ちてくる感覚は、写場に立ってみないと分からない。

白と黒の布、そして雪を落とすための窓

ガラス屋根の内側には、白と黒の布が張られている。被写体や時刻に合わせて布を動かし、光の量と当たり方を調節する仕掛けである。レフ板もディフューザーも既製品では手に入らない時代の、建物ぐるみの解答といえる。

屋根の近く、写場の壁の高いところに小さな窓がある。雪を下ろすための窓である。ガラスの屋根に雪が積もれば光が来ないだけでなく、重みで割れる。豪雪地に建つ写真館だからこそ必要になった開口で、明治村高田小熊写真館を高田の建物たらしめている部分でもある。

大正期に足された玄関とショーウィンドー

正面の玄関部は、大正の初め(1912年から1925年の間)に増築されたものである。ショーウィンドーの腰を石貼とし、頭には幾何学模様のパラペット飾りを大きく回す。撮影のための建物に、客を呼ぶための顔が後から付いた形になっている。

スタジオ部と玄関部では、勾配も、開口の取り方も、装飾の密度も違う。並んで建つ二つの表情を見比べるのが、この建物の面白いところである。

作りつけの小道具

写場には、長椅子や洋風の柱といった撮影小道具が造作として作りつけられている。持ち込みの家具ではなく、建物の一部として最初から用意されたものである。写場へ向かう階段の周りには写真の見本が掛かる。

1階は、玄関の奥に応接室、右手のスタジオの下に作業室兼居室、その奥に暗室と便所が並ぶ。2階は玄関の上が化粧直しの場、ガラス屋根の下が写場、屋根窓の中は増築当初は倉庫で、のちに居室へ改造された。撮る場所と待つ場所と暮らす場所が、70平方メートルの中に折り重なっている。

明治村高田小熊写真館の見学

明治村高田小熊写真館は公開されている。博物館明治村の展示建造物のひとつで、入村すれば内部まで入って見学できる。村内の場所は5丁目65番地である。

開村時間は季節によって変わる。4月から7月、9月、10月は午前9時30分から午後5時まで。8月は午前10時から午後5時まで。12月から2月は午前10時から午後4時までと短い。入村は閉村時刻の30分前までである。休村日は月ごとに設定されるので、出かける前に公式サイトの開村日カレンダーを見ておくとよい。

入村料は大人2,500円、高校生1,500円、中学生と小学生が700円。未就学児は無料である。学芸スタッフによる建物ガイドが予約不要で行われる日もある。

撮影については、手持ちでの撮影は差し支えないが、建物内での三脚の使用は禁止されている。ガラス屋根から落ちる光そのものが見どころなので、感度を上げて手持ちで撮るのが現実的だろう。

行き方は、名鉄犬山駅東口から岐阜バス明治村線で20分ほど。車なら中央自動車道の小牧東インターチェンジから3キロメートルで、駐車場は普通車1,000円である。明治村は起伏のある土地に建物を並べているため、坂と段差が多い。明治村高田小熊写真館は5丁目にあり、正門にあたる北口からは村の奥へ入っていくことになる。

Q&A

Q明治村高田小熊写真館は見学できますか。時間と料金は?
A見学できます。博物館明治村の展示建造物として内部まで公開されています。入村料は大人2,500円、高校生1,500円、中学生と小学生が700円。開村時間は季節によって変わり、4月から7月、9月、10月は午前9時30分から午後5時まで、12月から2月は午前10時から午後4時までです。入村は閉村の30分前までです。
Q明治村高田小熊写真館の中で写真を撮ってもよいですか?
A手持ちでの撮影はできます。ただし博物館明治村では建物内での三脚使用が禁止されています。写場は北向きのガラス屋根からの光だけで明るさが決まるため、天気と時刻で条件がかなり変わります。
Q明治村高田小熊写真館へはどう行けばよいですか?
A名鉄犬山駅東口から岐阜バス明治村線で20分ほどです。車の場合は中央自動車道の小牧東インターチェンジから3キロメートル、駐車場は普通車1,000円です。入村後は村内5丁目65番地を目指してください。
Q明治村高田小熊写真館はもともとどこにあった建物ですか?
A新潟県高田、現在の上越市本町にありました。小熊和助が明治41年(1908年)頃に建てた写真館で、昭和56年(1981年)に本町通りの区画整理で解体され、昭和57年(1982年)に博物館明治村へ移されました。
Q明治村高田小熊写真館の屋根は、なぜ北側だけガラスなのですか?
A明治の写真館には強い照明がなく、撮影の光を太陽に頼っていたためです。北からの光は一日のうちで明るさの変化が小さく、影も硬く出ません。そこで屋根の北面をすべてガラス葺きにし、内側に張った白と黒の布で光量を調節していました。

基本情報

名称明治村高田小熊写真館
所在地愛知県犬山市内山1 博物館明治村内(5丁目65番地)
指定区分登録有形文化財(建造物)
指定年平成16年(2004年)登録
員数1棟
寸法建築面積70平方メートル、木造2階建、鉄板葺
所有者公益財団法人明治村
公開状況公開。博物館明治村の展示建造物として内部を見学できる

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース 明治村高田小熊写真館
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00003885
愛知県 文化財ナビ愛知 明治村高田小熊写真館
https://www.pref.aichi.jp/kyoiku/bunka/bunkazainavi/yukei/kenzoubutu/kunitouroku/1138.html
博物館明治村 高田小熊写真館
https://www.meijimura.com/sight/%E9%AB%98%E7%94%B0%E5%B0%8F%E7%86%8A%E5%86%99%E7%9C%9F%E9%A4%A8/
博物館明治村 開村時間・休村日
https://www.meijimura.com/guide/open/
博物館明治村 各種料金
https://www.meijimura.com/guide/price/
博物館明治村 アクセス
https://www.meijimura.com/guide/access/
上越市 公文書センター展示 高田の第十三師団
https://www.city.joetsu.niigata.jp/soshiki/koubunsho/tenji17.html
上越市 日本スキー発祥の地 上越市
https://www.city.joetsu.niigata.jp/site/museum/japanese-ski-origination.html

最終更新日: 2026.09.03