旧本郷家住宅文庫蔵―鞘のなかに納められた、桁行16.4メートルの土蔵

主屋を西へ進んでも、外に出ない。床はそのまま東西棟の細長い建物へと続き、その内部に二階建の土蔵が立っている。桁行は16.4メートル。東の前面には蔵前が付く。

建物のなかの建物。秋田県南の内陸部では、この形式を「内蔵(うちぐら)」と呼ぶ。土蔵を包む外側の建物のほうは「鞘(さや)」という。刀の鞘と同じ字を当てる。

本郷家の文庫蔵は、敷地内に残る四棟のうち最も古い。慶応3年(1867)に着工し、明治2年(1869)に竣工した。幕府が倒れ、元号が変わる、その時期をまたいで工事が進んだことになる。建築面積263平方メートル、屋根は他の三棟と同じく鉄板葺である。

なぜ蔵を建物で包むのか

理由はまず雪にある。横手盆地の積雪は深く、しかも長く居座る。露天に建つ土蔵は、その重みと水分を漆喰の壁で直接受け止めることになり、割れや浸みが避けられない。鞘で覆ってしまえばこの問題は消える。加えて、二月であっても屋内から蔵に入れる。帳簿も衣類も漆器も、雪をかき分けずに出し入れできる。

実用として始まった工夫は、やがて意匠へ向かう。屋内に収まった以上、蔵の柱や梁は構造材であると同時に室内の見どころになるからだ。裕福な家はここに費用を投じた。本郷家の文庫蔵では柱を漆で拭っている。素木を丹念に削っただけでは出ない、沈んだ艶がそこにある。同じ流れのなかから、横手市増田の内蔵群のような町並みも生まれた。

文化庁は平成28年(2016)11月29日、この蔵を登録番号05-0214として登録有形文化財に登録した。適用された基準は「再現することが容易でないもの」。三つある登録基準のなかでも、失われれば取り返しがつかないという判断を最も直截に示すものである。この規模の土蔵を成立させる職人の技術と、建築年代が明らかであるという記録上の希少さ、その両方が読み取れる。工匠として熊谷寅蔵、青木傳蔵の名が伝わる。

見学のしかたと、見るべきところ

蔵の内部は、無料公開の見学ルートには含まれていない。株式会社角間川が実施する有料ガイドツアーで見ることができる。このツアーでは本郷家の内蔵に加え、近隣の旧荒川家、旧北島家の内蔵にも入れる。三軒の地主屋敷の内蔵を歩いて回れる機会は、そう多くない。

ツアーで注目したい点をいくつか。鞘部と主屋の取り合いを見れば、両者が後から継ぎ足されたのではなく、はじめから一体で計画されたことが分かる。東面の蔵前は通路ではなく、蔵の扉に向かうための格式ある前室として設けられている。そして16.4メートルという長さは、外から眺めても実感できない。外観というものが存在しないからだ。この建物は150年以上、意図的に隠されてきた。

そもそも何を納めるための蔵だったか。最盛期345町歩に及ぶ土地の証文、小作契約、雄物川の通船貨物保険にかかわる書類、盆地一円に広がる事業の帳簿。それらを乾いた状態で、安全に、しかも冬のさなかでも取り出せる場所に置く必要があった。文庫蔵という名は、そのまま用途を指している。

Q&A

Q「内蔵」とはどういうものですか。
A外側の建物(鞘)に包み込まれ、屋内から出入りする土蔵のことです。豪雪地帯で発達した形式で、とりわけ秋田県南の内陸部に色濃く残ります。屋外に独立して建つ蔵とは、造りも使われ方も違います。
Q蔵の中に入れますか。
A内部の見学は有料ガイドツアーでの対応となります。公開期間中の開館時間内、ガイド開始は9時30分から14時30分の間で、事前予約が必要です。詳細は運営する株式会社角間川へお問い合わせください。
Q敷地内の他の建物と比べて、どのくらい古いのですか。
A四棟のなかで群を抜いて古い建物です。文庫蔵が明治2年(1869)、主屋が明治33年(1900)、味噌蔵が大正10年(1921)、洋館が昭和3年(1928)。ひとつの屋敷地に四つの時代の建築が並んでいることになります。
Q屋根が鉄板葺なのはなぜですか。
A鉄板は瓦より雪が滑り落ちやすく、重量もはるかに軽く済みます。積雪をメートル単位で数える土地では大きな利点です。雪国では古い建物の屋根を金属に葺き替える例が広く見られ、この四棟もすべて鉄板葺となっています。
Q読みは「ぶんこくら」ですか、「ぶんこぐら」ですか。
A出典によって異なります。国指定文化財等データベースは「ぶんこくら」、大仙市の解説は「ぶんこぐら」と記しています。指す建物は同一で、連濁の有無による揺れです。

基本情報

名称旧本郷家住宅文庫蔵(きゅうほんごうけじゅうたくぶんこくら)
所在地秋田県大仙市角間川町字西中上町19
指定区分国登録有形文化財(建造物)
登録年月日平成28年(2016)11月29日/第85回登録
登録番号05-0214
登録基準再現することが容易でないもの
建築年代明治2年(1869)/慶応3年(1867)着工
構造及び形式土蔵造2階建、鉄板葺
建築面積263平方メートル
土蔵部の桁行16.4メートル
員数1棟
造り手工匠:熊谷寅蔵、青木傳蔵
所有者大仙市
公開状況敷地・主屋は4月下旬~11月中旬に無料公開。蔵内部は有料ガイドツアーで見学可
問い合わせ大仙市文化財課(電話 0187-63-8972)

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)旧本郷家住宅文庫蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00011238
大仙市 登録有形文化財 旧本郷家住宅
https://www.city.daisen.lg.jp/archive/contents-11562
大仙市 旧本郷家住宅の一般公開について
https://www.city.daisen.lg.jp/archive/contents-9764

最終更新日: 2026.07.22