旧本郷家住宅洋館―68平方メートルに納めた、中廊下型の和洋
建築面積68平方メートル。決して大きな建物ではない。その面積のなかに、洋室二室と和室二室を、中廊下をはさんで対に並べている。
この平面こそが要点である。中廊下型は当時の住宅改良運動が推した先進的な間取りだった。部屋から部屋へ直接抜ける従来の続き間に対し、通行のための廊下を独立させることで、各室の独立性が確保される。本郷家の洋館では、この廊下がもうひとつの役目も果たしている。椅子で迎える客と、畳で迎える客を、互いに立ち入らせずに受けられるのだ。
竣工は昭和3年(1928)。築28年を数えていた主屋の南方に接続して建てられた。設計は鳳月社工務所、棟梁は寺嶋松五郎。七年前に同じ敷地で味噌蔵を手がけた人物である。木造平屋建、東西棟の切妻造、屋根は鉄板葺。
外装に注がれた手間
この建物が費用をかけたのは外まわりである。外壁は黄土色のドイツ壁風仕上げ。モルタルを壁面に叩きつけ、飛沫状の粗い肌をならさずに残す技法で、明治末から大正・昭和初期にかけての住宅や小規模建築を特徴づける表情をつくった。
その下、腰の部分には煉瓦タイルが貼られる。壁の裾を一段締める装飾帯で、木造の建物に組積造の重厚さを、重量を負担せずに借りてくる手立てでもある。同時代の各地の建物が同じ理由でこれを採用した。
妻側には出窓が各二所、計四箇所。左右に振り分けて配されたこの出窓が、小さな建物を付属屋ではなくひとつの見どころに変えている。文化庁の解説文が特に取り上げているのも、この出窓である。
登録は平成28年(2016)11月29日、登録番号05-0213。適用された基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」で、味噌蔵と同じである。理由は表から眺めれば分かる。黒塀と白壁、そして濃い木部でまとまった屋敷のなかに、黄土色の壁と煉瓦の腰が現れる。この対比そのものが記録なのだ。昭和三年、秋田の農村の大地主が、暮らしの一部を洋風に置くと決めた、その事実の。
訪ねるにあたって
洋館へは主屋から入る。庭に面した側に腰を下ろしてみてほしい。この屋敷では縁側や洋館から日本庭園を眺めることができる。庭については、大正11年(1922)に造園家・長岡安平が描いた設計図(彩色図)が本郷家に伝わっている。近代造園の祖とも称される人物の手になるものである。
屋敷全体は平成29年(2017)3月、9代当主・本郷元氏から大仙市へ寄贈された。公開が始まったのは平成31年(2019)で、いまは4月下旬から11月中旬まで、雪が来る前に閉じる。入館は無料。
旧本郷家住宅と隣の旧荒川家住宅の主屋は、食事会や演奏会のために貸し切ることもできる。半日1,100円、全日1,650円で、利用日の3日前までに申し込む。登録文化財としては珍しい運用に見えるかもしれないが、これは制度の考え方と地続きである。使われている建物のほうが、結果として長く残る。
Q&A
- 「ドイツ壁」とはどんな仕上げですか。
- モルタルを壁に投げつけ、飛び散った粗い肌をならさずに残す外壁仕上げです。名称のとおりヨーロッパから伝わった技法で、大正から昭和初期の住宅や商店建築に広く使われました。表面に細かな凹凸が出るため、光の当たり方で表情が変わります。
- なぜ洋風の家ではなく、洋館を増築したのですか。
- 既存の和風住宅に小規模な洋館を接続するのは、当時の富裕層に共通する解でした。椅子とテーブルで応対する場は官吏や実業家との交渉に必要でしたが、日常の暮らしは和室で続きます。用途に応じて建物を足す、という選択です。
- 館内で何か展示していますか。
- 企画展が随時開かれています。第36期竜王戦にまつわる展示もそのひとつで、旧本郷家住宅は七番勝負第6局の対局地に選定されていましたが、第4局で防衛が決まったため対局は行われませんでした。令和5年12月の竜王来訪時の写真や第1局の封じ手などが展示されています。
- 敷地内の他の三棟とはどういう関係ですか。
- 四棟は同じ日に登録され、同じ敷地に建ちますが、年代は四つに分かれます。文庫蔵が明治2年(1869)、主屋が明治33年(1900)、味噌蔵が大正10年(1921)、そして洋館が昭和3年(1928)。順に見ていくと、ひとつの家の建築が六十年でどう変わったかが追えます。
- 写真撮影はできますか。
- 個人で楽しむ範囲の撮影は通常可能ですが、企画展の展示品や商用撮影には制限がかかる場合があります。公開期間中は旧荒川家住宅が管理棟となっていますので、到着時に受付でご確認ください。
基本情報
| 名称 | 旧本郷家住宅洋館(きゅうほんごうけじゅうたくようかん) |
|---|---|
| 所在地 | 秋田県大仙市角間川町字西中上町19 |
| 指定区分 | 国登録有形文化財(建造物) |
| 登録年月日 | 平成28年(2016)11月29日/第85回登録 |
| 登録番号 | 05-0213 |
| 登録基準 | 国土の歴史的景観に寄与しているもの |
| 建築年代 | 昭和3年(1928) |
| 構造及び形式 | 木造平屋建、東西棟の切妻造、鉄板葺 |
| 建築面積 | 68平方メートル |
| 員数 | 1棟 |
| 造り手 | 設計:鳳月社工務所/棟梁:寺嶋松五郎 |
| 所有者 | 大仙市 |
| 公開状況 | 4月下旬~11月中旬公開。9時~16時(最終入館15時30分)、月曜休館、入館料無料 |
| 問い合わせ | 大仙市文化財課(電話 0187-63-8972) |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)旧本郷家住宅洋館
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00011237
- 大仙市 登録有形文化財 旧本郷家住宅
- https://www.city.daisen.lg.jp/archive/contents-11562
- 大仙市 旧本郷家住宅の一般公開について
- https://www.city.daisen.lg.jp/archive/contents-9764
最終更新日: 2026.07.22