解体されて運ばれてきた本堂
瑞芳院本堂及び庫裡は、愛知県一宮市中町にある文化10年(1813年)建築の仏堂で、令和3年(2021年)に登録有形文化財となった。この場所に最初から建っていた建物ではない。別の土地で建てられ、解体され、いまの敷地で組み直されている。
瑞芳院は、同じ一宮市の大和町にある妙興寺の塔頭として開かれた。本堂は文化10年に妙興寺の境内で建てられている。そこへ明治24年(1891年)の濃尾地震が起きた。震源域はこの濃尾平野一帯にあたり、内陸地震としては記録に残る最大級のものだった。被災を経て、大正4年(1915年)、復興のなかで建物は解体され、一宮の市街地にある現在地へ移築された。
つまり瑞芳院本堂及び庫裡には、意味の異なる二つの年がある。1813年は大工が材を刻んだ年。1915年は、この建物が寺の境内ではなく商店と住宅の並ぶ町並みの一部になった年である。
登録の理由と評価
国の文化審議会が文部科学大臣に答申したのが令和3年(2021年)7月16日、文化財登録原簿に記載されたのが同年10月14日である。登録番号は23-0563、第100回の登録にあたる。
登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。一宮市博物館は登録の紹介にあたって、市街地に歴史的景観を伝える建物であるとその要点を記している。周囲の街区は20世紀を通じて何度も建て替えられてきた。そのなかに文化10年の木造建築が残っていることの意味は小さくない。
「登録」は「指定」とは別の制度である。平成8年(1996年)の文化財保護法改正で導入された登録有形文化財の仕組みでは、大きな改変にあたって届け出を求めるが、通常の修理に許可はいらない。築後50年を経てなお使われ続けている建物を対象とする制度で、現役の寺院本堂はその想定にそのまま重なる。
見どころ
本堂は方丈形式をとる。方丈とはもともと禅宗寺院における住職の居室を指す語で、のちに寺院本堂の形式のひとつになった。庫裏は本堂の桁行北側に続き、同じ棟の線上に連なる。そのため本堂と庫裏は二棟ではなく一棟として見える。木造平屋建で、登録上の建築面積は182平方メートルである。
外観では屋根が切妻造、桟瓦葺で、四周に下屋を廻らす。足を止めたいのは妻面である。破風の内側は木連格子で埋められ、そこに懸魚が下がる。懸魚は棟木の木口を隠す彫り物で、格子と懸魚が組み合わさることで妻面に表情が生まれる。市も県も、公表した写真にこの面を選んでいる。
内陣の造作
内陣の天井は小組格天井である。格天井の格間をさらに細かい格子で埋めた仕上げで、平の格天井よりもはるかに手間がかかる。内陣の正面には筬欄間が構えられる。縦の組子を織機の筬のように密に並べた欄間で、名前はその見立てから来ている。
奥には須弥壇が据えられ、正面に花頭口が並ぶ。花頭口は禅宗の建築でおなじみの、頭部が尖頭形に曲線を描く開口である。それが壇に沿って一列に並ぶことで、内陣に調子が生まれる。織物の町である一宮で、最も古い部類の仏堂の天井近くに織機の部品の名が残っているのは、ささやかだが面白い符合だと思う。
瑞芳院本堂及び庫裡の見学方法
瑞芳院は現役の寺院であり、博物館ではない。内部の定期的な一般公開は案内されておらず、拝観料の設定も拝観時間の公表もない。内陣を見たい場合は事前に寺へ問い合わせ、断られる可能性も受け入れてほしい。自由に見られるのは外観で、東面と妻面はいずれも道路から望める。
行き方は難しくない。名鉄一宮駅とJR尾張一宮駅が隣り合って北へ約800メートル、市街地を歩いて約15分の距離にある。名古屋からは名鉄名古屋本線でもJR東海道本線でも15分ほどで着く。
公道からの撮影に制限はないが、門の内側では必ず断ってから撮ってほしい。法要や葬儀が営まれる建物であり、この規模の堂はすぐに人で埋まる。個人の寺院の公開条件は予告なく変わるため、遠方から訪ねる前に確認をおすすめする。
Q&A
- 瑞芳院本堂及び庫裡の内部は見学できますか。拝観料と拝観時間は。
- 内部の定期的な一般公開は案内されておらず、拝観料も拝観時間の設定もありません。現役の寺院のため、見学を希望する場合は事前に瑞芳院へ問い合わせてください。外観は道路からいつでも見られます。
- 瑞芳院本堂及び庫裡への行き方を教えてください。
- 名鉄一宮駅とJR尾張一宮駅から約800メートル、徒歩約15分です。名古屋からはどちらの路線でも15分ほどで到着します。
- 瑞芳院本堂及び庫裡はなぜ現在地に移築されたのですか。
- 文化10年(1813年)に妙興寺の境内で建てられましたが、明治24年(1891年)の濃尾地震で被災し、大正4年(1915年)に中町の現在地へ解体のうえ移築されました。
- 瑞芳院本堂及び庫裡はどの区分の文化財ですか。
- 登録有形文化財(建造物)です。令和3年(2021年)10月14日に「国土の歴史的景観に寄与しているもの」として登録され、登録番号は23-0563です。
- 瑞芳院本堂及び庫裡の方丈形式とはどのようなものですか。
- 方丈はもともと禅宗寺院の住職の居室を指し、のちに寺院本堂の形式のひとつになりました。瑞芳院では本堂の桁行北側に庫裏が同じ棟の線で連なります。
基本情報
| 名称 | 瑞芳院本堂及び庫裡 |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県一宮市中町一丁目4-1 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 指定年 | 令和3年(2021年)登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造平屋建、瓦葺、建築面積182平方メートル |
| 所有者 | 宗教法人瑞芳院 |
| 公開状況 | 内部の定期的な一般公開なし。外観は道路から見学可能。見学希望は事前に問い合わせ |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「瑞芳院本堂及び庫裡」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00014026
- 愛知県「登録有形文化財(建造物)の登録について」(令和3年7月16日発表)
- https://www.pref.aichi.jp/soshiki/bunkazai/touroku-20210716.html
- 愛知県「(資料2)瑞芳院本堂及び庫裡について」(PDF)
- https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/385285.pdf
- 一宮市博物館 館報第65号「登録有形文化財(建造物)の新登録 瑞芳院本堂及び庫裡」(PDF)
- https://www.icm-jp.com/pdf/065.pdf
- 一宮市「市内の文化財」
- https://www.city.ichinomiya.aichi.jp/shisei/shiryo/1009803/1010480.html
最終更新日: 2026.09.02