旧本郷家住宅主屋―三列構成の間取りに読む、雪国の大地主の暮らし

間取り図を一枚見れば、この家の性格はおおむね分かる。東列に座敷を三室並べ、中列に仏間と納戸を据え、西列にオエを置く。そして西から南半にかけて矩折れの通り土間を通し、玄関はそこに開く。接客と生活と作業の動線が、三本の列としてきれいに分かれている。

秋田県大仙市角間川町。明治33年(1900)に建てられた木造平屋一部2階建、鉄板葺で、建築面積は396平方メートルある。

角間川は横手盆地の中央、雄物川と支流の横手川が合流する地点に位置する。鉄道が敷かれる以前、この川筋は内陸の米を日本海側へ運ぶ大動脈であり、角間川はその河港のひとつとして栄えた。物資の集散地には商業資本が集まり、やがて土地を集めて地主となる。本郷家はその代表格だった。

大正13年(1924)時点で、本郷家と本郷合名会社は合わせて345町歩の農地を持っていた。明治23年(1890)の『秋田縣管内大地主名鑑』では、旧高梨村の池田甚之助家、秋田の辻兵吉家に次ぐ県内第三位の大地主として記録されている。

登録の理由と「登録有形文化財」という制度

主屋が国の登録有形文化財となったのは平成28年(2016)11月29日の官報告示による。登録番号は05-0212。同じ日に敷地内の三棟も併せて登録された。

ここで制度の話を少し。登録有形文化財は平成8年(1996)に始まった仕組みで、国宝や重要文化財の「指定」とは性格が異なる。指定が厳格な現状変更の許可制であるのに対し、登録は建築後おおむね50年を経た建造物を対象とし、外観の変更等について届出制をとる。所有者の裁量が広く残るため、使いながら守っていく建物、たとえば町家や蔵、個人住宅に向いた制度として設計された。

登録基準は三つあり、四棟それぞれ適用されたものが違う。主屋の基準は「造形の規範となっているもの」。この地方における近代住宅の展開を、ひとつの建物のなかで明快に示している点が評価された。

もうひとつ見逃せないのが、造り手が判明していることである。設計は小峰興義、工事監督は米澤重蔵、棟梁は寺嶋庄右衛門。建築年代が確実で、なおかつ関わった人物の名が残る民家は、思いのほか少ない。

訪ねたら見ておきたいところ

まず天井を見上げてほしい。豪雪地の住宅であれば、暖房効率を考えて天井を低く抑えるという選択もありえた。この家はそうしていない。高い内部空間が、役人や取引先を迎える座敷にふさわしい格式を与えている。

次に土間。広くとった土間の壁面高くに高窓が開く。冬、角間川では積雪が一階の窓を長期間覆う。庭先でできる作業が屋内に移り、光は雪の高さより上から採るしかない。土間の広さと高窓は、同じひとつの条件から導かれた答えである。

通り土間が途中で直角に折れる点も面白い。玄関から座敷へ向かう客の動線と、家人の作業動線とを、入口をふたつ設けることなく分けている。

主屋の北側には庭が広がる。近代造園の祖と称される造園家・長岡安平が大正11年(1922)に描いた本郷家庭園設計図(彩色図)が現存しており、長岡は同じ大仙市内の国指定名勝・旧池田氏庭園も手がけている。ただし現在の庭のどこまでが設計図どおりに実現したものかは確定していない。大仙市も庭園造営の沿革についてはさらなる調査が必要としている。

ひとつ注意しておきたい事実がある。明治14年(1881)の明治天皇東北御巡幸に際し、本郷家には行在所が置かれ、当主が拝謁を許された。ただしそれは現主屋の建つ19年前の出来事であり、いま歩く座敷が行在所そのものというわけではない。

平成29年(2017)3月、9代当主・本郷元氏から登録建造物と敷地が大仙市に寄贈され、平成31年(2019)4月から積雪期を除く公開が始まった。

Q&A

Q主屋の内部は見学できますか。
A公開されています。例年4月下旬から11月中旬までの公開で、開館は9時から16時(最終入館15時30分)。月曜休館(祝日の場合は翌平日)、入館料は無料です。積雪期は閉鎖されるため、訪問前に大仙市の公開情報をご確認ください。
Q「オエ」とはどの部屋を指しますか。
A東北地方の民家で日常の居間にあたる部屋の呼称です。土間に隣接して置かれ、食事や家族の団らん、ちょっとした用談の場になりました。接客用の座敷とは役割がはっきり分かれています。
Q大曲駅からどう行けばよいですか。
A大曲駅からタクシーで約14分(約8キロ)です。奥羽本線の飯詰駅からなら約7分(約4キロ)と近くなります。駐車場は隣接する旧荒川家住宅の南隣にあり、普通車36台・大型2台分が確保されています。
Qガイドをお願いすることはできますか。
A株式会社角間川による有料のガイドツアーがあります。1名から5名で1,500円が目安です。本郷家の内蔵に加え、近隣の旧荒川家・旧北島家の内蔵まで見学できるのはガイドツアーに限られます。
Q建物を借りることはできますか。
A旧本郷家住宅と旧荒川家住宅の主屋は、食事会や演奏会などのために貸切利用できます。半日1,100円、全日1,650円(冷暖房を使う場合は1時間あたり220円加算)で、利用日の3日前までに大仙市文化財課への申し込みが必要です。

基本情報

名称旧本郷家住宅主屋(きゅうほんごうけじゅうたくしゅおく)
所在地秋田県大仙市角間川町字西中上町19
指定区分国登録有形文化財(建造物)
登録年月日平成28年(2016)11月29日/第85回登録
登録番号05-0212
登録基準造形の規範となっているもの
建築年代明治33年(1900)
構造及び形式木造平屋一部2階建、鉄板葺
建築面積396平方メートル
員数1棟
造り手設計:小峰興義/監督:米澤重蔵/棟梁:寺嶋庄右衛門
所有者大仙市
公開状況4月下旬~11月中旬公開。9時~16時(最終入館15時30分)、月曜休館、入館料無料
問い合わせ大仙市文化財課(電話 0187-63-8972)

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)旧本郷家住宅主屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00011236
文化遺産オンライン 旧本郷家住宅主屋
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/245351
大仙市 登録有形文化財 旧本郷家住宅
https://www.city.daisen.lg.jp/archive/contents-11562
大仙市 旧本郷家住宅の一般公開について
https://www.city.daisen.lg.jp/archive/contents-9764

最終更新日: 2026.07.22