子どものために建てられた図書館、いまはおもちゃの館へ

愛知県西尾市、緑に包まれた西尾市立図書館の敷地に、下見板貼りの小さな洋風建築が建っている。近づくと、窓台の位置が大人の感覚よりも低いことに気づく。これは意図されたものだ。大正14年(1925年)頃に建てられたこの建物は子どものための施設で、設計者は子どもの目線に合わせて窓を低く据えた。現在は西尾市立図書館の「おもちゃ館」として使われているが、もとは岩瀬文庫の児童館であり、学校以外で子どものために設けられた施設としては国内でも最初期のものにあたる。

木造平屋建で、瓦葺の屋根の下にわずか57平方メートルの床面積を収める。外壁はアメリカ下見板貼り、妻側にはハーフティンバー風の飾りが付き、縦長の上下窓が壁面に並ぶ。和洋の建築習慣がまだ折り合いをつけつつあった大正期にあって、家庭的な洋風意匠をまとめあげた小品である。

登録有形文化財としての位置づけ

平成11年(1999年)6月、この建物は同じ敷地内に建つ煉瓦造の旧書庫とともに、国の登録有形文化財に登録された。これは「指定」ではなく「登録」であり、国による保護のうち比較的緩やかな方にあたる。登録は、保存と記録に値する建造物を広く受けとめる制度で、より厳格な重要文化財や国宝の指定とは法的な規制の度合いが異なる。児童館は、造形の規範となっているものという基準のもとで登録された。

その価値の一端は、用途の珍しさにある。西尾の実業家で篤志家でもあった岩瀬弥助は、明治41年(1908年)に私立の貸本図書館として岩瀬文庫を開き、西尾の人々が無償で本に触れられる場をつくった。大正14年頃に加えられた児童館は、子ども向けの専用空間がまだほとんど例を見なかった時代に、その理念を最も幼い読者へと広げる試みであった。日本で最初の児童館と紹介されることもあるが、この点は確証を得がたく、慎重に受けとめておきたい。

意匠には土地の刻印も見てとれる。設計者の西原吉治郎は、もと愛知県の営繕技師で、名古屋で設計事務所を営んだ人物であり、隣接する煉瓦造の旧書庫も手がけている。児童館の内部では、腰壁の部分に歴代西尾城主の家紋を入れた瓦が埋め込まれている。城下町の来歴を、未来の市民のための建物にそっと織り込んだ細部といえる。

見どころ

訪れる前に知っておきたいことがある。おもちゃ館は現在、市による耐震補強工事のため休館しており、内部と展示は当面見学できない。ただし建物そのものは敷地内から眺めることができ、その魅力の多くは外観に宿っている。

建物のまわりを歩いてみると、子どもの寸法に合わせた設計の意図が見えてくる。窓台は低く、全体の比例は控えめで、ハーフティンバー風の妻飾が、公共施設というより絵本に出てくる家のような風情を添えている。下見板貼りの壁は平成15年(2003年)に塗り直されており、当時としては珍しかった淡い洋風の仕上げが保たれている。

建物が開いているときの内部の見どころは、郷土玩具のコレクションである。昭和60年(1985年)、西尾で洋品店を営む鳥居亥四郎が全国から集めた郷土玩具860点を市に寄贈したことに始まる。そのうちおよそ350点が壁面のケースに展示され、一定期間ごとに入れ替えられるため、再訪のたびに異なる品に出会える。土人形、張り子の動物、独楽など、各地に根づいた素朴な玩具が並び、工場製のおもちゃが広まる前に子どもたちが親しんだ遊び道具をいまに残している。

周辺の見どころ

おもちゃ館が再開を待つあいだも、同じ敷地に建つ隣家は開いており、しかも無料だ。西尾市岩瀬文庫は、平成15年(2003年)に日本で初めての古書の博物館として生まれ変わった施設で、重要文化財を含むおよそ8万冊の蔵書をもつ。2階の閲覧室では、ガラス越しに眺めるのではなく、実物の古典籍を申請して手に取ることができる。入館料は無料で、創設者の願いがいまも受け継がれている。

そのかたわらに建つ煉瓦造の旧書庫は、これら三棟のうちの一つで、こちらも登録有形文化財である。通常は内部非公開だが、10月下旬の「にしお本まつり」の時期などに、ボランティアガイドの案内で内部が公開されることがある。敷地は西尾城跡に整備された鶴城公園に接しており、徒歩で気軽に巡ることができる。

Q&A

Qおもちゃ館の中に入れますか。
A現在は入れません。耐震補強工事のため休館中で、再開の時期は公表されていません。外観は敷地内から見ることができます。
Q入館料はかかりますか。
Aかかりません。おもちゃ館は市立図書館の施設で無料です。隣接する岩瀬文庫も入館無料です。
Qどうやって行けばよいですか。
A名鉄西尾駅から徒歩約20分、西尾口駅からは徒歩約10分です。コミュニティバス「くるりんバス」も図書館・岩瀬文庫の近くに停まります。
Qこれは国宝ですか。
A国宝ではありません。国の保護のうち比較的緩やかな区分である登録有形文化財で、その意匠と、子どものために建てられた初期の施設としての性格が評価されています。
Q建物が休館中でも見るものはありますか。
A隣の岩瀬文庫を見学し、煉瓦造の旧書庫と児童館を外から眺め、城跡の鶴城公園まで足をのばすとよいでしょう。

基本情報

名称西尾市立図書館おもちゃ館(旧岩瀬文庫児童館)
所在地愛知県西尾市亀沢町474
指定区分国登録有形文化財(建造物)
登録年月日平成11年(1999年)6月7日(登録番号 23-0023)
員数1棟
建設年代大正14年(1925年)頃
構造木造平屋建、瓦葺、建築面積約57平方メートル
設計西原吉治郎
所有者西尾市
公開状況耐震補強工事のため休館中(外観は敷地内から見学可)

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00001114
文化遺産オンライン(国立情報学研究所)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/113994
西尾市公式ウェブサイト 西尾市立図書館おもちゃ館(旧岩瀬文庫児童館)
https://www.city.nishio.aichi.jp/sportskanko/bunkazai/1001485/1001611/1005601/1002933.html
西尾市立図書館 おもちゃ館
https://www.library.city.nishio.aichi.jp/contents/facility-top/facility/toy
古書の博物館 西尾市岩瀬文庫
https://iwasebunko.jp/

最終更新日: 2026.06.17