旧本郷家住宅味噌蔵―石造に見せるモルタル洗出し、大正10年の意匠
この蔵の外壁は石ではない。石として読ませるために作られている。仕上げはモルタル洗出し。硬化しきる前に表面を洗って骨材を浮き立たせ、その上に規則正しく目地を切ってある。石積みの見えを、石積みよりはるかに軽く、安く手に入れる方法である。
中身は土蔵造二階建。木の軸組に厚い土壁を塗り込めた、正統な蔵の構造である。主屋の北側に東西棟で建ち、建築面積は66平方メートル。屋根は敷地内の他の三棟と同じく鉄板葺。
建てられたのは大正10年(1921)、棟梁は寺嶋松五郎。この人物は七年後、同じ敷地に洋館を建てることになる。現在は独立して建つが、もとは主屋の調理場と接続していた。用途を考えれば当然の配置で、この規模の家では味噌を樽単位で仕込み、蓄えた。台所から雪の日でも手が届く位置に置く必要があった。
屋根が「載っている」ということ
屋根の納まりを見ると、屋根が建物から生えているのではなく、上に置かれているように見える。その印象は正しい。置屋根形式である。土蔵本体の土屋根の上に、別に軽い小屋組を架けている。箱に蓋をするような格好だ。
これは実務的な解答でもある。土屋根は雨に弱く、春先の凍結と融解の繰り返しにも耐えにくい。上から別の屋根で覆ってしまえば水は当たらず、二重になった屋根のあいだの空隙が風を通して湿気を抜く。内側から土が傷むのを防ぐわけである。雪国の蔵が広くこの形式を採ったため、蓋をかぶった箱のような独特の輪郭が生まれた。
窓にも目を向けたい。持ち送りに曲線状の意匠が用いられている。用を満たすだけなら角を落とした直線でよかったはずのところに、わざわざ曲線が入っている。味噌を貯えるための建物に、その手間は必要ない。それでも誰かが入れると決めた。
庭とともに成り立つ景観
味噌蔵に適用された登録基準は、主屋のそれとは異なる。主屋が「造形の規範となっているもの」であったのに対し、味噌蔵は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」として登録された。この違いは読み解く価値がある。単体としての建築的達成よりも、ある眺めのなかで果たしている役割が評価された、ということだからだ。
その眺めとは、主屋北側の庭である。味噌蔵が竣工した翌年、大正11年(1922)に、造園家・長岡安平が本郷家庭園の設計図(彩色図)を描いている。長岡は近代造園の祖とも称される人物で、同じ大仙市内の国指定名勝・旧池田氏庭園も手がけた。その図は本郷家に現存する。
大正10年に北縁へ石造風の蔵が現れ、翌大正11年に同じ北庭の設計図が引かれた。この前後関係は示唆的だが、後者が前者に応じたものかどうかは確認されていない。大仙市も庭園造営の沿革についてはさらなる調査を要するとしている。確かなのは、いま蔵と植栽がひと続きの構図として目に入るということ、そして登録の記録がその点を明記しているということである。
十月に訪ねると、この一角では苔の上にモミジが落ちる。目地を切った淡い色の壁が、その景色の隅を締めている。
Q&A
- 置屋根とはどのような構造ですか。
- 土蔵の土屋根の上に、別の軽い小屋組と屋根を架けた二重屋根のことです。上の屋根が雨雪を受け、あいだの空隙が通気を確保して下の土屋根を乾かします。腐朽や凍害を防ぐための工夫で、雪国の土蔵に多く見られます。
- 味噌蔵の中に入れますか。
- 敷地と主屋は公開期間中に無料で見学でき、味噌蔵は庭側から外観をご覧いただけます。この屋敷の蔵の内部見学は有料ガイドツアーでの対応が基本ですので、内部までご覧になりたい場合は事前に運営へお問い合わせください。
- なぜ味噌のために独立した建物が要るのですか。
- この規模の家では味噌を大きな木樽で長期に仕込み、貯蔵しました。発酵と熟成には温度変化の少ない、冷暗な環境が向きます。厚い土壁の蔵はその条件を満たし、居住部から離すことで匂いと湿気を住まいに持ち込まずに済みました。
- 庭を見るのに適した時期はいつですか。
- 北側の苔庭は緑の季節を通して見応えがあります。紅葉はおおむね10月下旬から11月上旬で、公開期間の終盤にあたります。冬期は閉鎖されるため、秋の深まった時期がその年の最後の機会になります。
- 住所が他の建物と違うようですが。
- わずかに異なります。国指定文化財等データベースでは味噌蔵の所在地を西中上町19-5、主屋・文庫蔵・洋館を19としています。区画は隣接しており、実際にはひと続きの屋敷地です。
基本情報
| 名称 | 旧本郷家住宅味噌蔵(きゅうほんごうけじゅうたくみそぐら) |
|---|---|
| 所在地 | 秋田県大仙市角間川町字西中上町19-5 |
| 指定区分 | 国登録有形文化財(建造物) |
| 登録年月日 | 平成28年(2016)11月29日/第85回登録 |
| 登録番号 | 05-0215 |
| 登録基準 | 国土の歴史的景観に寄与しているもの |
| 建築年代 | 大正10年(1921) |
| 構造及び形式 | 土蔵造2階建、鉄板葺、置屋根形式 |
| 建築面積 | 66平方メートル |
| 員数 | 1棟 |
| 造り手 | 棟梁:寺嶋松五郎 |
| 所有者 | 大仙市 |
| 公開状況 | 4月下旬~11月中旬公開。9時~16時(最終入館15時30分)、月曜休館、入館料無料 |
| 問い合わせ | 大仙市文化財課(電話 0187-63-8972) |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)旧本郷家住宅味噌蔵
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00011239
- 大仙市 登録有形文化財 旧本郷家住宅
- https://www.city.daisen.lg.jp/archive/contents-11562
- 大仙市 旧本郷家住宅の一般公開について
- https://www.city.daisen.lg.jp/archive/contents-9764
最終更新日: 2026.07.22