一点から見渡すために造られた監獄
金沢監獄は明治40年(1907年)、石川県金沢市に開設された。その配置には明確な意図があった。八角形の中央看守所を中心に、五つの監房棟が放射状に延び、看守は中央に立ったまま各棟の中廊下を見通すことができた。愛知県犬山市の博物館明治村に現存する木造平屋建の監房は、その放射の一本にあたる。中央看守所とともに、昭和47年(1972年)にこの地へ移築された。
放射型の監房配置は、明治5年(1872年)に定められた「監獄則並図式」が範として示したものである。近代的な監獄制度とあわせて洋式の舎房形式が規定され、各地で建設が進んだ。金沢監獄はその後期にあたり、山下啓次郎が設計を手がけた明治後期の五大監獄の一つに数えられる。
「登録」有形文化財という位置づけ
この監房は登録有形文化財(建造物)である。登録年月日は平成16年(2004年)2月17日、告示は同年3月4日、登録番号は23-0116。「指定」ではなく「登録」である点に、制度上の意味がある。国宝や重要文化財を対象とする指定制度に対し、登録制度は平成8年(1996年)に導入された比較的新しい仕組みで、明治以降の近代建築など、指定制度では取りこぼされがちだった建造物を幅広く保護することを主眼とする。所有者の自由度が高く、活用しながら残すことを前提とした制度である。
登録の基準は「造形の規範となっているもの」とされる。放射型監獄が各地で姿を消すなか、移築された一棟であっても、明治国家が監視と矯正のために築いた建築の形を具体的に残す点に、資料としての価値がある。
建物の見どころ
外観だけを見れば、監獄とは気づきにくい。外壁は柱形を付けた洋風の下見板張で、切妻造・桟瓦葺の屋根の棟には越屋根が載る。これは中廊下に採光と通風をもたらすための工夫である。窓には欄間付の引違窓が並び、一見すると学校か洋風の官舎のようでもある。
内部に入ると、用途が立ち現れる。中廊下が棟の端まで通り、その左右に独居房の重い扉が並ぶ。扉の上部には小さな高窓が設けられているが、これは眺望のためではなく、通風と独房内の衛生に配慮したものである。小屋組を見上げると、中廊下にはキングポストトラスが架かり、独居房の上は片流れ屋根とする。房の上では梁の間を鉄筋で引いて補強している。
注意したい点が一つある。八角形の中央看守所の中心に置かれた監視室は、金沢監獄のものではない。北海道の網走監獄から移されたもので、失われた原物に代えて据えられている。中央看守所と監房は金沢のものだが、中心の小室は別の監獄からの転用である。
周辺の見どころとアクセス
博物館明治村は、入鹿池を望む丘陵に昭和40年(1965年)に開村した野外博物館である。高度経済成長のなかで取り壊される明治建築を救うことを目的とし、これまでに60を超える建造物が移築・復原された。うち11件が重要文化財で、フランク・ロイド・ライト設計の旧帝国ホテル中央玄関もここにある。金沢監獄の建物群は村内五丁目にまとまっており、監房、中央看守所、そして昭和52年(1977年)に移された煉瓦造の正門が並ぶ。
園内は起伏が大きく、明治期製造の蒸気機関車や京都市電が一部区間で運行し、乗車もできる。来村は名鉄犬山駅東口からのバスが便利で、季節により名古屋方面からの直行バスもある。犬山市内には現存最古級の天守をもつ国宝犬山城もあり、あわせて訪ねるとよい。
Q&A
- 監房の中に入れますか。
- 入れます。中廊下を歩き、独居房の内部をのぞくことができます。一部の房には人形が置かれ、収監の様子が再現されているため、当時の雰囲気が具体的に伝わってきます。
- 金沢監獄そのものが残っているのですか。
- 一部です。中央看守所と監房の一棟が昭和46年(1971年)に金沢で解体され、翌年に明治村へ移築されました。五棟あった監房のうち残るのは一部で、中央の監視室は金沢ではなく網走監獄から移されたものです。
- 「登録」と「指定」はどう違うのですか。
- 指定は国宝や重要文化財を守る古くからの厳格な制度です。登録は平成8年(1996年)に始まった比較的緩やかな制度で、指定の対象になりにくかった近代建築などを幅広く記録し、変更を届け出制とする一方、所有者には活用の自由を多く残します。
- 村内のどこにあり、どのくらい時間がかかりますか。
- 監獄関連の建物は村内五丁目にまとまっています。監房・中央看守所・正門をひと続きに見るなら15〜20分ほどですが、明治村全体はほぼ一日かけて回る規模です。
- 設計者は誰ですか。撮影はできますか。
- 金沢監獄は、明治後期に建築家・山下啓次郎のもとで建てられた五つの大監獄の一つです。野外の園内および建物内部とも、個人で楽しむ範囲での撮影ができます。
基本情報
| 名称 | 明治村金沢監獄監房(めいじむらかなざわかんごくかんぼう) |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県犬山市内山1 博物館明治村内 |
| 旧所在地 | 石川県金沢市 |
| 年代 | 明治40年(1907年)建築/昭和47年(1972年)移築 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録年月日 平成16年(2004年)2月17日/告示 同年3月4日/登録番号 23-0116 |
| 登録基準 | 造形の規範となっているもの |
| 構造及び形式 | 木造平屋建、桟瓦葺、越屋根付、渡廊下付 |
| 建築面積 | 204㎡ |
| 員数 | 1棟 |
| 所有者 | 公益財団法人明治村 |
| 公開状況 | 博物館明治村内で公開 |
参考文献
- 文化遺産オンライン(国立情報学研究所):明治村金沢監獄監房
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/169192
- 国指定文化財等データベース(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003882
- 博物館明治村:金沢監獄中央看守所・監房
- https://www.meijimura.com/sight/金沢監獄中央看守所・監房/
- 博物館明治村:アクセス
- https://www.meijimura.com/guide/access/
最終更新日: 2026.06.17